ジョジョの奇妙な冒険5部に登場した暗殺チーム。キャラクターの名前はイタリア料理や特産品に由来していました。
そこで今回は暗殺チームの名前の元ネタから、イタリア料理とその歴史について学んでみます。
リゾット・ネエロの元ネタ「イカすみリゾット」
リーダーのリゾット・ネエロは「イカすみリゾット」の意味。米は10世紀にリゾットの出身地であるシシリー(シチリア島)にもたらされた食材です。リゾットに使用されるのは日本米より粒が長めでかたく、粘り気の少ない長粒米になります。イカすみの料理はイタリア北部のジェノバやヴェネツィアが有名どころ。2部でジョセフが食べたパスタでもお馴染みですが、シチリアじゃないのね…!
イカすみ料理が特産ではなくとも、海に囲まれたシチリア島ではまぐろやメカジキなどの海産物が親しまれています。特にマグロは煮込みやカツレツなど肉料理感覚で使われるので、シチリアの肉の消費量は少ないのだとか。温暖な気候であることから、オレンジ、レモン、花のつぼみの塩漬けのケッパー、オリーブオイル、ワインなどの生産もさかんです。
シチリア島はかつてローマ、ギリシア、アラブ、ノルマン、フランスなど様々な民族の支配を受けた歴史があり、遺跡はもちろん食文化にもその影響が残されています。クスクスや香辛料を使った料理とかね。後述しますが、ジェラートもアラブ諸国からシチリア島経由で広まったデザートなのだそう。イタリア料理の歴史を語る上で、超重要な場所なんですね~!

ホルマジオの元ネタ「チーズ」
ホルマジオの名前の由来と考えられるのは、「チーズ」を意味するフォルマッジオ。イタリアでは地域ごとに牛、水牛、ヤギ、ヒツジの乳を用いた数多くのチーズが生産されています。熟成方法や製法も様々なものがありますが、ここではジョジョにゆかりのあるチーズを見ていきます。
まずは「チーズの歌」やトニオさんの料理、ナランチャが食べたがっていたマルゲリータの具材でお馴染みのモッツァレラ。5部の舞台ナポリのあるカンパニア州原産のフレッシュチーズです。11世紀頃に水牛がアラブ諸国からシチリアを経由し、南イタリアに渡ってきたことをきっかけに作られ、12世紀頃の文献には「モッツァ」「プロヴァトーラ」などの名前で登場しています。現在は水牛ではなく、牛の乳を使うことが多いのだとか。
「チーズの歌」の2番に登場するゴルゴンゾーラは世界三大ブルーチーズのひとつ。アオカビを用いたチーズで、ロンバルディア州ゴルゴンゾーラ村で誕生したことが名前の由来です。ゴルゴンゾーラ村はアルプスに放牧した牛を追い下げる時の中継地点で、休憩した牛たちの乳でチーズを作ったことが始まりとされています。味わいは辛口のピカンテ、クリーミーでマイルドなドルチェの2種類で、ドルチェの方が人気が高いそう。
最後はポルポの話で登場したスカルモルッツァ。モッツァレラと同じ製法で作られたチーズから、水分を抜いたものになります。燻製したものはスカルモルッツァ・アフミカータといい、見た目はこんな感じ。
By Thomon - Own work, CC BY-SA 4.0, Link
表面が黄金色なのが特徴的ですね~!燻製前に紐でつなぎ合わせるため、ヒョウタンのような形が楽しいチーズです。温めて食べるものが多いですが、そのまま食べるフレッシュタイプもあります。
チーズの起源はメソポタミア文明の地、クロアチア、古代エジプトなど様々な説がありますが、イタリアにチーズが伝わったのはローマ帝国がギリシャを支配した紀元前150年頃。ギリシャ人のチーズ作りの技術を取り入れ、ペコリーノ・ロマーノのようなチーズを食していたと言われています。

