ジョジョの奇妙な冒険6部に登場したプッチ神父。DIOと交流があり、承太郎の記憶から天国に行く方法を読み取りました。
そこに登場したのが、天国に行くために必要な「14の言葉」です。今回はこの「14の言葉」の意味や美術、宗教ネタについて考察してみました。
※多少ストーンオーシャンのネタバレあります!
天国に行くための「14の言葉」とは
まずプッチが述べていた14の言葉をおさらいしてみます。
「らせん階段」……!「カブト虫」!「廃墟の街」!「イチジクのタルト」!「カブト虫」!………「ドロローサへの道」!「カブト虫」!「特異点」!「ジョット」!「天使」!「紫陽花」!「カブト虫」!「特異点」!「秘密の皇帝」!!
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』11巻 集英社(93-94頁)
声に出して読みたい日本語ですね~!!!サンタナさん、さあご一緒に!カブト虫!特異点!よろピくね~!
あかん、サンタナが天国に到達してしまう。
それはともかく、ランダムな言葉の羅列にも意味があるように見える14の言葉。DIOの生まれ変わりともいえる緑色の赤ちゃんは、この言葉に興味を示してプッチと融合しましたが、それぞれどんな意味を持つ言葉なのか、ちょっと考えてみました。
「ジョット」
まずは「ジョット」についてです。ジョットは恐らく13~14世紀にイタリア人画家、ジョット・ディ・ボンドーネのこと。様々な宗教画を描いた人物でもあります。
ジョットの功績は何と言ってもリアリティの追求です。それまでの宗教画ってこんな感じの絵が多かったんですよね~
Photographer: Myrabella -投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, リンクによる
全体的に平面的で、かなり形式的な感じもあるというか…
それがジョットはこんな感じに…!
ジョット・ディ・ボンドーネ - OgE-RDjvff-y6g at Google Arts & Culture, パブリック・ドメイン, リンクによる
なんということでしょう!より立体感があり、人間味も増した表現になったではありませんか…!人物に体温や息吹を吹き込み人間らしさを描いた、なんて言い方も出来るのかもしれません。
で、このジョットがジョジョとどんな関係があるのか、少し考えてみます。
ジョジョのイタリア美術ネタについては、こちらもどうぞ~!
「人間らしさ」とDIO
さて人間らしさを描いたジョットですが、「人間らしさ」から連想されるのがディオのこの台詞です。
荒木飛呂彦(1988年)『ジョジョの奇妙な冒険』2巻 集英社(62頁)
人間らしさを捨てて、吸血鬼となったディオ。赤ちゃんを容赦なく殺したり…なんて非道っぷりを見せていました。
でも3部のDIOになると、また人間らしさが見られるんですよね~…ほら…
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』14巻 集英社(133頁)
人間をやめると言いながら、どこか人間くささが捨てきれなかったDIO。だからこそ絵画に人間らしさを与えた「ジョット」という単語は、DIOの生まれ変わりともいえる緑色の赤ちゃんが、興味を持つように用意された言葉だったのかもしれません。
ジョットとプッチとジョジョの奇妙な関係
ところでジョットやジョジョと、「プッチ」という名前には奇妙な関係があるようで…ここでは2人のプッチという人物との関係に触れてみます。
1人目は詩人のアントニオ・プッチ。「韻文年代記」を書いた人物で、ジョットについては1337年に70歳で死去という記述がありました。イマイチ不明だったジョットの生まれ年は、この本から推定されています。
2人目は同姓同名だけど別人のアントニオ・プッチ。イタリアの画家・ボッティチェリのパトロンだった人物です。ボッティチェリといえば代表作は「ヴィーナスの誕生」ですが…
描かれたヴィーナスは、ウンガロ戦でも登場していました。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』12巻 集英社(174頁)
そしてボッティチェリを師と仰いでいたのが、同じくイタリアの画家のフィリッポ・リッピです。リッピと言えば、プッチが初めてDIOと出会った時に読んでいた本が連想されます。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(13頁)
…とプッチの名前からジョットだけではなく、様々なことが連想できる6部。まさに奇妙とも言えそうな関係性です。
「天使」
「天使」も西洋絵画にはよく描かれる題材で、先ほどのジョットにも天使を描いた作品があります。例えばスクロヴェーニ礼拝堂の「死せるキリスト」にも天使が登場していました。
By Giotto - Web Gallery of Art: ImageInfo about artwork, Public Domain, Link
天使は、神の使いとして伝言を運んだり、星を動かす役割を背負っています。
これをDIOやプッチに絡めてみると…DIOは「勝利して支配してする」ことだけが満足感と言っていた通り、この世を支配する神的なポジションを夢見ていたと考えられます。もしDIOが天国に到達して神となったとすれば、天使の役割を追うのは友であり、同じく天国を目指そうとしたプッチなのではないでしょうか。
DIOと共に打倒ジョースター家を目指すとすれば、それはある意味「星を動かす」とも言えそうなところ。こんなことから「天使」はプッチの比喩と考えられそうです。
「秘密の皇帝」
今度は「秘密の皇帝」についてです。「皇帝」は神やキリストの象徴として使われる言葉でもありますが、ジョジョ的には頂点を目指していたDIOを表す言葉と言えるのではないかな~と思います。
