ジョジョの奇妙な冒険6部に登場したウェザー・リポート。終盤では強力なスタンド「ヘビー・ウェザー」を発現させた人物でした。
6部でも重要な位置を占めるウェザー・リポートでしたが、今回はウェザー・リポートのスタンドの意味や元ネタついて考察してみます!
※6部のネタバレが一部あります!
1. ヘビー・ウェザーの虹とカタツムリの意味
まずヘビー・ウェザーの虹やカタツムリについて、考察してみます。スタンドは精神が具現化した能力ですが、これらの現象とウェザー・リポートの精神にはどのような関係があるのでしょうか。
天候で表すウェザー・リポートの気持ち
まずウェザー・リポートの精神面について、見ていきます。ウェザー・リポートは天候を操る能力ですが、6部において天候は心境を表す言葉として使われていました。例えばこちら。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(45頁)
何この詩的なたとえ…切なさすぎる…
他にも「春の日差しのような恋」「そよ風」なんて例えがありましたが、絶望と怒りに溢れたウェザー・リポートの心の天気は、土砂降りのはず。暴風大雨警報でも出ていそうな荒れ模様の訳で…
それでも虹が発現したのは、「雨がやんで虹が出て欲しい=自分が絶望や怒りから解放されたい」気持ちがあるからではないでしょうか。だからこそ自殺未遂もしていたのだろうし…
本当はぺルラに会いたい、でも叶わないからこそ死んで全てから解放されたい。そんなウェザー・リポートの気持ちが、虹となったのかもしれません。
ウェザー・リポートにとっての虹の意味
そして虹が持つ意味合いや象徴からも考察してみます。6部はキリスト教的なモチーフや話が取り入れられていましたが、虹のキリスト教における意味を見てみると、こんな感じ。
半円形をして現れる美しい光の現象である虹は、天と地、神と人間を結ぶ通路であり道である。虹は、一度破棄されたのちに、再び結ばれた契約のしるしである(創九:十二~十七、エゼ一:二八、黙四:三)。
ミシェル・フイエ(2006年)『キリスト教シンボル事典』 白水社(127頁)
注目したいのは「天と地を結ぶ道」「破棄されたのち再び結ばれた契約」の部分。これをウェザー・リポートに当てはめてみると…
まず「天と地」は、ウェザー・リポートがいるこの世と、ぺルラのいるあの世を連想させます。ぺルラに会いに行きたいというウェザー・リポートの気持ちが、2人を結ぶかけ橋としての虹を発現させたと捉えられそうです。
さらにウェザー・リポートとぺルラの恋は、悲劇により終わりが告げられました。それでもウェザー・リポートとしては、一度は終わってしまった恋を再び復活させてぺルラに会いたかったはず。その気持ちは「一度破棄されたのちに、再び結ばれた契約」の部分と重ねることも出来そうです。
このように考えると、虹はウエザー・リポートの気持ちが具現化しただけではなく、ぺルラと繋がりたいという気持ちを象徴していたのではないでしょうか。切なすぎる…
ヘビー・ウェザーのカタツムリの意味
次にカタツムリについて考えてみます。まずカタツムリの象徴や意味について、調べてみたところ…
全世界的に、月のシンボルで、周期的な再生を表す。カタツムリは、月が現れたり隠れたりするように、その触角を出したり、引っ込めたりするからである。永劫回帰のテーマである、死と復活を表す。
ジャン・シュヴァリエ (1996年)『世界シンボル大事典』大修館書店(229頁)
ほ~~~~~!!!なんかめちゃくちゃ6部っぽい。
この意味をウェザー・リポートに当てはめてみるなら、「死と復活」はぺルラの死と復活を望む気持ち、自身の記憶の復活…などが考えられそうです。
また「月」や「永劫回帰」はプッチを連想させられます。永劫回帰は今までの経験が何度も、永遠に繰り返されることで、時の加速や一巡と近い言葉です。
もしカタツムリに意味があるのだとすれば、それはウェザー・リポートの人生、そして兄・プッチと関わりがあるのかもしれません。ウェザー・リポートとプッチは双子なので、どこかシンクロしている部分がある…という意味もあったりして…
プッチとウェザー・リポートのスタンド比較
カタツムリやプッチの話が出たので、今度はウェザー・リポートとプッチのスタンドを比較してみます。
同時にスタンドが発現した2人ですが、その能力はかなり対極的なんですよね~…ぺルラの死に影響された能力ですが、プッチはその死を記憶に留められ、未来を変えようとする力を持ちました。それもその良し悪しはさておき、人間の幸福のために使った能力です。
