ジョジョの奇妙な冒険3部に登場したイギー。SPW財団に連れられて、旅の途中から合流した犬のスタンド使いです。
合流当初はDIOを倒す目的があった訳ではなかったイギーですが、なぜ最後まで脱走することもなく、ジョースター御一行に同行したのでしょうか。考察してみました。
1. イギーは承太郎たちをどう思っていたのか?
まずはイギーと承太郎たちの関係について考えてみます。合流直後から髪をむしったり屁をかましたり…とやりたい放題だったイギー。承太郎にも従順そうな顔を見せたフリをして、結局これ…
荒木飛呂彦(1991年)『ジョジョの奇妙な冒険』20巻 集英社(142-143頁)
遊ばれてるな~~~~!人をからかったり、勝手につまみ食いをしたりと承太郎たちを翻弄するイギーですが、脱走することだけはしませんでした。
なんだ~やっぱりイギー従順じゃ~ん!と言いたいところですが、そもそもイギーは大金持ちの家から脱走して野良となった犬。その理由も「人間のことを大マヌケと思うようになった」からです。スピンオフにもその辺りのことが書かれていましたが、飼い主がダメだったんだろうな…
でももし人間に呆れなければ、恐らくイギーは脱走しなかったはずです。だってイギーの信念ってこれだもの…
荒木飛呂彦(1991年)『ジョジョの奇妙な冒険』24巻 集英社(73頁)
顔面に屁をこくやつの台詞ではない。絶対トラブルになるでしょ!!
でも平凡な人生を望んでいるからこそ、大マヌケでない限り、イギーは見知らぬ土地で脱走なんて無茶はしないのではないでしょうか。…と考えると、承太郎たちはイギーにとって大マヌケではなかったのかもしれません。
ナメた行動をとるものの、イギーは承太郎たちに脱走するほど呆れている訳ではないようです。もしかしたら捕獲時にアヴドゥル辺りが上手いことイギーの心を掴んでいたりして…出来る男・アヴドゥルだし…
ボストンテリアゆえのイギーの性格
次にイギーの犬種から性格を考えてみます。承太郎たちになんだかんだで人懐っこいイギーですが、その理由は犬種にも関係がありそうです。
イギーの犬種はボストンテリアですが、こんな性格の傾向があるのだとか。
特徴的な温和な性格は「アメリカ犬界の紳士」という異名をもらっています。人なつこく、愛嬌があり、優しい性質です。相手を傷つけることを好まず、人間との交わりを好みます。しかし、自分の問題は自分で解決すると言われるほど頑固な一面もあります。
イギー、おまえ屁をこく紳士だったのか…!!!
ボストンテリアという犬種の性格から、イギーは本来人と関わるのが好きな犬だった可能性があります。だから承太郎たちと一緒にいることも、嫌ではなかったのかもしれません。
考えてみれば、イギーは「人に心を開かない」と言われていたものの、人を避けている訳ではありませんでした。オインゴ・ボインゴ戦では車内で静かに座っていたり、子供を庇ってペット・ショップと戦ったり…アニメでは花京院が入院する病院で看護師たちの囲まれても大人しくガムを噛み、ポルナレフが近寄ってくると顔に飛びついて屁をお見舞い。なんだかんだで人と接触の多いが多いですね~!
ボストンテリアゆえの性格からか、人との距離が近く、承太郎たちにも自分から関わっているイギー。人間に心は開かなくとも、少なくとも承太郎たちのことは脱走したくなるほど嫌いな相手とは、思っていなかったのかもしれません。
2. イギーをペット扱いしなかった承太郎たち
次に承太郎たちから見た、イギーという存在について考えてみます。
プロフィールに自分のスタンドについて「スタープラチナと互角と思っている」とあることから、スタンドにかなりの自信を持っていることが伺えるイギー。だからこそペットのように「人間に飼われている犬」という扱いではなく、「人間と同格あるいはそれ以上」の待遇を望んでいたのではないでしょうか。
そして承太郎たちはイギーをペットではなく、1匹のスタンド使いや仲間として扱っていました。この辺りをもう少し見ていきます。
イギーのスタンドの強さを認めていた承太郎たち
まずスタンド使いとしてのイギーの扱い方を見てみます。自身のスタンドに誇りを持つイギーですが、承太郎たちもザ・フールの強さは認めているようです。
例えば初めてスタンドを見せた際に、承太郎は「シンプルなやつほど強い」「自分に殴れるかどうか」と発言。そしてアヴドゥルはポルナレフに「おまえには勝てない」と忠告していることからも、スタンド能力への評価が高いことが伺えます。
またDIOの館ではイギーがケニー・Gを倒した後には、イギーのプライドをくすぐる発言が…
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(37頁)
上手いね~~~~!さすがアヴドゥルさん!