そしてプッチもDIOについてこんなことを言っていました。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』11巻 集英社(72頁)
「王の中の王」は英訳するとking of the kingsですが、これもキリストや神を指すことがある言葉。…となると皇帝というポジションはやっぱりDIOなのかな~という気がします。
で、先程「天使」のところでプッチがそのポジションに当たるのではないかという話がありましたが、プッチが天国に行くことに成功したとして、DIOはその黒幕だったということも出来ます。表向きに行動したのはプッチでも、その計画を始めるきっかけとなったのはDIO。表には登場しない…という意味で、DIOは「秘密の皇帝」なのかもしれません。
「ドロローサへの道」
次に「ドロローサへの道」についてです。「ドロローサへの道」とはイエスが処刑場であるゴルゴダの丘まで、十字架を背負って歩いた道のこと。先ほど登場したジョットもこの場面を描いています。
By Giotto - Web Gallery of Art: ImageInfo about artwork, Public Domain, Link
一般的に「苦難の道のり」の象徴とされるシーンですが、こちらは天国に到達するまでの苦難の道のりということなのか…何か意味のありそうな単語ですね~!
ところで処刑されたキリストとDIOについて、ちょっと気になる共通点がありまして…数字と復活についてなのですが、磔刑に処されたキリストは死の3日目に復活します。そしてDIOは3部で復活…この3という数字は偶然なのか、それとも運命なのか…どうですかね、荒木先生…
「イチジクのタルト」
「イチジクのタルト」についても考えてみます。
イチジクといえば、アダムとイヴの話に登場することで有名な植物です。「エデンの園」という楽園に裸で暮らしていた2人ですが、禁断の果実だけは、神から食べちゃダメよ~!と言われていました。それにもかかわらず、ヘビにそそのかされたことがきっかけとなり、アダムとイヴは実を食べてしまいます。
この実がリンゴかイチジクか…と言われているのですが、この事件が起きたのがイチジクの木のすぐ近く。荒木先生がよく登場させるミケランジェロの作品でも、イチジクの木にヘビが巻きついています。
ミケランジェロ・ブオナローティ - Web Gallery of Art[1], パブリック・ドメイン, リンクによる
この話でヘビは悪魔の化身の象徴して描かれていますが、ヘビといえばホワイトスネイク。友であるプッチを忘れないためなのかもしれません。
でもなぜタルトなんでしょうね…イチジクを切ってタルト生地と焼いて…というのはイチジクから連想できるプッチが、他のもの(緑色の赤ちゃん)と合わさって新たなものを作り出す(ザ・ニュー神父)とかですかね…う~ん…
「螺旋階段」
今度は「螺旋階段」についてです。イタリアのフィレンツェにある「ジョットの鐘楼」にも螺旋階段があります。14世紀にジョットの設計で建設された鐘楼です。
By Thermos - Own work, CC BY-SA 2.5, Link
他の言葉との関連も気になるこのワード。「階段」はメイド・イン・ヘブンのスタンド名が元々「STAIRWAY TO HEAVEN」だったことに由来しているように思います。だから恐らくプッチ関係の単語なのかな~と。
そして「螺旋」に注目してみると、聖書に「螺旋」を連想させる記述がありました。例えば創世記では…
夕方となり、ついで朝となった。(第)一日。
(中略)
夕方となり、ついで朝となった。第二日。
(中略)
夕方となり、ついで朝となった。第三日。秦剛平 訳(2017年)『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』講談社(17-18頁)
こんな風に、7日間で何度も夕と朝が繰り返される描写があります。日数だけで見ていけば直線的に時間が進んでいますが、朝夕の繰り返しという観点からは、時が螺旋のように進んでいると捉えられるのではないでしょうか。
そして6部では時が加速し、朝と夜を高速で繰り返す描写がありました。だから「螺旋階段」というのは、プッチのスタンド能力のことを暗示していたのかもしれません。
他にも「螺旋」はDNA構造など、様々な連想が出来る言葉です。カタツムリの殻も螺旋と考えると、ウェザー・リポート、そしてプッチ…とこの辺りも繋がってきます。さてこの中に正解はあるのか…荒木先生の見解が気になるところです。
「廃墟の街」
次に「廃墟の街」についてです。よく考察されているのが、「ソドムとゴモラ」を表しているという説。ソドムとゴモラは聖書に登場する2つの街で、多くの罪を犯したことで神の怒りに触れて滅ぼされたと言われています。しかしソドムに住んでいたロトと二人の娘だけは、事前に町が滅ぼされることを告げられており、生き残ったのだとか。
これを6部に当てはめるのなら、町を破壊することは世界を一巡させること、ロト達は世界が変わるということを知っていたDIOやプッチ、など色々な比喩が考えられそうなところです。
でも今回は音楽ネタから、この単語を考察してみます。
音楽ネタから考える「廃墟の街」
「廃墟の街」と関連する音楽ネタといえば、ボブ・ディランの「Desolation Row」。「廃墟の街」と訳された曲ですが、こんな歌詞がありまして…
Now the moon is almost hidden, the stars are beginning to hide
ボブ・ディラン."Desolation Row". 『追憶のハイウェイ61』. コロムビア,1965年.
