数多くの親子関係が登場するジョジョの奇妙な冒険では、息子と父親との衝突、確執などが描かれています。
今回は男性キャラクターと父親との関係に焦点を当てながら、彼らが父親の愛情を求める理由を考察してみました。
1. 父親の愛情を求めなかった仗助とジョセフの親子関係
まずは仗助、ジョセフ親子についてです。いや~~~~良かったね~!ハッピーエンドでしたね~!
仗助は最初からジョセフを受け入れていたのでも、愛情を求めたわけでもありません。むしろ会いたくね~な~と乗り気でなかった仗助クン。なんせ東方家は父親がいない状態でも家庭内のバランスがとれていたわけで…良平じいちゃんが亡くなっても、仗助が朋子さんを支えるつもりで、他人の介入を必要とはしていなかったはずです。
それでも親子関係が改善したのは、仗助が中身で人を評価する人間だったからですよね~…物欲まみれの仗助クンですが、父親が不動産王でラッキー!という描写はありませんでした。それは今まで東方家を放置したジョセフに簡単に懐きたくはないというプライドはもちろん、お父さんたるもの男が憧れるカッピョイイ存在であって欲しかったんじゃないかな~…良平じいちゃんが仕事に熱い男だったように、男が惚れる男でないとなびかないよね…
一度はジョセフを拒否するような素振りさえ見せた仗助クン。でも透明な赤ちゃんを救い、引き取るほどの黄金の精神を見せたジョセフは、ダメなところもあるけれど悪くない父親くらいの評価には変わったはずです。不動産王であろうがなかろうが、仗助が認める男だからこそ関係が改善したんでしょうね~!でも金持ちならより良いよね。息子にはお小遣いくれてくもんよねェ…

2. シーザーの親子関係に見える父親マリオに求めた愛情と安全
仗助親子に一見近そうなのが、シーザー親子のパターン。父親の家出で荒れまくったシーザーが、名もなき青年のために犠牲になった姿を見て、血統に誇りを持つほど変わりました。父親の死を無駄にすることなく生きたいと、その後の人生の指針にすらなったんじゃないかな…
ただし仗助はジョセフの人柄を知らなかったのに対し、シーザーは父親を理想の男としています。
荒木飛呂彦(1989年)『ジョジョの奇妙な冒険』10巻 集英社(49頁)
仕事ができる、家族愛がある、頼れると三拍子そろったカッピョイイお父さん。だからこそ失踪という予想外の行動には大きなショックを受けただろうし、生活は苦しくなるし、俺が憧れた気持ちを裏切りやがって!とも思ったんでしょうね~…
つまりシーザーが父親に抱いた怒りは、安全な環境、愛情を保証してもらえなかったこと、そしてかっこいいはずの父親がそうではなかったという失望があったからこそ。逆に「やっぱり父さんは最高!」と見直せるような出来事があれば、関係が復活できる可能性が十分に残されていたのではないでしょうか。それが息子のために犠牲になる事件だったのがなんとも切ない…
ということでシーザーの親子関係からは、息子は父親に憧れ、愛情、安全を求めていることが伺えそうです。シーザーはマリオを「ブッ殺してやる!」と意気込んでいましたが、きっと殺せなかったんじゃないかな~…理想のお父さんであれば、そう簡単には嫌いになれないよね。あの虹村兄弟だって父親を完全には憎めなかったんだもんな~…肉の芽だけに(やかましいわ)

