荒木飛呂彦先生出演「日曜美術館 まなざしのヒント キュビスム」をレビューしてみた

ジョジョ美術

2023年12月24日にNHKで放送された「日曜美術館 まなざしのヒント キュビスム」に、ジョジョの奇妙な冒険の作者・荒木飛呂彦先生が出演されていました。

三浦篤先生と共に、キュビスムについて講義形式で展開された内容でしたが、今回は番組の内容をジョジョと絡めながらレビューしてみます。


1時間目:キュビスムとは

まずはキュビスムについて、ピカソ「肘掛け椅子に座る女性」(1910年)を見ながらの講義です。この絵、体と椅子の形や境目が非常にわかりづらいんですよね…荒木先生も「タイトルを見てもどこが椅子なのか…」と一言。そんな1枚からキュビスムが紐解かれます。

三浦先生:キュビスムの定義

三浦先生はキュビスムの定義や特徴について、3つの重要なキーワードを挙げながら解説されていました。

1つ目は「多視点」。キュビスムは上下左右など複数の視点から物体を捉えており、「肘掛け椅子に座る女性」の人物の顔も正面顔とも横顔ともとれる描き方です。これは「モナ・リザ」のような絵画と比べると一見リアルではないように見えますが、三浦先生曰く「多視点から見ることで、物体をより観察できる=よりリアルな物体の形を表現していると言えるのでは?」とのこと。た、たしかに…!

2つ目は「キュービック・幾何学的」。ピカソやブラックなどキュビスムの祖とされる画家は、キュビスム作品制作の目的を「形態の実験」としており、形や色彩を単純化して作品を作り上げていきます。ただ三浦先生によると「多視点で見たものを組み合わせていく作業をやり進めると、徐々にリアリティーを失っていく可能性があるのでは」とのこと。単純化したり幾何学的にしすぎて、何描いてるかわかんなくなっちゃった…といった感じでしょうか。

そこで3つ目のポイントとして登場したのが「触覚」。視覚だけで実験的に描かれていたキュビスムですが、質感表現を用いてリアリティーを表現するようになっていきます。だからキュビスムは人間の感覚をより広く活用しながら、進化していったということなのかもしれませんね~!

このようにキュビスムはリアリティーを追求した表現方法であり、物体の捉え方や図形のような描き方だけではなく、質感にも注目していたことがわかりました。キュビスムにも発展の歴史があるのね…

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荒木先生:キュビスムが放つ存在感と掻き立てられる想像力

今度は荒木先生が「肘掛け椅子に座る女性」を漫画家ならではの視点で捉えていきます。荒木先生はこの1枚の放つ存在感について指摘し、「インテリアを支配できる」と表現されていました。確かに家にあったら妙に目立つよな…この室内における強い雰囲気こそキュビスムらしさで「絵を買うならキュビスムを選ぶ」のだそう。

この荒木先生の絵画の見方ってキュビスムっぽいな~という気がしたんですよね~!美術館に展示されている絵画をそのまま見るのではなく、「家で飾った場合はどうなるか」という視点で考えるのは、ある意味多視点的な気もします。対象をどのように捉えるかという点において、荒木先生の見方はキュビスムに近いのでは…?

そしてピカソの絵画は、人物から複数の感情を想像させるなんてコメントもありました。確かに表情がクリアに描かれている絵画に比べて、怖そう、偉そう、影がありそう…など、人物のバックグラウンドに想像の余地を残しています。

このように荒木先生は、絵の放つ存在感、そこから生まれる想像力について講義されていました。三浦先生とはまた違った角度で読み解かれていましたが、読者に見られることを意識している漫画家だからこその視点ではないでしょうか。

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ジョジョにおけるキュビスムっぽさ:花京院による承太郎のデッサン

ここでジョジョにおけるキュビスム的な表現について言及してみます。注目したいのは花京院が描いた承太郎のデッサンです。


ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース:裁くのは誰だ!?. TOKYO MX, 2014-04-12.(テレビ番組)

超個性強いよな~~~~~!!!こういうロボットいそう…しかもこれすごい面白いんですよね~!

