ジョジョ5部「眠れる奴隷」の意味と美術の元ネタを考察してみた

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険5部のエピローグとして登場した「眠れる奴隷」。5部ラストシーン直前で挿入された話でした。

フィナーレを飾る直前に過去のエピソードを入れた意図、そして「眠れる奴隷」のタイトルの意味は何だったのでしょうか。また数多く登場する美術作品の元ネタはどのようなものだったのでしょうか。考察してみました。


1. 「眠れる奴隷」とは何だったのか

まず「眠れる奴隷」の意味を考えてみます。スコリッピは「眠れる奴隷」の話の中で、何度も「奴隷」という言葉が使われていますが、最初に登場したのがこちら。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(178頁)

この「運命の奴隷」は言葉通り、「我々は運命に支配されている」という解釈で良さそうです。

そして似た表現として使われたのが「眠れる奴隷」という言葉ですが、これはどういう意味なのでしょうか。スコリッピとブチャラティそれぞれにとっての意味を考察してみます。

スコリッピにとっての「眠れる奴隷」

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(218-219頁)

まず「彼らが『眠れる奴隷』であることを祈ろう」との台詞から、運命の奴隷である人間には「眠れる奴隷」と「そうではない奴隷」がいることが伺えます。そしてブチャラティ達が「意味のあることを切り開いて行く『眠れる奴隷』」であるようにと祈っていたことから、「眠れる奴隷」とは運命に支配されるだけの奴隷ではなく、今は眠っていても目醒めて自ら道を切り開くという意味ではないでしょうか。そしてそれがボスを倒すという苦難の道を歩んでいったブチャラティたちそのものだった、ということが暗示されています。

と言うことで、スコリッピの言う「眠れる奴隷」とは、「運命の支配に抗いながら道を切り開く者のこと」となりそうです。

ブチャラティにとっての「眠れる奴隷」

次にブチャラティが使っていた「眠れる奴隷」の意味を考えてみます。エピローグに入る直前のシーンで、こんな台詞がありました。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(132頁)

この言葉をそのまま捉えれば、ブチャラティには運命こそが「眠れる奴隷」だったという意味になります。これは人間が「眠れる奴隷」というスコリッピの解釈とは違います

そしてブチャラティが運命を解き放ったことで勝利したと言うのであれば、ここでの運命(=「眠れる奴隷」)とは「ボスを倒したこと」だった言えます。

運命を解き放つのは、不可能なことではありません。なぜなら運命は「眠れる奴隷」なので、起こすことが出来るはずだからです。ただしそれは「ボスを倒すこと」のような苦難な道のりでもあります。

そしてブチャラティたちはローリングストーンズの安楽死を選ばず、その苦難にあえて足を踏み入れていきました。それはブチャラティたちが「運命は眠りから醒まして変えられる」と信じていたからなのかもしれません。

………

は~~~~ブチャラティかっこいいな~~~~~!(突然の大絶賛)

この辺りがスコリッピとブチャラティの違いなんだよな~!
スコリッピは死をゴールとして「そのゴールへ至る道のりが良きものであるように」と祈っていました。一方ブチャラティは「ボスを倒すこと」をゴールとし、生死よりもやるべきことを選んだ訳です。もちろんブチャラティだって自分が生きているに越したことはないと思っているでしょうが、組織を裏切った時点で死も覚悟しているはず。だから最も重要視すべきことではないのです。


そして運命を解き放とうと苦難の道のりを選んだことで、ブチャラティの人生の質が変わったことが伺えます。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(42頁)

麻薬の件に目をつぶりながら組織に属することは安泰かもしれない。でもそれはブチャラティにとって、心を殺して生きていくことだったんですね~!まぁそりゃそうだよな…父ちゃん麻薬絡みで死んでるんだし…

「眠れる奴隷」の意味は、スコリッピとブチャラティで違い、ブチャラティはより覚悟が感じられるものです。ただどちらの意味で捉えても、5部の物語では死ぬまでの過程を必死に生き抜くことで、ブチャラティのように人生が変わっていくよ~ということが伝わってくるのではないでしょうか。

「過程」ではなく、「結果」が大事なディアボロ

さてブチャラティたちが困難を選び、道を切り開いていく者たちとして描かれた一方で、ディアボロは少し違います。時を飛ばせるディアボロは、自身の能力についてこのように述べていました。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』56巻 集英社(42頁)

大事なのは「過程」ではなくて「結果」だよ~んということが伺えます。某真っ黄色の人が言っていた「過程や方法なぞどうでもよいのだ」と同じですね~!