わざわざ「イギーがやっつけたぞ」と言っている辺り、褒め上手ですね~!アニメ版ではこのアヴドゥルの台詞の後に「フンッ」と鼻を鳴らし、そっぽを向いて得意気でした。
自信のあるスタンド能力を高く評価されたイギー。特に承太郎のようなスタンド使いにも称賛されたことには、きっと気を良くしたはずです。犬と見下すのではなく、人間と対等に評価してもらえたことは嬉しかったのではないでしょうか。
イギーは心が通った大事な仲間だった
次に1匹の仲間としてのイギーの扱われ方を考えてみます。イギーは人間の言葉で会話できる相手ではありません。しかし物語が進むにつれて、承太郎たちもコミュニケーションをとろうとしている様子が見てとれます。
例えばペット・ショップ戦後に花京院と合流する場面では、花京院がイギーの身に起きたことを通訳のように説明していました。
荒木飛呂彦(1991年)『ジョジョの奇妙な冒険』24巻 集英社(157頁)
初対面では「助っ人になれる訳ない」と辛辣だった花京院ですが、きっと旅路で少しずつ絆を深めていたんでしょうね…大事な仲間だったからこそ言葉を話せないイギーの様子を見て、一生懸命読み取ったのが伺えます。
そしてDIOの館に突入する前のシーンにも注目したいところ。アヴドゥルがイギーとポルナレフを諭すシーンです。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(28頁)
イギーのためにわざわざ体をかがめるアヴドゥルさん。優しいね~~~~!でもこれはイギーも大事な仲間だと認識していたからこその行動です。だから生きのびることが出来たら「イギーにも夕食をおごる」と約束までしたのだと思います。
承太郎たちと徐々に距離を縮めて、大事な仲間として扱われるようになったイギー。イギーもそんな承太郎たちの様子に気づき、リスペクトを感じていたからこそ、最後まで仲間としてついていったのかもしれません。
3. イギーはなぜヴァニラ・アイス戦でポルナレフを庇ったのか
最後にヴァニラ・アイス戦におけるイギーの戦いぶりを考察してみます。トラブルのない人生を望んだはずのイギーですが、なぜポルナレフのために身を挺してまで戦ったのでしょうか。
まずヴァニラ・アイス戦までのポルナレフとイギーについて考えてみます。初対面から髪をむしられたり屁を食らったり…と3部メンバーで最も遊ばれていたポルナレフ。イギーに「ド畜生」「クソ犬」と散々な言葉で怒っていましたが、本気で嫌っていた訳ではありません。むしろとても大事に思っていたはずです。
その気持ちが伺えるのが、ペット・ショップ戦後にイギーがケガを負って現れたシーン。アニメ版では、ポルナレフが真っ先にイギーに駆け寄っているのです。
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース :地獄の門番ペット・ショップ その2. TOKYO MX, 2015-04-18.(テレビ番組)
きっとイギーのことを大切に思っているからこその行動だったんだろうな…
しかしペット・ショップ戦前には「たまたまジョセフ達といるだけなのに、戦うのはごめん」と、イギーに戦闘意欲はありませんでした。それがヴァニラ・アイス戦では、なぜポルナレフを庇うまでになったのでしょうか。
ヴァニラ・アイスに一矢報いるために戦ったイギー
まずイギー自身のプライドのためであることが考えられます。ポルナレフもイギーがかばった理由を「つっぱった性格のため」と考えているように、イギーは素直なタイプではありません。だからポルナレフに「俺を助けるな」と言われたところで、従うような犬ではないのです。
でもなぜ従わなかったのか。それはイギーのプライドが許さなかったからではないでしょうか。砂人形作戦を見抜かれ、ヴァニラ・アイスに「ド畜生」と罵倒されて蹴り上げられたイギー。アニメオリジナルとして、こんな台詞まで追加されています。
DIO様は仰った。「人間の覚悟の力には侮れぬものがある」と。だが貴様は所詮ゲスな犬コロ。覚悟など、誇り高き魂など微塵もないッ!