まず制服の上着を見てみると、肩から腹部にかけては逆三角形、左手首の袖や腹部から足元にかけては四角を中心に表現されています。首元の鎖は正円の単純化された形で描かれており、キュビスムの幾何学的さに通じるものがありそうです。全体的に平面的な作品ではありますが、鎖や制服は黄色と青を用いて光と影を表現することで、マットというよりツヤ感があることが示唆されており、素材感の表現とも共通点があるのではないでしょうか。

他にも腕のパーツごとにタッチが違ったり、鎖の大きさがバラバラだったりと、かなりクセが強い花京院画伯の絵。本物の承太郎より細く、写実性は高くはないものの、独特の雰囲気が目を惹く作品ですよね…この絵が「インテリアを支配できるか」と問われると微妙ですが、それでも妙な存在感を放っています。

そしてこの絵から連想されるのが、ピカソの「アヴィニョンの娘たち」(1907年)です。


By Pablo Picasso - Museum of Modern Art, New York, PD-US, Link

1907年はピカソがキュビスムの作品制作に取り組んでいた時期にあたります。NHKのサイトによると、この絵はキュビスム誕生のきっかけとなった1枚と考えるのが適切だそうですが、三角形などの図形を用いた人体表現は後のキュビスムの表現に通ずる部分であり、承太郎の体の幾何学的とも近いものがあるのではないでしょうか。

このようにジョジョにもキュビスムと共通点のありそうなシーンが登場しており、承太郎を描いた1枚は形、質感などの工夫が見られると言えそうです。しかし登場高校生にしてキュビスムを取り入れていたとしたら、とんでもないセンスだよな…

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2時間目:キュビスムの予兆

2時間目はキュビスムが始まるまでの話についてです。ここではピカソの「女性の胸像」(1907年)を基に講義が展開されました。こちらは「肘掛け椅子に座る女性」の約3年前に描かれた作品で、ピカソがキュビスムに本格的に取り組む前の絵と考えられています。

三浦先生:平面性、色彩、異文化がキュビスムにもたらした影響

三浦先生はピカソの「女性の胸像」と、ゴーギャンセザンヌの作品をはじめ、それ以前の時代の美術と比較しながら、キュビスムが生まれた経緯を紐解きます。さてゴーギャンやセザンヌはポスト印象派として分類されることもありますが、彼らの画風の特徴として平面性が挙げられていました。番組で取り上げられた1枚と同時期のセザンヌの作品を見てみると…


ポール・セザンヌ - wartburg.edu, パブリック・ドメイン, リンクによる

一応奥行きはあるものの写実的ではなく、シールをぺたぺた貼ったような平面的な画面です。右奥のビスケットらしき物体の造形は、かなり簡略化して描かれています。この描き方について三浦先生は「自然を幾何学的に単純化し、ひとつの形態として捉えていたのでは」とコメント。そしてピカソの「女性の胸像」の鼻に見られる幾何学的な形は、セザンヌの造形力の影響を受けた可能性があるとも指摘されていました。

さらにゴーギャンについても同時代に描かれた絵画を見てみると…


By Paul Gauguin - 1. pintura.aut.org2. Artsy, Public Domain, Link

全体的に光と影の対比が少なく、平面的ですよね~!色彩は明るいというより、ちょっとくすんでおり、黄、青、白、黒など色によって物体同士を区切りながら画面を構成しているイメージです。画面の雰囲気としては牧歌的であり、手前の3人の女性も素朴さを感じます。三浦先生曰く、この頃のゴーギャンは手紙で「私の中の野生の美」なんて言葉を用いていたことから、野生、素朴さを表現したかったのではないかとのこと。野性的な面を描きたかったのであれば、暗い色や田舎的な風景を描いているのも納得…ちなみにゴーギャンが影響を受けたとされる異文化は、南仏の田舎の風景、タヒチ島、日本の浮世絵などが挙げられています。

そしてこちらもピカソの「女性の胸像」と比較してみると…平面性はもちろん、白、青、黄などの色彩を上手く使いながらの画面構成という共通点が指摘されていました。「女性の胸像」の顔の表現にはアフリカの仮面の造形の影響が見られることから、異文化における野性や素朴さの表現をゴーギャンから吸収しているとも考えられるとのこと。

