ジョジョの奇妙な冒険6部に登場するウンガロのスタンド「ボヘミアン・ラプソディ―」。「自由人の狂想曲」とも表され、アニメや絵画などのキャラクターを現実世界に実在させるスタンドです。
そんなスタンドで創り出したものには、美術関連のものもチラホラ…今回はボヘミアン・ラプソディーに登場する美術ネタについて、考察してみました。
1. ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」
まずはボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」についてです。こちらのシーンになります。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』12巻 集英社(174頁)
中央で女性が貝殻と共に登場していました。こちらの元ネタとなったのは、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」です。
あっ!サイゼリヤでよく見るやつだ!!!イタリア美術が鑑賞できる素晴らしいレストランよ…
またヴィーナスが歩いていたシニョール広場とは、「ヴィーナスの誕生」を所蔵しているイタリアのウフィツィ美術館のすぐ近く。つまり絵画から出てきたてのところを、カメラに撮られた…ということのようです。メディアの仕事早いな~!
「ヴィーナスの誕生」で描かれたもの
さて「ヴィーナスの誕生」に描かれたテーマについて、少しだけ触れてみます。
ヴィーナスとは海の泡から生まれた愛の女神で、中央の貝に乗った人物のこと。この生まれたばかりのヴィーナス(見た目は大人だけど)を、画面左側の西風の神・ゼピュロスとその妻で花と春の神・フローラが風を吹かせて岸辺に運んでいます。右側でヴィーナスを待っているのは、季節と時間の神・ホーラのひとりです。布をヴィーナスにかけようとしています。
また同じくボッティチェリによる「春(プリマヴェーラ)」も、ヴィーナスが描かれた作品です。
これもサイゼリヤに飾られていますね~!サイゼは柔らか青豆が美味しいんだよな~!(無駄な情報)
ど真ん中で赤い布を持っているのがヴィーナスです。向かってすぐ右にいるのがフローラ、そして画面の最も右端にいるのはゼピュロスになります。ゼピュロスが捕まえようとしているのは、クロリスという妖精で、ゼピュロスと結婚することで花と春の神・フローラになります。つまりフローラとクロリスは同一人物で、画面上では2人描かれている絵画なのです。ややこしや…
「ヴィーナスの誕生」がジョジョで登場したのは、荒木先生がイタリア美術好きだし、有名な絵だし、現実化したら面白いし…なんて理由ではないかな~とは思うのですが、6部は親子愛、姉妹愛、結婚のように愛の物語でもあるんですよね~!「引力、即ち愛!!」なんてアオリもあったし…
何気ないシーンですが、わざわざ愛の女神であるヴィーナスの絵が使われたのには、実は6部のテーマと関連した理由があるのかもしれません。
ボッティチェリの弟子とプッチの本
次に作者であるボッティチェリについて、ジョジョとの関連を考察してみます。注目したいのはプッチが初めてDIOと出会ったシーンです。この時に読んでいたのが「フィリッポ・リッピ」の本。これはボッティチェリを師と仰いでいたイタリアの画家、フィリッポ・リッピのことだと思われます。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(13頁)
そしてボッティチェリのパトロンだった人物のひとりの名前は、アントニオ・プッチ。息子であるジャノッツォ・プッチの結婚のために、ボッティチェリに「ナスタージョ・デリ・オネスティの物語」の制作を依頼した人物です。
By Sandro Botticelli - http://www.museodelprado.es, Public Domain, Link
またアントニオ・プッチの息子として、ロベルト・プッチという人物もいたそうです。ロベルト・プッチといえば、プッチ神父がジャンプ掲載時にこの名前で表記されたことがあったとか…だからこのプッチ家がプッチ神父の元ネタになっているのではないかな~と思います。
フィリッポ・リッピ、プッチ…とジョジョ関連の名前が色々連想できそうなボッティチェリ。もしかすると荒木先生のお気に入りの画家なのかもしれません。
プッチ家とプッチ神父については、こちらでも触れています~!
2. ゴッホの自画像
次にゴッホの自画像についてです。ゴッホはオランダの印象派画家である、ヴィンセント・ファン・ゴッホのこと。作中では自画像を何枚も描いていたと言われていましたが、ウンガロが現実化させたのは、耳を切り落とした後のゴッホでした。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』13巻 集英社(8頁)
このゴッホの元ネタはこちらの自画像。
By Vincent van Gogh- repro from artbook, Public Domain, Link
片耳にケガを負っているだけではなく、後ろのパイプの煙のモワモワ~としたところまで、ジョジョでは再現されています!細かい!