イルーゾォの元ネタ「イリュージョン」
イルーゾォの元ネタと思われるのはイタリア語のillusione。イリュージョン、幻想、錯覚などを意味する単語です。食材じゃないんかい!と言いたくなりますが、イリュージョンとイタリアとの関係に少し触れてみます。
イリュージョンの起源は古代エジプトの奇術にさかのぼることができます。当時はカップと玉を使い、カップ内の玉が瞬間的に他のカップに移動したり消えたりする奇術が楽しまれていたそう。今でもお馴染みのマジックですね~!こちらは古代ローマでも親しまれていたらしく、玉とボールの代わりに小石や杯が使われていました。
1世紀頃にはテュアナのアポロニオスという魔術師が、結婚式で消失奇術を披露。宴そのものを消し、魔法で客を追い払ったのだとか…!なんでそんなことした…?ローマ皇帝の前では体を紐で厳重に縛らせ、布をかぶせられた短時間の間に抜けて消える技も見せたとのこと。どこまでが本当かは不明ですが、いずれにせよマジックらしきことが行われていたようです。
ただしキリスト教が盛んになると、教会が魔術に批判的だったために奇術の類は禁止に。奇跡に見えるトリックは処刑された例もあり、この流れは17世紀頃まで続いたそうです。イリュージョンにも長~~~~~く様々な歴史があるんですね~!

プロシュートの元ネタ「生ハム」
プロシュート兄貴の元ネタは「生ハム」で、プロシュートの語源は「とても乾燥した」の意味を持つ「prae exsuctus」。人間が干からびたような姿になるスタンド能力にぴったりでした。
生ハムとは豚肉を塩漬けにして作られたもの。古代ローマ時代以前に冬の間の食物確保のため、豚肉の足を乾燥、熟成させたことが起源です。現在、特に有名なのはエミリア=ロマーニャ州のパルマの生ハム。パルマは海風を受ける湿気の多い地域のため、最小限の塩分を加えて製造されます。パルマの生ハムと名乗ることができるのは、ターロ河とバカンツァ河に囲まれた地域での生産、法律で決められた飼料を使うなど、産地と品質保証のDOP保証を受けたもののみ。厳しい…!
もうひとつ有名なのが、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州のサン・ダニエーレの生ハム。こちらも大型の豚を使用するなど厳しい規定があります。豚肉を押しつぶしながら熟成し、熟成期間はパルマに比べて短め。生産者、生産量ともにパルマよりも少ない生ハムです。
パルマ、サン・ダニエーレの生ハムはどちらも北イタリアの特産品。兄貴も北イタリア出身だったりして…!?

ペッシの元ネタ「魚」
ペッシの元ネタは「魚」ですが、海に面したイタリアは海産物の宝庫!まぐろ、かれい、すずき、いわし、舌ヒラメなど様々な種類を楽しむことができます。特にマグロは、卵巣はボッタルガ(からすみ)に加工するほか、内臓、血合いなども余すことなく食べるそうです。
川や湖沼の多い北イタリアではウナギ、鯉、マスなどの淡水魚でも有名。イタリアのうなぎは2000年前から養殖してされていたのだとか!古代ローマの技術、すごい。調理方法も串焼き、煮込み、揚げなど、日本ではなかなかお目にかかれないものばかりです。
イタリア料理ではイカやタコを使うのも特徴的。他のヨーロッパではイカやタコは悪魔の魚として敬遠されることもあります。そういえばティッツァーノのトーキング・ヘッドは、悪魔とタコが合体したような姿でしたね…!タコは5部と関連が深いらしく、ジョルノは好物として「タコのサラダ」も登場。あとアバッキオパイセンに「このタコッ!」って怒られてた。

メローネの元ネタ「メロン」
メローネはメロンの意味。イタリアでは主に果肉が白とオレンジ色のメロンが使われています。
ジョジョファンが気になるメロンネタといえば「プロシュート・ディ・パルマ」。生ハムとメロンの組み合わせた前菜ですが、その始まりはなんと古代ローマ時代!当時は冷たく水分のある食べ物と、温かく乾燥した食べ物という真逆の組み合わせが健康に良いとされ、フルーツと塩漬け肉と一緒に食べていたそうです。子供を誕生させるメローネ、老化させるプロシュートも能力的には真逆ですよね…!
ただ一説によると、イタリアに甘いメロンが伝わったのは15世紀末頃。古代ローマ時代のメロンは、甘みが少ないタイプだったことになります。現在は甘みと塩気を楽しむ料理ですが、当時はもっとウリ感の強い味わいだったんじゃないかな~…WRYYYY…