さらに19世紀のヨーロッパは、植民地を求めての海外進出や万国博覧会が開催され、異文化との接触が増えた時代であり、ゴーギャンやピカソが海外の影響を受けているのはそんな時代背景もあるのだとか。ちょっと補足をするなら、万国博覧会では浮世絵などの日本の美術品も出品されており、ゴーギャンをはじめとした画家に影響を与えたとされています。だから日本の文化も巡り巡って、キュビスムの発展にも寄与しているんですよね~!すげ~~~!

そんな訳でキュビスムはピカソから突然始まったのではなく、それ以前の時代の画家や他国の影響を受けているようです。異文化同士の交流がキュビスムを生み出していたんですね~!

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荒木先生:線や目の表現から生まれるキャラクター

荒木先生は「女性の胸像」の描かれ方や雰囲気について解説されていました。まず女性について「座っているだけなのにポージングがあるのがすごい」とコメント。「胸が上に描かれて強調されているようで、独特なキャラクターに感じる」「振り向きのポーズにも横向きにも斜め前の角度にも見える」などの指摘もされていました。不自然さゆえに個性的な雰囲気を醸し出していますよね…わかる…

また荒木先生は漫画との違いにも言及されており、漫画は「読者に目線を合わせて描く絵が多い(と言いながら、ナチュラルに承太郎の指差しポーズをとる荒木先生)」のだそうです。確かに中途半端な目線の承太郎の1枚絵って見たことないよな…で、この読者を直視するような目線は漫画などでは良いとしても、飾る絵画としては怖さがあるのではとのこと。目線で絵のパワーを加減できる、とも言い換えられそうです。

さらに細かな描き方について「目を黒や茶で描き、視点も定まっていないことは、色々な感情を想像させる(荒木先生は「感情のキュビスム」という言葉で表現)」「鼻の長いラインが独特」「頬のピンクや口元を見るに可愛らしい人なのでは」「背景の金色はオーラや光ではないか」「首、顎の青いラインが効いており、神秘性を感じる(荒木先生曰く「これ描けないっスよ!」)」という指摘もありました。これを聞いた三浦先生も「呪術的なものを感じる」とコメント。言われてみれば、宗教画っぽくも見えてきます。

以上のように、荒木先生は線や表情に着目してピカソの1枚を紐解かれていました。めちゃくちゃ楽しそうにコメントしていた荒木先生でしたが、目の付けどころはやっぱり漫画家ならではですよね~!

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辻彩との約束を守れなかった山岸由花子との共通点

今度はジョジョの話について触れてみます。さてピカソ「女性の胸像」を見て思い出したのが、山岸由花子が辻彩のエステに通っている最中の1コマです。なんとなく雰囲気が似てない…?


荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』38巻 集英社(34頁)

顔が崩れてしまい、康一くんと一緒にいたいけどいられない由花子ちゃん。恋愛に取りつかれた狂気と悲しさを感じる1コマではないでしょうか。

この異様な雰囲気の一因は恐らく目。目の白と黒が反転しているゆえに感じる不気味さというか…リゾットも似たような目ですが、あの配色だからこその只者ではなさがありますよね~!目の表現って本当に大事よ…

そして感情に注目してみると…こちらの1コマは前後のストーリーがあるがゆえに、悲しみ、康一くんへの強い愛情など、由花子ちゃんの感情を拾って読むことができます。でももし独立した1枚絵であったとしたら…寂しさ、切迫感、不気味さ、頑固さなど、様々な感情を想像させるのではないでしょうか。それは荒木先生の言う「感情のキュビスム」にも通ずるところがあるように思います。

ということで由花子ちゃんの1コマは、「女性の胸像」とのポージングはもちろん、独特な目を含む表情から読み取れる感情の多様さにおいても共通点があるのかな~という気がします。しかしこの1コマ、本当怖いよな…不気味な迫力ある…