3. 父親ダリオとの親子関係が生んだディオの攻撃性の高さ
安全という話に関連して、今度はディオの親子関係を見ていきます。貧困に苦しんだディオはダリオの死後、貴族のジョースター家に引き取られ多大な支援を受けていました。安全な環境に置かれていたはずですが、それでもジョースター家の財産を狙い続けたのは、貧しかった過去はもちろん、周囲を敵視し続けたからでもあるはず。
ダリオからの暴力や暴言を受ける描写があったディオは虐待の被害者といえますが、そんな環境に置かれた場合、脳はこんな風に育つそうです。
社会性は生まれながらに完全に備わっているものではない。何年もかけて、身につけていくものである。その最初の基礎を教えるのが親であり、家族である。人間は、幼い頃から、他人とうまくやっていく方法を学んでいく。親は子どもに、自分で食物を得たり身を守ったりすることよりも前に、協調性や信頼など、社会生活を送るためのスキルを教えていく。
(中略)
それなのに、児童虐待の環境は、そのスキルを身につけるための学習をさせてくれない。微笑みかけても無視される。泣いても誰も来ない。何かすると怒られる。愛情を与えても返ってくることはなく、努力は実らない。愛することを学習するどころか、親から受ける悲しみや痛みから逃避するスキルを身につけてしまう。こうしてできあがるのが、敵ばかりの世の中で生き残っていくための脳である。友田 明美、 藤澤 玲子(2018年)『虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ』新曜社(144頁)
社会性を身につけないまま、敵だらけの世の中で生き抜くための脳になるとのこと。薬を渡してもグーパンチと酒瓶が飛んでくる家庭だったディオなので、集団生活に必要な社会性を学べないどころか、「世の中はみんな敵!ジョースター家も敵!」と脳内で警戒態勢を敷きまくっていたんでしょうね~…もちろん相手を信頼したり、愛情を享受する力もないよね。
チェスで金稼ぎをしてまでダリオに薬を買い与えたのは回復を願っていたからであり、「ありがとう」「愛してる」など感謝や愛の言葉もどこかで期待していたはずです。でも愛を与えても報われない家庭で育ち、攻撃性の高い脳の構造が生まれる中で、ダリオに愛よりも憎悪を抱き、優しいジョースター家すら敵視するようになったんでしょうね~…犬さえもアウトだからな、ディオは…
そして人間をやめるまでになったディオの話

4. なぜディエゴは親子関係が描かれなかった父親ダリオを恨むのか
ディエゴもディオのように貧困家庭出身ですが、イギリス競馬会の貴公子と呼ばれていたので、生活に困ってはいなさそうです。もう家族のことなんて忘れているのでは…?と思いきや、ホット・パンツがダリオの情報を持っていると知った途端、目の色を変えて共闘を受け入れるまでに。父親への複雑な思いが感じられますよね~…
そんなディエゴは父親とこの世への恨みつらみをこう述べていました。
そしてDioは成長すると共にこう自分に誓いを立てた『あの「男」は必ず探し出して復讐してやると!』『そして父親のわからない子供を生んだからといってただ傍観していただけの無関心な農場のヤツら!お前らはただ母親を見捨てた』『母と自分を捨て去ったどこかにいる父親も!農場の領主も!決して許さないッ』『どいつもこいつも!有罪だ!』荒木飛呂彦(2005年)『STEEL BALL RUN』6巻 集英社
お母さんが大好きで、もっと一緒に楽しく過ごしたかったんでしょうね~…なんせ息子を愛した母親だもんな~…その母親の死亡で「誰も助けてくれなかった」「父親が見捨てていなければこうならなかったのでは」と他人と父親への怒りが生まれたわけですが、脳科学的にはかなり自然な成り行きのようで…子供の自立にはこんな過程があるそうです。
乳児期を過ぎても、子どもは不安を感じると、愛着者(※一般的には親)にしがみつく。しかし、成長とともに、こころにそのイメージを保持することができるようになる。つまり、愛着者が近くにいなくても、そのイメージを描くことによって自ら安心感を持つことができるようになっていく。危険が迫れば愛着者は遠く離れていても助けに来てくれるだろう。また、愛着者以外にも、同様の愛着行動をもって自分に接してくれる人がいることを学ぶ。愛着者の信頼する人は信頼できる。愛着者と同じ行動をする人は安心できる。愛着者でなくても、それらの人は自分を助けてくれる。同時に、ひとりで物事に対処していくスキルも身につけ、社会の中で他人と助け合いながら自立していくのだ。
※は筆者注
友田 明美、 藤澤 玲子(2018年)『虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ』新曜社(45頁)
子供は周囲の助けを得て成長する中で、親以外の人間にも信頼と安心感を持つようになるとのこと。でもディエゴの場合、この世の安全地帯は母親だけで、他人の優しさに触れたことはありませんでした。そりゃ~~~母親の死にはショックを受けるはずだし、安全地帯が失われた今、安心できる家庭を作る義務のあった父親を恨むわな…
つまりディエゴの父親への固執は愛情を求めたのではなく、安全確保をしてもらえなかった怒りと悲しみゆえではないでしょうか。母親の気高き精神を受け継がず、強烈な「奪う者」「飢えた者」となったのも、身の安全は自ら確保するしかないという生きる本能なのかもしれないですよね~…誰かに助けてもらえれば、黄金の精神を持てたのかもしれないよな~…

