【スタンド論】ヴァニラ・アイスの「クリーム」を深読み!

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険3部「スターダストクルセイダース」に登場した、ヴァニラ・アイス。DIOの忠実な下僕であり、最強スタンドとしても名前の上がる「クリーム」の使い手でした。

ではヴァニラ・アイスのスタンド「クリーム」はどのようにして生まれた能力なのでしょうか。ヴァニラ・アイスの性格や過去から考察してみました。

同じくガオン系の億泰の「ザ・ハンド」の考察はこちら。

【スタンド論】虹村億泰の「ザ・ハンド」を深読み!
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1. スタンド「クリーム」とは

ヴァニラ・アイスの「クリーム」は、口の中に含んだものを全て暗黒空間に送るスタンドです。

攻撃する時には、口の中にまずヴァニラ・アイス自身を入れ、さらにクリームの脚から順に入れていき、透明な球状の姿になります。球状の時は、通過した部分が全て粉微塵になって消えてしまいます。例えるなら、超高性能ルンバのような感じです。

ルンバにクリームの顔貼りつけとけば、めっちゃゴミ取れるようになりそう(取れません)

2. なぜヴァニラ・アイスからクリームが発現したのか

ではなぜヴァニラ・アイスからクリームのようなえぐいスタンドが発現したのか。
その容姿と能力をヴァニラ・アイスの人物像から、考察してみます。

DIOへの狂信

クリームは攻撃時に、ヴァニラ・アイスとスタンド自体を口の中に入れてしまい、その間は視界はありません。外を確認する際は、口から顔を覗かせています。
この「視界がない」=「周りが見えない」というのは、恐らくヴァニラ・アイス自身のこと。

ヴァニラ・アイスはDIOに絶対的服従を誓っている、いわば狂信者です。そしてDIOは人間を殺害して吸血するなど、自分の目的のためには手段を選ばない人物でした。しかしヴァニラ・アイスはそれを「悪」と疑うこともなく、崇拝しています。
この盲目的にDIOに仕える様子が、クリームの「視界が見えない」ことに繋がっているのではないでしょうか。

自分を「隠す」ということ

クリームは攻撃時に、ヴァニラ・アイス自身を口の中から取り込んでいますが、それはまさにヴァニラ・アイスを「隠す」ようです。

ところなぜ自分自身を「隠す」のでしょうか。

ヴァニラ・アイスの強さはスタンド能力はもちろんですが、その強すぎる忠誠心にあります。ポルナレフはこれを「執念」という言葉で表現していました。

荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(116頁)

そしてヴァニラ・アイス戦の終盤に、クリームが円の軌道を描いてポルナレフ目がけて通過しようとする時、ポルナレフは「やつの執念勝ち」と言って死を覚悟しました。逆にこの「執念」がなければ、勝てたかもしれないとも言える強さです。

でもヴァニラ・アイスってこの忠誠心以外、何もないんですよね…
DIOへの強い服従心を持った部下ですが、それ以上でもそれ以下でもなく…それだけがただ描かれている。

その一方で、他のDIOの手下は性格面が細かく描写されています。
女好きで2番手が好きなホルホース、気弱で兄を慕うボインゴ、弱い立場の者をいじめて楽しむ陰湿なアレッシーなどなど…

しかしヴァニラ・アイスは「自分がない」=「DIOなしでは存在出来ない」キャラクターでした。そう考えると、ヴァニラ・アイスはDIOという存在に守られているように見えてきます。
クリームは「スタンド自体がDIOで、その中に隠れるように入るヴァニラ・アイス」のように、ヴァニラ・アイスがDIOに庇護されている様が表れているスタンドだったのではないでしょうか。

3. ヴァニラ・アイスの過去を深読みしてみる

ヴァニラ・アイスはDIOに狂信的になった理由が分からなかった人物です。それは過去や心の弱さなどが描かれていなかったからでした。

しかし他の部下のようにそれぞれ願望や弱さを持っており、そこに漬けこまれてDIOの手下になっているはず。
そこでヴァニラ・アイスの言動とスタンドから、過去や内面を考察してみました。