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3時間目:キュビスムから現代アートへ

最後はピカソやブラックからスタートしたキュビスムの広まりについての講義です。ここではロベール・ドローネー「パリ市」(1910-12年)を見ながらの解説でした。中央にはヌードのギリシャやローマ神話に登場する3人の女神である「三美神」が描かれています。


ロベール・ドローネー - Photograph by Coldcreation, パブリック・ドメイン, リンクによる

三浦先生:ピカソたち以降のキュビスムの変化

三浦先生は、ピカソたち以降のキュビスムの変化とその内容について触れていました。さてピカソたちのように形に注目したキュビスムは数年で終焉を迎えたものの、後世の画家は形態以外の工夫も重ねながら独自の画風を追求していったそうです。そんな変化を「パリ市」から読み解いてみると…

ここでは四角などで構成された神話の世界の三美神と、リアルなモチーフであるエッフェル塔や橋がそのままの形で同画面上に描かれています。またピカソたちは主に形態に注目してキュビスムを探求してきたのに対し、「パリ市」は形だけではなく、対照的に用いられた色彩が目を引きます。この形や色、モチーフの対峙のさせ方が、独特の画風となっていますよね~!

この「パリ市」を描いたドローネーを含むピカソ以降の画家たちは、形態を重視したキュビスムの手法や様式と、自分の個性や新しさとの融合を試みながら作品を制作していたようです。そしてその流れは今日の現代アートにまでつながっているのではないかとのこと。三浦先生はキュビスムを「現代アートの起爆剤」とも表現もされていました。

つまりキュビスムは短期間でのみ発生した美術ではなく、今も脈々と受け継がれていると考えられそうです。ほ~~~!現代アートまで繋がるなんて面白いな~~~!!って思うでしょ…?でもこの後の荒木先生のお話がさらにぶっ飛んでいたのです…

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荒木先生:「キュビスムの子孫」だった荒木先生

荒木先生の講義は「パリ市」や現代までのキュビスム、ジョジョとの関連についてです。

まず荒木先生は「パリ市」について「三美神が回転しており、その回転が空や風景と一体化し融合して、それをまた分解した絵なのでは」とコメント。そういえば荒木先生は前回の日曜美術館でも、三美神の回転について言及されていましたね…!そして分解と融合の作業により時間の流れや歴史が生まれるのでは」とも仰っていました。風景を分解してリズミカルにすることで、時間の流れを感じるのだそうです。

でもさ、回転を感じるというのは三次元的な感覚であって、荒木先生は時の流れまで感じているということは…キュビスムは三次元どころか四次元の世界を表現できる地点に到達しているとも考えられるのではないでしょうか。すげ~~~~~!!!

ここでピカソの絵を振り返ってみると…「アヴィニョンの娘たち」は発表当時、「四次元的」という言葉で非難されていたんですよね~…こんなところにもピカソが出てくるとは…やっぱりピカソなど最初期のキュビスムの影響って強いんだろうな…

そして「自分も仕事でキュビスムを描いている」と9部の1コマを公開する荒木先生。空に変身出来るスタンド(※The JOJOLands10話以降に登場)の1シーンでした。荒木先生によると「風景、鳥、雲を一緒に描きたかった」とのことで、その中に人の形が現れています。

描くプロセスとしては「建物なども含め、融合して分解」「分解して雲と一体化させようとしていた」と、もろキュビスムの手法を用いていたそうです(「結構難しいんスよ」だそう)。そんな仕事に取り組んでいた時に、キュビスムの番組のオファーが来たのだとか。なるほど、キュビスム使いは惹かれあうってことか。

笑いに包まれながら盛り上がる中、三浦先生は荒木先生を「キュビスムの子孫」と命名。荒木先生も自ら「子孫かもしれない」と仰っていましたが、ピカソから荒木先生までのキュビスムの系譜があるのかもしれないですよね~~~…ってもろジョジョっぽい話やないか。荒木先生は誇り高きキュビスムの漢だ、その血統を受け継いでいるッ!