5. 息子ジョルノと父親DIOの親子関係と写真の意味
お次はジョルノとDIOの関係についてです。直接的な触れ合いはありませんでしたが、注目したいのは写真を持ち歩いていること。ジョルノの色々な感情が想像できますが、もしかしたらどこかで会えるかも…という期待で、顔を忘れないようにしているのかもしれないよね。そんなDIO様のピンナップがこちら。
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』47巻 集英社(103頁)
パパの血が濃すぎる。初期ジョルノにそっくり!
ここまで似ていれば気になるよな~!ジョルノは性格もパパ似。一般論はさておきジョジョでは性格は遺伝することが多いので、自分の上昇志向や強い自信の原点はどこなのか?もしや父親ではないか?と興味が生まれたのかもしれませんよね~!裏社会の道を目指すジョルノなので、父親が悪のカリスマであったことを少しでも聞いていたとすれば、ますます気になったりして…
人間みんな家系図、遺伝子など自分のルーツには興味があるもの。ジョルノもそんな好奇心から写真を所持していたのかもしれません。ポルナレフが自分たちが手をかけたDIOをどう語るのか、気になるよね…!

ジョルノが父親の責務を放棄したDIOを嫌わなかった理由
でもさ、どれだけルーツが気になったとしても、DIOを嫌っていれば写真なんか持ち歩かないわけで。荒れた家庭環境で育ちながらも「実の父さんがいてくれれば」「家庭を放棄するなんて」と、ジョルノにはDIOへのネガティブな感情の描写がありません。ディオらと同様に、父親が安全地帯を作る義務を放棄していたにもかかわらず、なぜDIOを恨むことがなかったのでしょうか。
ターニングポイントとなりそうなのが名もなきギャングを救出したことです。ギャングの計らいで他人からの扱いが一変した出来事でしたが、それは家庭や街中に安心して過ごせる場所ができたことでもあるよね。それがあまりに嬉しかったのか、自分を「この世のカス」と思い込んでいたのが、ギャングスターを目指し、アバッキオパイセンを毎度怒らせるほど堂々とした性格に…!
もはや他人やんけ!というほどの変わりようでしたが、もしジョルノの世界に安全地帯がなければ、それを保証しなかったDIOに恨みつらみを述べていたかもしれないよね。写真を持つのも、名もなきギャングがいたからこそだよな~!
ジョルノとアバッキオパイセンの仁義なき戦いの話