ギアッチョの元ネタ「氷」
ギアッチョはイタリア語で「氷」の意味。古代ローマ時代には皇帝ネロが雪、果汁、ハチミツを混ぜたものを食したり、ローマ皇帝が雪に風を当てて涼をとっていたそう。氷そのものを作るというより、自然の雪、氷の利用が原点だったんですね~!
雪や氷は山間部や凍った川や湖から集め、藁や枝とともに詰めて都市部へ運んでいました。到着後は氷室や藁などとともに深く掘った穴に入れるなど、解けない工夫がされていたそうです。17世紀頃にはヨーロッパ各地で個人所有の氷室が増加。18世紀には街中に大きな氷室が造られ、氷売りが出現するようになりました。
5部の舞台であるナポリでは、19世紀初頭には40人以上の氷売りがいたと記録されています。氷売りには価格や違法売買の禁止、夏期のみ販売可能などのルールが定められた地域もあったようです。

ソルベとジェラートの元ネタ「ソルベ」「ジェラート」
ソルベとジェラートの元ネタは、名前そのままのデザート。特にジェラートはイタリアの名物としても有名ですが、その歴史を紐解いてみます。
ジェラートの歴史の始まりは古代ローマ時代。先述したように、当時は山頂などから運んだ雪に果汁や砂糖、ハチミツをかけた「ドルチェ・ビータ」を食していたそうです。9世紀頃にはアラビア人がシチリアにシャーベットを持ち込んだことで、氷の保存方法やフローズンドリンクの「シャルバータ」を作る技術が発達します。「シャルバータ」は名前を「ソルベット(=イタリア語で「ソルベ」)」と変えてさらに発達。果物やナッツを混ぜたものが作られ、シチリア島の名物「カッサータ」誕生につながったのだとか。シチリア、食の宝庫すぎんか?
16世紀になると芸術家で建築家でもあったベルナルド・ブオンタレンティが、メディチ家の祝賀会のために牛乳、蜂蜜、卵黄、ワインを含んだクリーミーで冷たいデザートを考案。これがジェラート誕生の瞬間といわれています。
17世紀にはシチリア出身のシェフ、フランチェスコ・プロコピオ・デイ・コルテッリが、パリにカフェをオープンしてジェラートを提供。イタリア国内では18世紀には家庭で親しまれたり、ジェラート屋台が登場するなどさらなる広まりを見せていたようです。チョコレート、ピスタチオ、レモン、ベリー類などのフレーバーが楽しいジェラートですが、こんなに長~~~い歴史があったんですね~!

まとめ:暗殺チームの名前の由来からは、イタリア料理の歴史が楽しく学べる!
暗殺チームの名前の由来から、イタリア料理への理解を深めてみました。
肉、魚からデザートまで様々な歴史があるイタリア料理。日本でお馴染みの食材でも、イタリアでは品種、調理法などから独自の料理が生まれるのも面白いところです。
そしてシチリア島が民族支配や地理的条件により、様々な料理の歴史と関わっていたのも印象的。イタリア料理好きにはたまらない場所ではないでしょうか。リーダーも実はグルメだったりして…!?



参考文献
佐野嘉彦(2018年)『ツウになる! チーズの教本』秀和システム
シルヴィア・ラブグレン(2017年)『メロンとスイカの歴史』原書房
高木重朗(1988年)『大魔術の歴史』講談社
長本和子(2008年)『いちばんやさしいイタリア料理』成美堂出版
西尾智治(2007年)『専門料理全書 改訂 イタリア料理』辻学園調理・製菓専門学校
日本アイスクリーム教会「世界のアイスクリームの歴史」https://www.icecream.or.jp/iceworld/history/world/(2025年6月24日確認)
日本経済新聞「4千年で実現 アイスクリーム誕生に至る探求の物語」https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62309260V00C20A8000000/(2025年6月24日確認)
日本ジェラート協会「ジェラート豆知識」https://italiangelato-kyokai.com/?page_id=5233(2025年6月24日確認)
雪室推進プロジェクト「世界と日本、雪や氷を利用した歴史」https://yukimuro.jp/history/h01/(2025年6月24日確認)
EATALY「The Story of Prosciutto e Melone」https://www.eataly.com/us_en/magazine/culture-and-tradition/history-of-prosciutto-melone(2025年6月24日確認)
EATALY「What is Prosciutto? Everything You Need to Know 」https://www.eataly.com/us_en/magazine/culture-and-tradition/what-is-prosciutto(2025年6月24日確認)