一方、ウェザー・リポートはその死を断ち切れず、あの世との繋がりを連想させる虹を発現させます。さらにカタツムリ化させて、世の中に壊滅的な被害を与えていましたが、気になるのがこの記述。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(146頁)
「太古の記憶か、または原始の本能のせいか」の辺りは、人間の過去を連想させる説明です。が、この一文はどう解釈すべきか、難しいところ。う~~~~ん…
ひとつ考えられるとすれば、人間などの脊椎動物の祖先が、ナメクジウオと呼ばれる生物だからなのかもしれません。ナメクジウオはナメクジとは別ではあるものの、ナメクジをうにょ~~~~んと細長くしたような姿で、ちょっとだけ似ています。で、カタツムリの貝が退化したのがナメクジ…とすれば、「太古の記憶か~」の一文は、人間が過去の姿に近づいていくのがカタツムリ化、という意味なのかもしれません。
このようにプッチとウェザー・リポートは兄弟でありながら、スタンドが似ていないどころか、真逆の性質すら感じさせます。とはいえ、無差別に変化を及ぼすという点では同じ。育った環境は違うはずですが、こんな共通点は兄弟ならではなのかも…!?
プッチとウェザー・リポートの比較は、こちらもどうぞ~!
2. ヘビー・ウェザーを止めたかったウェザー・リポート
次にウェザー・リポートと、ヘビー・ウェザーの解除について考えてみます。注目したいのは、プッチとの決着がついた後にアナスイに殺しを頼むシーンです。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(130頁)
カタツムリ化を自分では制御出来ないから…とのことでしたが、さすがのアナスイもびっくり。でもなぜこんなことを頼んだのでしょうか。
まず記憶が戻ったことによる自殺願望の復活が考えられます。神父を殺すのが生きる希望と発言していましたが、それが終わったら生きがいがなくなってしまうのかもしれません。ただ自分じゃ死ねないから頼むぜ~という気持ち。
そしてもう一つは徐倫たち仲間のためにも、ヘビー・ウェザーを止めたかったからという理由です。ウェザー・リポートはカタツムリの現象について、こんなことを言っていました。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(130頁)
気持ち的には「スカッとする>気の毒に思う」のようで…ただ怒りの対象である世の中をボロクソに出来る力があっても、心から「スカッ」となれないのがウェザー・リポートなんだよな~!だって元々、純粋で正義感にあふれた人なんだもの…!
そして何より徐倫たちに被害が及ぶことこそ、ウェザー・リポートには心苦しいはず。共闘する仲間という感覚はもちろん、皆と過ごしたかけがえのない思い出もあったんじゃないかな…F・Fの回想でも楽しい時間に加わっているし…
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』10巻 集英社(70頁)
顔見えないな。多分、笑顔のはず…多分…
だからもし徐倫たちのような仲間がおらず、記憶だけが復活していたら、他人に「殺してくれ」と頼んでいたかどうか…人生ヤケクソな状態なので、世界中がカタツムリでもいいや~ガハハ!とか言いかねない気もします。
こんな風に考えるとウェザー・リポートが殺しを頼んだのは、記憶が戻ったことに加えて、徐倫たちのことを大事に思う気持ちがあったからなのかもしれません。
なぜウェザー・リポートはアナスイを選んだのか
そして殺し役にアナスイを選んだ理由についても、考えてみます。その場にいたから…と言えばそれまでなのですが、仮に徐倫が隣にいたとして、殺しを頼むかは微妙な気がするんだよな~!あまりに酷なお願いだし。
その点、アナスイは…ねぇ…
なんせ殺人犯だもの。手際よく分解してくれそう。
それはさておき、ウェザー・リポートは、アナスイを自分の理解者だと思っていたからではないかな~と思います。例えば徐倫たちにウェザー・リポートの気持ちを代弁するアナスイは、こんなことを言っていました。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』16巻 集英社(43頁)
この発言は、アナスイ自身が徐倫たちとの出会いを通じて「生き返った」からこそなんでしょうね~!
