ジョジョの奇妙な冒険5部に登場したトリッシュのスタンド、スパイス・ガール。触れたものを柔らかくする能力を持っていました。
そんなスパイス・ガールが登場した回には、美術ネタが…!?今回は元ネタになったであろう作品について、解説します!
1. スパイス・ガールが柔らかくした時計とサルバトール・ダリ
さて、注目したいのはスパイスガールが時計を柔らか~~~~~くしたコマです。
荒木飛呂彦(1998年)『ジョジョの奇妙な冒険』58巻 集英社(64頁)
どこかで見覚えのある方も多いのでは…
こちらの元ネタであろう作品は、サルバドール・ダリの「記憶の固執」です。
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ちょっと時計の形は違いますが、とろ~んと溶けていく感じがそっくり!ところで「記憶の固執」とは、どのような作品なのでしょうか。
2. ダリの「記憶の固執」とは
「記憶の固執」は、ダリが28歳の頃の作品です。サイズは24cm x 33cmとかなり小さめになります。
ダリの「記憶の固執」に描かれたもの
色々なものが登場する「記憶の固執」ですが、この絵に描かれたものについてちょっと触れてみます。
まず印象的なのが、スパイス・ガールが柔らかくした元ネタでもある時計。この柔らかくなる様子は、カマンベールチーズが溶けるのを見てインスピレーションを得たとダリ自身は発言。またダリ自身が性機能障害で「硬さ」「柔らかさ」へのこだわりがあったから、なんて説もあります。真偽のほどはいかに…
後景の海とごつごつした岩場は、ダリが幼い頃に訪れていたクレウス岬の海岸がモチーフになっています。左下の蟻は、幼少期にコウモリに群がる蟻を見た時のトラウマがきっかけで描かれたのだとか。そして右の顔のような物体は、ダリの自画像と言われているものです。
これらのモチーフはダリの作品に何度も登場しています。例えば「大自慰者」には、ダリの自画像の部分がどーん!と描かれていたり…すごい題名だよな…
こちらの「回顧的な女性の胸像」には、おでこや口元に蟻が群がっています。
一見すると何が描かれているのか分からない上に、やたら難解そうな「記憶の固執」。でも実は、ダリの記憶や人生経験に基づいたものが描かれている絵なのでした。
3. サルバドール・ダリとは
次にサルバドール・ダリの経歴にサクッと触れてみます。
ダリは1904年生まれのスペイン出身の画家。幼い頃から絵の才能に恵まれていた人物です。美術学校の教育を受けつつ、キュビスムなど色々な手法に挑戦していたダリですが、1920年代半ばにシュルレアリスムが盛んになるとそちらに傾倒していきます。
そして1929年には既婚者だったガラと不倫の末に結婚。でもこのガラがんま~~~出来る女性だった訳で。女性恐怖症だったダリの心を掴んだのもスゴイのですが、ダリの作品を売ろうとパトロン探しに尽力してくれたのです。そのおかげで成功を収めたダリにとって、ガラは欠かせない存在でした。
1932年になると、ニューヨークのシュルレアリスム展に「記憶の固執」を出品。アメリカでの人気が高まると、1939年のニューヨーク万博では「ヴィーナスの夢」と呼ばれるパビリオンを制作するまでに…!さらにファッション、ジュエリー、インテリアなども手掛けるようになります。
インテリアの代表作は「メイ・ウエストの唇ソファ」。メイ・ウエストはアメリカの女優です。ちょっと座りにくそう…
金の亡者と言われたダリ
人気を不動のものにしたダリですが、一方でシュルレアリスムの仲間内からの評判は落ちていきました。ダリの政治的思想への反発に加え、金儲けに走り過ぎていると批判を受けて、名前のアナグラムで「Avida Dollars(ドルの亡者)」と呼ばれたりしたことも…
そしてシュルレアリスムの定義から外れているという声もありました。シュルレアリスムは本来、無意識で制作することを重視しており、そこで偶然生まれた作品こそ深層心理を反映しているよね~という概念です。しかしダリの絵は、偶然性で描かれているとは思えないと批判されます。まあ分かるような…
ところがダリは「自分こそがシュルレアリスムを体現している」と主張。自らの手法を「偏執狂的批判的方法(強迫観念や妄想の中のイメージを客観視して、認知できるようにする方法)」と呼び、制作を続けました。
そんなダリも、1982年に絶対的な存在だった妻・ガラが亡くなると、激しく落ち込みます。翌年には絵画制作をストップし、1989年に死去しました。
ダリの独特な作風は世界的にも大きな影響を与え、今でも多くのファンに愛されています。ちなみにチュッパチャップスのロゴも、ダリの作品です。これこそ1番有名かも…!