まさかの荒木先生までキュビスム使いだったことが判明してしまった今回の日曜美術館。思わず三浦先生が「キュビスムの波及効果がすごい」と仰るほどで、影響力の大きさが伺えます。しかしNHKもすごいタイミングでオファー出したよな~…

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キュビスムにおける感情表現

最後に感情とキュビスムとの関係について、両先生のコメントがありました。まずコンスタンティン・ブランクーシの「接吻」(1908年)に注目した荒木先生は、「愛情しか伝わってこない」「愛情は人間の基本なのではないか」「人間の根源的な幸せを感じる」とコメント。愛情はジョジョでも頻出のテーマですが、もし人間の基本であるなら、やっぱりジョジョは人間くさい漫画だな~とあらためて感じますよね~…「人間」賛歌って言葉も使われるくらいだからな…

でもこの作品って、形は単純化していても、ピカソやドローネーほどキュビスムっぽくないんじゃ…という気もしますが、三浦先生によれば「人間の根源にさかのぼろうとした前衛的な精神が受け継がれているのでは」とのこと。ピカソの「女性の胸像」でも話に挙がった感情面の表現など、人間の根本的な部分の表現において、キュビスムと共通するところがあるのかもしれません。なるほど。司会の小野正嗣さんは「石だけど温かい」とコメントしていましたが、本当にそんな温もりを感じます。

このようにキュビスムは形態に注目して始まったものの、質感、色彩、感情など、表現を多様化させながら現代まで引き継がれていると言えそうです。なかなか奥が深いよキュビスム。

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山岸由花子のキスシーンにおけるキュビスム的な感情表現

3時間目で取り上げた作品と関連しうるジョジョのシーンにも触れてみます。さてブランクーシの「接吻」で思い出すのが、由花子ちゃんと康一くんのキスシーンです。

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』38巻 集英社(24頁)

主題やお互いが抱き合ってキスをするポージングにブランクーシとの共通点がありますが、元ネタはクリムトの「接吻」だと思われます。

この1枚が描かれたのは1907~1908年で、ピカソがキュビスムに取り組もうとしているあたりの時代の1枚です。ただし女性の顔は表情がはっきりと描かれ、キュビスムらしい顔ではないですよね…平面性はキュビスム以前の画家として挙げられたゴーギャンなんかと似てるんだけどね…

でもね感情という面で考えるならば、これこそ愛情しか感じない1コマじゃないですか、荒木先生!!!だってあのキャラが濃い露伴先生なんかただの背景なんだぜ…?この岸辺露伴…こんな屈辱は初めてだ…

2人の表情からも幸せが伝わってくるこの1コマ。良かったね~~~~由花子ちゃん!!!と思わず言いたくなるシーンですよね~~~~!先程の「接吻」について「愛情しか伝わってこない」とコメントしていた荒木先生ですが、先生も描かれていますよ!!!とお伝えしたくなるほど温かなシーンではないでしょうか。

キュビスムの画風にドンピシャではありませんが、同時代に活躍した画家がを幸福さを表現した絵画が元ネタ…と考えると、人間の根源的な感情の表現という点では、ジョジョの中でもキュビスムらしい精神の1枚なのかもしれません。というか由花子ちゃんがやたらキュビスムっぽいのかもしれない。「山岸由花子はキュビスムになる」なのね…

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まとめ:キュビスム使いが惹かれあってしまった荒木先生

荒木先生がご出演された日曜美術館の講義をまとめてみました。

同じ絵について三浦先生と荒木先生で全く違う視点から解説されており、それぞれの面白さを感じる番組だったのではないでしょうか。様々な角度から1枚の絵を見ることで、より深く知ることができる機会だったようにも思います。

しかしキュビスムを描いていたらキュビスム番組のオファーが来るなんて、そんな偶然ある…?あんなのみんな笑うやんけ!!!そんな番組じゃないのに…日曜日の朝から奇跡を起こしてしまった荒木先生。また出演してほしいな~!

参考教材:
NHK「キュビスムの系譜」よりhttps://www.nhk.jp/p/nichibi/ts/3PGYQN55NP/blog/bl/p70PrXddo7/bp/pjJJ6zNz3j/(2023年12月28日確認)

日曜美術館 :まなざしのヒント キュビスム. NHK, 2023-12-24. (テレビ番組).

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