他にもスタンドについて「結果だけが残り、他はすべて消し飛ぶ」などと発言していることから、ディアボロは結果主義のようです。だとすれば、5部は「過程」(ジョルノたち)vs「結果」(ディアボロ)の絶妙な対比の物語だったと考えられます。そういえばアバッキオの同僚も「大切なのは『真実に向かおうとする意志』」と、過程が大事だよ~んって話をしていましたね~!この辺りもディアボロとは対照的な台詞です。

ジョルノたちとは逆の立場で物事を考えていたディアボロ。もしかしたらそんな敵と対峙したジョルノたちが切り開いた運命は、キング・クリムゾンの予知能力さえ超えていく=未来は変えられるということも、この対比で含意されていたのかもしれません。

「眠れる奴隷」は何を伝えたかったのか

ではそんなディアボロとの戦いの後に挟まれた「眠れる奴隷」は、何を伝えたいエピローグだったのでしょうか。

スコリッピはブチャラティたちを見送りながら「彼らの苦難が誰かの希望として伝わるような大いなる意味となる始まりなのかも」と述べていました。そして5部の物語を読むと「大いなる意味」はジョルノが新たにボスの座に就いたことだったと分かります。

そして戦いの果てにブチャラティたちは死亡するものの、麻薬とパッショーネの関係を切るという彼らの願いは、新ボス・ジョルノが受け継いでくれるはずです。だってジョルノの最後の台詞、これなんだぜ…

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(225頁)

お父さん、息子さんは立派な人になりましたよ…

ディアボロを倒すまでの戦いを、ジョルノたちのように過程を中心に考えると、ブチャラティたち3人の行動は、より良い未来のために人生をかけて死力を尽くしたものであり、その死はある種リスペクトに値するようなものなのかもしれません。だからこそ、ジョルノは責任もって「先」につなごうとしているのではないでしょうか。

これを結果が大事なディアボロ視点で見ると、ブチャラティたちはただ死んだだけ。でもジョルノが「3人から受け継いだものを先に進める」と発言しているのを見ると、どうやってもただの死とは言い切れないはずです。

やっぱり過程や方法はどうでもよくなかったんですよ、お父さん…

結果主義のディアボロとの戦いを終えた上で、物語を振り返りながら「眠れる奴隷」を読むと、あらためて過程が大事だったことが分かります。無理難題でもその過程を必死に生きることは、よりよい未来につながっていくんだよ~ということを、もう一度伝えたかったのが「眠れる奴隷」のエピローグなのではないでしょうか。

ジョルノの行動や名前の意味を含めた考察は、こちらもどうぞ~!

【ジョジョ5部】ジョルノの名前と美術の元ネタを考察してみた
ジョルノの名前の由来はディアボロへの勝利を暗示していた?元ネタがミケランジェロとキリスト教だらけ?テントウムシの意味はキリスト?それともマリア?などジョルノのモチーフや美術の元ネタを考察してみました。

2. 「眠れる奴隷」のスコリッピのモチーフについて

次に「眠れる奴隷」の主要人物・スコリッピの容姿に注目してみます。頭には茨の王冠のようなものをつけ、両手はミスタの弾丸が貫通して穴が開いていましたが、この姿は磔刑に処されたキリストの姿にそっくりです。

さらにキリストは自分の死を最初から知っていたという記述が各所にあるようです。どのタイミングでそれを知ったのかは、解釈の仕方によるそうなのですが、例えば新約聖書のルカによる福音書のこちらの箇所。

イエスは、十二人を呼び寄せて言われた。「今、わたしたちはエルサレムへ上って行く。人の子について預言者が書いたことはみな実現する。 人の子は異邦人に引き渡されて、侮辱され、乱暴な仕打ちを受け、唾をかけられる。 彼らは人の子を、鞭打ってから殺す。そして、人の子は三日目に復活する。」 

You Version『ルカによる福音書 18』

自分の死を予期していたことが伺えますが、この運命を予知していた、という点でスコリッピのスタンド能力と共通点がありますね~!


またスコリッピはミケランジェロの石に対する姿勢として「石は彫られるべき形を知っている」と説明していました。彫刻用の石も自身の運命を最初から知っているということですが、これもローリングストーンズの石が彫られた相手の運命を知っていることと似ています

ということで、未来を予知できる能力があるスコリッピは、その外見だけでなく、自身の未来を予知していたという点でもイエス・キリストがモデルだったと言えそうです。そしてスタンドの石が運命を知っているという点は、ミケランジェロの言葉が元ネタとなっていたのではないでしょうか。

3. 「眠れる奴隷」の美術的な元ネタ

最後に「眠れる奴隷」に登場する美術の元ネタを見ていきます。この話、美術作品がいくつも登場するんですよね~…ということで、早速行ってみよ~!

「ダビデ像」と「ミケランジェロ像」

まずこちらのシーンの上のコマ。おっ!ミケランジェロの「ダビデ像」だ!とサクッといきたいところですが…

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(177頁)

見て、この巧妙な股間の隠し方。逆に気になるわい!