両親に人並みの情を持てないわ、浮気はされるわ、人は殺すわ…と、どこか人間関係が上手くいかなかったアナスイ。「ウェザー・リポートが抑えつけていないと、何をするかわからない」とまで言われていましたが、徐倫への恋を通して、仲間のためにその身を投げ出すまでになりました。そんな彼の変化に、ウェザー・リポートはきっと気づいていたんだろうな…!
一方のウェザー・リポートも、自分だけではなく、仲間のためにプッチを倒すと発言していました。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(134頁)
記憶が戻ったウェザー・リポートが、復讐だけではなく他人のためにも闘おうとするのは、徐倫たちを大切に思っているからこそ。そんな風に自分が「生き返った」ことを、仲間との出会いで変わったアナスイなら理解してくれるのではないか…そして仲間のためにカタツムリ化の被害が及ばないようにすることも、分かってくれるのではないか…ウェザー・リポートはそう思っていたのかもしれません。
ウェザー・リポートがアナスイに殺しを頼んだのは、度胸や手際の良さはもちろんですが、自分との共通点を見出したからこその人選なのではないでしょうか。
3. ウェザー・リポートのスタンドの元ネタについて
最後にヘビー・ウェザーの元ネタを考えてみます。
まず連想されるのが「三すくみ」。三者がお互いに身動きが取れない状態を指す言葉ですが、語源と関係するのが、カエル、ヘビ、ナメクジです。カエルはナメクジを食べてしまい、ナメクジはヘビを溶かしてしまい、ヘビはカエルを食べてしまう…と、この3匹ではお互いの得意・不得意が三角関係になってしまうことが由来。じゃんけんのようなイメージです。
三すくみは、時々浮世絵なんかに登場するモチーフでもあります。おっ、これは力士がカタツムリだ!
【江戸妖怪大図鑑/妖怪も相撲も好きという方へ】歌川貞秀「源頼光館土蜘蛛妖怪図」より、カエルとカタツムリの相撲。待ったなし!と言いたいところですが、よく見ると行司がヘビ。三すくみの状態で誰も動けず、相撲は永遠に始まらないのです。 pic.twitter.com/8YSrw03WsD
— 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (@ukiyoeota) July 15, 2014
そして6部ではホワイトスネイクのヘビ、ウェザー・リポートが発生させたカエル、カタツムリがいました。ナメクジはカタツムリに近い種…と考えると、三すくみに登場する生き物と共通点が伺えます。6部ではヘビを邪魔したのがカエル、カタツムリを止めたのがヘビ…と綺麗な三角関係は作れませんが、もしかしたら元ネタなのかもしれません。
そしてもう一つ連想したのが、伊藤潤二先生の「うずまき」に収録されている「ヒトマイマイ」。うずまきをテーマにした漫画なのですが、人がカタツムリになっていく様子が描かれています。それがもろヘビー・ウェザーなんだよな…ちょいグロですが、ホラー漫画が苦手でない方は、ぜひ画像検索を…!
伊藤潤二先生は飼い猫の本もめちゃくちゃ面白い。何度見ても笑えるギャグ系で超オススメ(ジョジョ関係ないやん!)
まとめ:ウェザー・リポートのスタンドは過去や仲間への思いと深く関係していた
ウェザー・リポートのスタンドについて考察してみました。
強力なスタンド能力ですが、その裏には辛すぎる別れが大きく影響していたのではないでしょうか。またヘビー・ウェザーを止めるために死を覚悟したのは、大事な仲間への思いがあったからなのかもしれません。
時に静かに、時に激しく荒れる…そんな感情を持っていたウェザー・リポート。そんな天候のような性格だからこそ発現したのが、ウェザー・リポートというスタンドなのかもしれません。
6部の記事はこちらもどうぞ~!
参考文献
ミシェル・フイエ(2006年)『キリスト教シンボル事典』白水社
ジャン・シュヴァリエ (1996年)『世界シンボル大事典』大修館書店
京都大学「ナメクジウオゲノム解読の成功により脊椎動物の起源が明らかに」https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/archive/prev/news_data/h/h1/2008/news6/080612_1