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース :亜空の瘴気 ヴァニラ・アイス その2 . TOKYO MX, 2015-05-16.(テレビ番組)
イギーを「犬だから」という理由で見下しています。こんな台詞を言われて、イギーが黙ってる訳ないよね~~~!実際、イギーはこの台詞の後に「ヘッ」と言いながらニヤリと笑うのです。もちろんヴァニラはブチギレたけど…
で、この笑いは何なのか。色々な解釈が出来そうですが「全然分かってねーな」「見下したことを後悔させてやる」のような意味は含まれているのではないかな~と思います。「誇り高き魂など微塵もない」と言われていますが、イギーがポルナレフを庇った後にはこんな風に言われていました。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(154頁)
ずっと仲間だったポルナレフには「誇り高い」と映っていたのです。だから常にプライドを持ち、ポルナレフを庇ったほどの覚悟で戦いに挑んでいたイギーからすれば、ヴァニラ・アイスの台詞は呆れるほど的外れだったのかもしれません。
自分のことを犬と言う理由だけで馬鹿にしていたヴァニラ・アイス。そんな相手に見下されたまま終われるほど、プライドのないイギーではありません。イギーの性格と強い覚悟があったからこそ、ポルナレフを庇ったのではないでしょうか。
イギーのポルナレフたちに対する借り
もう一つは、ポルナレフたちに借りを返すためであることが考えられます。
まず先ほどの蹴り上げの最中に、イギーはポルナレフに対して借りを作ります。瀕死のイギーを見たポルナレフは、チャリオッツを出してまでヴァニラ・アイスの攻撃を中断させました。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(96-97頁)
このポルナレフのおかげで、イギーは一命をとりとめたと言っても過言ではありません。
また館に入ってすぐに、イギーはアヴドゥルにも命を助けられています。「助けない」と約束したのに、イギーたちを庇ったアヴドゥル…でもこの決死の行動で、イギーは仲間意識を強く感じたのではないでしょうか。
「平和な人生を送りたい」と願っていた頃のイギーであれば「死ぬ方が悪い」と非情でいられたのかもしれません。しかし旅を通じて承太郎たちと絆を深めた後では、ドライにはなれなかったんじゃないかな~…某マンモーニのように、まさにアヴドゥル兄貴の覚悟が「『言葉』でなく『心』で理解できた!」のだと思います。
2人に大きな借りのあるイギーとしては、いくら「仲間を助けるな」と忠告されも助けられっぱなしで終わるのは、プライドが許さなかったはずです。だからこそ借りを返し、ヴァニラ・アイスに一矢報いる意味でポルナレフを助けたのではないでしょうか。
まとめ:イギーはその性格と仲間の意識から承太郎たちに同行していた
イギーが承太郎たちの旅から脱走しなかった理由を考察してきました。
強力なスタンド使いが揃うパーティーの中で、ただの犬ではなく「スタンド使いの仲間」として扱われたイギー。自分が出会ってきた大マヌケな人間とは、一味も二味も違う扱いを受けていたのではないでしょうか。だからこそ自分のプライドを仲間のために使ったのだと思います。
人間には決して心を許さなかったはずだったイギーですが、承太郎たちには少しだけ心を開き、仲間だと思っていたのかもしれません。だから昇天の時には、わざわざアヴドゥルの肩に乗っていたんだろうな~。
よかったなイギー!優しい人間(不動産王と占い師と不良とゲーオタとお調子者)に出会えて…!
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