で、この股間を隠しているのは恐らくミケランジェロの顔じゃないかな~…これがミケランジェロの像ですが、顔がそっくり。

モザイク代わりにされる巨匠・ミケランジェロ。シュールすぎる…

そして下のコマに描かれているのは「目覚める奴隷」と呼ばれる作品です。こちらもミケランジェロの作になります。

この「目覚める奴隷」は未完の作品になります。ミケランジェロは未完成の彫刻が非常に多いんですよね~。

「眠れる奴隷」とミケランジェロの「瀕死の奴隷」

お次はこちらの像です。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(178頁)

モチーフになったのは、ミケランジェロが制作した「瀕死の奴隷」。足元には猿が彫られていると言われています。

「瀕死の奴隷」は、教皇ユリウス2世の墓廟に設置するために作られていました。しかしその計画が頓挫してしまったため、現在はルーヴル美術館に収容されています。

そしてジョジョ関係で「瀕死の奴隷」と言えば、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』にも登場します。露伴先生がルーヴル美術館を訪れる作品ですが、「瀕死の奴隷」は露伴先生のポーズのオマージュにもなっています。

荒木飛呂彦(2011年)『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 集英社




ついでに言えば、「瀕死の奴隷」と同時期に制作された「抵抗する奴隷」というのもあるのですが…

こちらは仗助のポージングのモデルじゃないかな~…

ジョジョはミケランジェロのネタだらけですね~!たくさんあるのでとりあえずこの辺で…

ローリングストーンズのブチャラティとミケランジェロの「しゃがむ少年」

ローリングストーンズのブチャラティもちょっと気になったので、ご紹介します。

荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(206頁)

分かりにくいポーズですが、脚をかかえながら丸まっているように見えます。これに似てるな~と思ったのが、ミケランジェロの「しゃがむ少年」

「うずくまる少年」など様々な呼ばれ方がされる作品です。こちらもしゃがみこんで背を丸めて小さくなっています。ブチャラティはよりコロンとはしていますが、ポーズ的に似てるっちゃ似てる気が…どうですかね、荒木先生…

「最後の審判」とアニメOP、62巻表紙

最後にアニメのOP、62巻の表紙について見ていきます。まず62巻の表紙がこちら。

この造形はアニメ版の「Fighting Gold」のOPの出だしでも、同じポーズの石像が登場していました。ただ顔はジョルノと言うより、ジョルノのモデルとなったダビデ像似です。で、足元のところになんかいるな~と気になったので、明度を上げてみたところ…

ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風: 黄金体験. TOKYO MX, 2018-10-06.(テレビ番組)

ブチャラティがボンジョルノ。怖っ!!!!
このOPからブチャラティ達の運命は暗示されていた訳ですね…凝ってるな~!

この造形の元ネタと言えそうなのが、ミケランジェロの「最後の審判」。バチカンのシスティーナ礼拝堂にあります。

人々を天国に行くのか、地獄に堕ちるのか、審判を下しているところですが、ど真ん中にいるキリストのポーズが似ています

5部はイタリアが舞台ということもあり、美術ネタがとっても多いですね~!

まとめ: 「眠れる奴隷」は美術品を用いながら、5部のテーマを明確にしたエピローグ

5部のエピローグ「眠れる奴隷」について考察してみました。

ラスト直前にこの話が入ることで、5部のメッセージがよりクリアになる内容でした。またディアボロとジョルノが対比して描かれていたことにも気づかされます。

そして美術ネタですが、荒木先生ミケランジェロ好きよね~!というくらいミケランジェロの彫刻だらけでした。まあスコリッピも彫刻家という設定だし…そしてスコリッピの元ネタもなかなか興味深いものがありましたね~!

「眠れる奴隷」は5部を総括する内容としても、美術的にも、意外と奥が深いエピローグなのでした。

ジョジョの美術の記事はこちらもどうぞ~!

【ジョジョ5部】ジョルノの名前と美術の元ネタを考察してみた
ジョルノの名前の由来はディアボロへの勝利を暗示していた?元ネタがミケランジェロとキリスト教だらけ?テントウムシの意味はキリスト?それともマリア?などジョルノのモチーフや美術の元ネタを考察してみました。
【ジョジョ美術】「山岸由花子はシンデレラに憧れる」の美術と元ネタを解説!
ジョジョ4部の「山岸由花子はシンデレラに憧れる」の回に登場した美術をモチーフにしたシーンと、その元ネタを解説しました。クリムトに加えて、アニメ版で使われたミュシャの作品もご紹介します。
【ジョジョ美術】宮本輝之輔と「エニグマ」登場回の美術と元ネタを解説!
宮本輝之輔のエニグマ発動時の描写の元ネタになったエッシャーって誰?どの作品が元ネタ?ポルナレフの名言はエッシャー由来だった!?などエッシャーとエニグマ、ジョジョの関係について考察してみました。




 

タイトルとURLをコピーしました