異常な暴力行為と発言の理由

まず注目したいのが、イギーへの蹴りつけとポルナレフの腕をへし折るシーンです。

イギーはスタンド「ザ・フール」で砂人形のDIOを作るもバレてしまい、DIOの姿を破壊させたことにヴァニラ・アイスが激高しました。
ここではまず砂人形を作ったイギーに怒り、何度も蹴りつけます。その姿だけでも異常ですが、気になったのはこのセリフです。


荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(95頁)

自分が蹴るのは悪くないと、自分の行為を正当化しています。その蹴り上げも、ポルナレフがシルバーチャリオッツで背後から襲わなければ、もう少し続いたかもしれません…

さらに脳幹を釘刺しにされた直後、ポルナレフの腕をへし折る場面ではこんな発言も…


荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(112頁)

なんだろう…やられたからやり返すというより「悪い腕」なので折ってやる、みたいな…そんな台詞に聞こえます。敵を「倒す」というより、敵を「罰している」ようです。

この一連の言動から、虐待っぽさを感じてしまって…暴力の正当化とか、罰として暴力を奮うとか…

なんだかヴァニラ・アイスって、実はかなりヘビーな過去の持ち主な気がしてきます。

本当に虐待されていたとしたら

では「ヴァニラ・アイスが本当に虐待を受けていたら」と仮定して、考察してみます。

まずこの記事によると、親から虐待を受けた子が、自分の子に虐待する確率は30%以上だそうです。結構高い。
ヴァニラ・アイスにもし虐待の過去があったなら、彼自身同じ行動に出る可能性も十分あり得ます。

そしてヴァニラ・アイスが親と同じ行動に出てしまっていたとしたら…

とある虐待事件の容疑者となった親が、虐待した理由についての解説でこんな一文がありました。

こういう親は、虐待の事実を頑として否認し、少々「行き過ぎ」の行為があったにせよ、あくまでもしつけのためであり、愛情からやったことだと自己正当化する。
しかも、わが子を「恩知らず」とののしり、罪悪感を抱かせようとすることもある。これは、先ほど述べたように自分は正しいと思い込んでいるからだ。この思い込みのせいで、何かうまくいかないことがあると他人のせいにするわけで、責任転嫁の対象がわが子であることも少なくない。

引用: 東洋経済ONLINE 「子どもを攻撃してしまう親」の悪しき共通点 この手の親は何をしても変わらない

この太字部分をヴァニラ・アイスの行動に置き換えてみます。

・「自己正当化」=「わたしを怒らせたキサマが悪い」「この腕がおれを刺した悪い腕か」のセリフ
・「自分は正しい」=DIOに忠誠を誓うこと、そのためにポルナレフ達を倒すこと
・「何かうまくいかないこと」=DIOの砂人形に騙されかける、脳幹を刺される
・「責任転嫁の対象」=イギー、ポルナレフ(の腕)

結構というか、かなりしっくり来ますね…

だから思うんですよね、ヴァニラ・アイスの過去こそ暗黒だったんじゃないかって…あんな能力なのはそんな理由なのかな…

「自分」がないヴァニラ・アイス

ヴァニラ・アイスの内面についても考えてみます。
作品で描かれているヴァニラ・アイスの内面は、DIOへの強烈な忠誠心を持った部下で、それだけが重点的に描かれました。

だからこそ、DIOに頼りにされれば嬉しいし、DIOを侮辱すればブチ切れる。DIOにジョースター御一行の相手を任されて、部屋から出ていくシーンなんかめちゃくちゃ嬉しそうじゃないですか?


荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(25頁)

親愛なるDIO様の館の内装をぶち壊していくほどなんて…ウキウキ感がすごい。ちょっと可愛い(小声)。

緊張感のある戦いが続くところなので、あえて異常な忠誠心を描いて怖さ倍増を狙ったのかもしれません。
しかしそれにしても、ヴァニラ・アイスにはそれ以外ないんですよね~。「自分」がない状態というか。
ちなみに、虐待されていると「自分」が持てなくなることがあるそうです。

 

で、本当に「自分」がなかったら。
「自分」がないと、いずれ自分が何者かが分からなるし、他人はあるはずの「自分」が自分にないことへの悩みや孤独を感じるはず。そしてDIOはその心の弱さにつけ込んで、「自分は味方だ」とでも伝えたのかもしれません。
ヴァニラ・アイスにしてみたら「初めて自分の味方になってくれて嬉しい!」と喜んだであろうし、狂信的になるのも納得出来ます。

やっぱりヴァニラ・アイスって、ちょっと過去に何かあったんじゃないかな…

クリームの能力とヴァニラ・アイスの過去

ヴァニラ・アイスのクリームは、攻撃中に完全に姿を消してしまいます。その様子についてDIOもこんな風に表現していました。

荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』26巻 集英社(25頁)

そして姿だけではなく、アヴドゥルの炎の探知機にも、イギーの鼻にも感知できないほど、気配まで完全に消えていました。

かなり強力ですが、この「姿・気配を消す」能力はどこから来たのか。
ジョジョに登場するスタンドは個人の過去、性格、行動が具現化したものがたくさんあるので、ヴァニラ・アイスもそれらに由来していた可能性があります。

「姿・気配を消す」というのは、他人から気づかれないようになることです。
それがヴァニラ・アイスの経験や行動に基づくものだすると、やっぱり散々考えてきたように、過去に暗い経験があったんじゃないかな…というところに繋げられそうなんですよね~…他人から気づかれなくなるというのは、人の言動の対象にならず、傷つかなくて済むようになることでもあるし…

「外を覗く」必要があるのはなぜか

ではそれがどんな暗い過去なのか、もう少しヴァニラ・アイスとクリームの能力を繋げて考えてみます。

まずクリームは攻撃中に姿を消しますが、この間は相手からの攻撃を受け付けません。つまり「入っている限り傷つかない」=「安全な場所」とも読み替えられます。
この外から身を守ることが出来るというのは、「何かに守られたかった」願望の表れなのではないでしょうか。ここまでの考察で言えば、「何か」は「親」ということになります。

さらにクリームの攻撃時は姿を消すだけじゃく、視界が奪われ、時々外の様子をチラッと覗かないといけないんですよね。
これが両親の喧嘩が怖くて見たくなくて部屋の中に籠るんだけど、もう終わったかな、まだ隠れてなきゃかな…とチラッと覗く子供にそっくりに見えてしまって…
そう思うと、両親も不仲だったりして…なんて考えてしまいます。

もしかしたらクリームの「攻撃時の無敵」「外を見る」は、外を見たくて見ているというより「安全な場所に引きこもって自分を守っていたいけど、外の世界から身を守るために外を見なくてはいけない」ことの名残なのかもしれません。


実際に何があったのか分かりませんが、親子仲、両親仲が結構悲惨だったんじゃないかな…ヴァニラ・アイスって…

まとめ:ヴァニラ・アイスの「クリーム」からは強い忠誠心と悲しい過去が見えてくる

ヴァニラ・アイスのスタンド「クリーム」について、考察してみました。
強力な能力を持つクリームですが、その能力からはDIOへの強い忠誠心と、語られなかったヴァニラ・アイス自身の過去が垣間見れました。

荒木先生が「描いていて嫌になった」と仰っていたヴァニラ・アイスですが、そんな名悪役は能力だけでなく、きっと過去もヘビーだったはず。
ヴァニラ・アイスも色々大変だったんだろうなぁ…と思える能力でした。

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