ゴッホの死とウェザー・リポートの負傷シーン
次にゴッホの死とウェザー・リポートの負傷シーンについてです。ゴッホは37歳で生涯を閉じていますが、その理由は自ら体に拳銃を撃ち込んだからとされています。そのため、ウェザー・リポートも拳銃で命を絶たれようとしていました。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』13巻 集英社(11頁)
ゴッホの死については他殺説もあるものの、精神的に不安定だったこと、弟・テオに手紙で人生を悲観する内容を打ち明けていること、拳銃で負傷後に戻った宿屋で「自殺を図った」と告白していることなどから、自殺説が一般的です。
また使用した拳銃が、自殺現場から発見されたこともその一因。犯人なら隠すよね~ということなのだとか。ちなみに拳銃は2019年に競売にかけられ、13万ユーロ(約1800万円!)で落札されています。
で、ウンガロが生み出したゴッホは「二発の弾丸を頭にうち込んだ」と言っていましたが、実際に撃ったのは胸部下なのだそう。致命傷ではなかったため、負傷後1日以上経過してから亡くなりました。
ゴッホの人生とポルポの刑務所に飾ってあった絵
ところでゴッホの絵は5部でも登場しています。ポルポが刑務所で飾っていた左の1枚です。
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』48巻 集英社(63頁)
こちらは「オーヴェルの教会」という作品が元ネタになっています。
By Vincent van Gogh - 6wEjLceQPXkTtA at Google Cultural Institute maximum zoom level, Public Domain, Link
また右の作品はポール・ゴーギャンの作品「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」です。
ゴーギャンはゴッホと共同生活を送ったことのある画家仲間でしたが、性格や芸術観の違いにより2か月ほどで同居を解消しています。この共同生活の破綻直後、ゴッホは自分の耳を剃刀で切り落としたことにより、精神病院に収監されました。そして入院中に耳を負傷した自画像を仕上げています。
だからウェザー・リポートが戦ったのは、精神的に不安定なゴッホなんですよね…よく手懐けられたな…
5部の美術ネタはこちらもどうぞ~!
3. ボヘミアン・ラプソディーの音楽的元ネタ
最後にボヘミアン・ラプソディーの音楽的な元ネタについても、少しだけ考察してみます。元ネタと考えられるのは、イギリスのバンドであるQUEENの曲「Bohemian Rhapsody」です。
で、この曲の出だしの歌詞を見てみると…
Is this the real life?
Is this just fantasy?
Caught in a landslide
No escape from realityQUEEN(1975年)「Bohemian Rhapsody」『A Night at the Opera』Elektra Records
「これは現実なのか 幻想なのか 地滑りに巻き込まれるように 現実からは逃れられない」のような意味ですが、スタンドの性質を表わしているような歌詞です。「現実からは逃れられない」なんて、ストーリーの結末通りになってしまうスタンド能力そのもの…!ヒィッ…!
途中のオペラのようなパートでは「小さい黒い人影」「スカラムーシュ(イタリア喜劇の道化役)」「ガリレオ」など、スタンドから出てきてもおかしくなさそうな内容が歌われていたり…ボヘミアン・ラプソディーは名前だけではなく、その能力もQUEENの「Bohemian Rhapsody」から由来していたのかもしれません。
まとめ:ボヘミアン・ラプソディーの元ネタはボッティチェリとゴッホ!曲も関連が深い!
ボヘミアン・ラプソディーの美術の元ネタについて、考察してみました。
物語の中でゴッホとボッティチェリの作品であることが明言されていましたが、どちらもこのシーン以外のジョジョにも関連のある画家でした。特にボッティチェリはプッチ家との関係は、ちょっと興味深いところです。そしてスタンド名の元ネタであろう「Bohemian Rhapsody」は、歌詞もスタンド能力を想像させるところがありました。
様々な元ネタが登場するジョジョの中でも、芸術系のネタが詰まっていたボヘミアン・ラプソディー。荒木先生の遊び心が見えるスタンドでした!
参考文献
Van Gogh Museum. “Vincent's Life, 1853-1890”. Van Gogh Museum. https://www.vangoghmuseum.nl/en/art-and-stories/vincents-life-1853-1890.
TRECCANI. “PUCCI, Roberto”. Vanna Arrighi. https://www.treccani.it/enciclopedia/roberto-pucci_%28Dizionario-Biografico%29/
6部ネタはこちらもどうぞ~!