6. 愛情を求め続けるジョニィと父親との親子関係
最後はジョニィ親子の関係についてです。ジョニィはね~悲惨ですよね~~~…彼の心の叫びは、この一言に集約されていました。
荒木飛呂彦(2004年)『STEEL BALL RUN』1巻 集英社
「マイナスからゼロに戻したい=まず普通になりたい」ってことだもんな~…自分の足で歩いて、他人そして父親に愛されて応援されて…あとね、ジョナサンという本名を名乗りたい気持ちもあるんじゃないかな~!ジョニィは父親の前で本名のジョナサンを名乗るシーンがありました。
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』10巻 集英社
ところが作中ではジョニィとニックネームを使い続けています。本名を捨てるほど非情にはなれないけれど、使いたくもないのかもしれないよね…傷が深い…
結局ニコラス贔屓の父親と揉めて、実家を出ることにしたジョニィ。それでも彼はず~~~~~っと父親の愛情を欲していましたよね~…例えばこれ。
神様は間違えたんだ……………本当は兄さんの方じゃあなかった………連れて行かれるのはぼくの方だったんだ……ぼくが死ぬべきだったんだ…………だからきっと『借りは返せ』といつか『宿命』がかわりにぼくに追いついてくる 少しづつ少しづつ 「宿命」がぼくを気づかないうちにとり囲んで……ぐるぐると縛ってすぐに逃げられないように……そして希望で一瞬だけ喜ばせておいて…最後の最後でぼくを見捨てるんだ…誰も関心なんか払わない みんな見捨てる 観にさえも来ない
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』10巻 集英社
胸が痛むよね~…僕を見て!見捨てないで!レースを観に来て!という気持ちの裏返しですが、傍点までついた「観にさえも来ない」なんて間違いなく父親にも向けられたものだったはず。父さん愛してくれ~~~~~!というジョニィの慟哭のようでもあります。
でも「サイテーな父ちゃんなんてもう忘れちゃえよ!」と言えるほど、親子関係は一筋縄ではいかなくてね。ずっと父親の愛を求めるのには、ちゃ~んと理由があるそうです。
悲しいことに、子どもは外の世界に安心と信頼を求めることはしない。近所のやさしいおばさんに救いを求めたり、話を聞いてくれる保育士さんを親代わりにするようなことはない。
(中略)親が外の世界以上に危険な存在であっても、子どもは親(または主な養育者)に安全基地を求め続ける。子どもにとって親が世界のすべてであり、そこに愛着を持とうとするのだ。
友田 明美、 藤澤 玲子(2018年)『虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ』新曜社(49頁)
どれだけダメ親でも、子は親を愛そうとする気持ちを持ち続けるとのこと。父親に認められなかったジョニィがニコラスの形見を使ってまで優勝を目指すのは、父親を喜ばせたくて、愛が欲しくて、自分の世界の全てである家族を愛したいからではないでしょうか。
そう考えるとレース終盤に父親の姿を見て涙を流すのもわかる気がしますよね…きっとただの嬉し涙ではなく、怒りや今までの過去の感情など複雑な思いが含まれている上に、ジョニィの抱える傷がすぐに清算されるわけではないはずです。でも父親が見に来てくれたという事実は、マイナスだった親子関係を多少はゼロに近づけたのかもしれません。

まとめ:ジョジョの男性キャラが父親の愛を求めるのは憧れ、安定的な親子関係が築けなかったゆえ
ジョジョの男性キャラと父親との親子関係を考察してみました。
ジョニィらのように父親の愛を求め続けるのは人間的な本能である一方、ディオたちのように父親との関係がこの世への攻撃性や不信感につながるパターンもありました。ジョセフやシーザーのように一目置きたくなる魅力がある父親は、息子側から距離を縮めたい!という気持ちが生まれるようです。
それにしても父親との関係改善って難しい問題ですよね~…愛と憎しみが混ざり合うなど簡単に決着がつけられる問題ではなさそうですが、その点ジョセフはすごいよね。会うことに乗り気じゃなかった仗助クンにお小遣い奪われるほど遊ばれちゃうパパになるなんて…やっぱりジョセフはスペシャルなんだよな~!
ジョジョの親子関係はいつだって複雑…



参考文献
友田 明美、 藤澤 玲子(2018年)『虐待が脳を変える 脳科学者からのメッセージ』新曜社(49頁)