4. 柔らかい時計は4部にも登場していた!?
最後にジョジョ関係でダリっぽさが伺えるものが他にもあったので、少しご紹介します。
ダリ「記憶の固執」と仗助が殴った時計
まずは4部から。アンジェロに祖父を殺され、キレた仗助が家じゅうのものをぶん殴ったシーンです。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』29巻 集英社(118頁)
あっ…時計が柔らか~~~~くなってる…!
正確に言えば柔らかくというより、仗助が殴って変形したのだと思われますが、元ネタ的にはダリじゃないかな~!引き出しもたくさん変形していますが、ダリは「燃えるキリン」などでもちょっと柔らかくなった引き出しを描いています。
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スーッと閉められなさそうな引き出し…
仗助が殴った時計だけではなく、引き出しもちょっとダリっぽさを感じさせる一コマなのでした。
ダリ「記憶の固執の崩壊」とメローネのベイビィ・フェイス?
次にメローネのベイビィ・フェイスとダリについて見てみます。注目したいのは通称「記憶の固執の崩壊」という作品です。正式名称は「記憶の固執の調和した崩壊が始まっている高度に着色された魚の目の染色体」。長い。
こちらは「記憶の固執」のセルフリメイク作品です。ブロック状のものは、原子核を表現なんて言われていますが、ジョジョ的にはメローネのベイビィ・フェイスでバラバラにされるところを思い出すような…
荒木飛呂彦(1997年)『ジョジョの奇妙な冒険』54巻 集英社(42頁)
ダリは他にも「球体のガラテア」など人間をバラバラにした作品が多いので、もしかしたらこの辺のイメージもあったのかな~なんて思います。
ちなみにベイビィ・フェイスが四角くバラバラにするという点では、映画の「CUBE」にもかなり近い表現が登場します。グロ超注意な作品ですが、パニック系映画が好きな方はぜひ…!
ダリのタロットカードと3部
最後にダリがデザインしたタロットカードです。色々な美術ネタがオマージュされている作品になります。
他にも承太郎の星はアングルの「泉」、ポルナレフの戦車にはツタンカーメンのようなマスク、DIOの世界はダリの「メイ・ウエストの唇ソファ」とクラナッハの「三美神」など、美術的なモチーフの多いこのタロットカード。元ネタ探しをしてみるのも面白いかも…!?
全カードはこちらの動画でご紹介されています。
まとめ:スパイス・ガールの元ネタはダリの「記憶の固執」で4部でも登場していた
スパイス・ガール登場回の美術の元ネタに迫ってみました。
着想を得たであろう作品はダリの「記憶の固執」は、ダリの人生経験に基づいたものが描かれていたことが伺えます。難解な作品に見えるものの、ダリの人生が垣間見るという点でちょっと面白い作品です。
そしてジョジョでは4部などでも似たような時計が登場しているなど、ダリを彷彿とさせるシーンがありました。色々なところでオマージュされがちなダリなので、ジョジョでもまた登場するかも…!?
ジョジョの美術ネタはこちらもどうぞ~!
参考文献
ジル・ネレー. (2000). サルヴァドール・ダリ 1904-1989. タッシェン・ジャパン.
村松和明. (2016). もっと知りたいサルバドール・ダリ 生涯と作品(アート・ビギナーズ・コレクション). 東京美術.
美術手帳. 「サルバドール・ダリ」. https://bijutsutecho.com/artists/228, (参照 2022-11-30)