「月はほとんど隠れて、星も隠れ始めている」のような訳になります。6部の月といえば新月ですが、これはほぼ月が見えていない状態。まさに「Now the moon is almost hidden」の歌詞にぴったりです。そして星といえばジョースター家ですが、DIOやプッチと敵対し滅ぼされようとしている様子は「beginning to hide」とも言い表せるのではないでしょうか。
このように「廃墟の街」は音楽ネタから考えてみると、新月のことやジョースター家の行く末について、表している単語なのかもしれません。
「アジサイ」と聖水盤
そして「アジサイ」についてです。よく花言葉の「無情」「神秘的」が関係しているんじゃ…と考察されていますが、ここでは単語に注目してみました。
アジサイは英語でhydrangea。「水の器」という意味を持つ単語ですが、ここから連想されるのが「聖水盤」。聖水が入っている容器です。聖水盤は聖堂や教会の入口に置かれ、キリスト教信者は中に入る際に聖水に指を浸して十字を切り、身を清めます。
そしてプッチは神父の職についており、キリスト教関係者…と考えると、「アジサイ」はプッチ関連の単語の可能性がありそうです。また緑色の赤ちゃんを産んだのは植物だったことから、14の言葉に植物が入ること自体にも意味があるのかもしれません。
「カブトムシ」
「カブトムシ」については、ビートルズ(The beatles)から由来しており、メンバーが4人なので4回登場したという説が有名です。確かにビートルズはbeatleではなく、beatlesと複数形。いくつも羅列されているのは、そんな理由もあったりして…
そして4という点をもう少し考えると、DIOと直接対峙したジョースター家はジョナサン、ジョセフ、承太郎の3人に、間接的対峙した徐倫を加えると4。こじつけっぽいですが、一応DIOとの繋がりは作れそうです。
荒木先生の言葉遊びっぽさも感じられる単語ですが、もし理由をつけるならビートルズとジョースター家かな~という気がします。
「特異点」
最後に「特異点」についてです。な~んか突然理系っぽくて、ちょっと異質な感じさえするこの単語。気になる…
特異点とは英語でSingularityと訳され、「人工知能が人類の知能を超越するポイント」のこと。人間生活が大きく変化する地点とも言えます。
人間生活が大きく変化すると言えば、時が加速し始めた時が連想出来そうです。食物が腐る、コンタクトレンズが乾く、漫画が描けないなど、前代未聞の変化に混乱が生じていました。なお露伴先生は(以下略)。また加速完了後に新しい歴史が始まるという意味でも、時の加速は「特異点」と考えることが出来るのではないでしょうか。
まとめ:14の言葉はDIOやプッチ、ジョースター家関係の単語か
天国に行くための「14の言葉」について考察してみました。
美術やキリスト教関係の単語が散見されますが、考察を進めるとDIOやプッチのほか、ジョースター家にも関係していそうな言葉が並んでいるように見えます。深い…!
色々な解釈が出来そうなこの「14の言葉」。でも本当は全部、荒木先生の遊び心だったりして…
参考文献
「世界シンボル大事典」ジャン・シュヴァリエ、アラン・ゲールブラン 大修館書店 1996
「AI原論 神の支配と人間の自由」西垣通(講談社) 2018
秦剛平 訳(2017年)『七十人訳ギリシア語聖書 モーセ五書』講談社
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