ジョの奇妙な冒険5部に登場したディアボロ。ドッピオというもうひとつの人格を持つキャラクターでした。
今回はディアボロ、ドッピオの元ネタから、2つの人格の人物となった経緯を考察してみました。
1. ディアボロの元ネタは『24人のビリー・ミリガン』!?
ディアボロの元ネタに挙げられるのがビリー・ミリガンという人物です。『荒木飛呂彦の新・漫画術 悪役の作り方』によると、ディアボロは彼についてのノンフィクション小説『24人のビリー・ミリガン』に影響を受けたとのこと。同書の名はポルナレフが多重人格を見破った際にも登場しましたよね~!
ビリーは1977年に連続強姦犯として逮捕され、取り調べなどを通じて解離性同一性障害により24の人格を持っていたことが判明します。各人格は全くの別人で、性別、年齢、性格、話し方、ファッションなどもバラバラ。ひとつの人格が表に出ている間の記憶は他の人格と共有されず、別人格が知らぬ間に犯罪を犯していた!という事態だったのだとか。
ディアボロ、ドッピオも年齢や性格、外見などが全然違いましたよね~!両者は記憶を共有している点がビリーとは違いますが、解離性同一性障害ではディアボロのように人格間で記憶をシェアしている人もいるそうです。
またビリーの人格が入れ替わる際には特徴的な仕草があるようで…その描写がこちら。
ミリガンは身体を縮めたように見えた。顔が蒼ざめ、目が内面に向けられたように生気を失った。自分に語りかけているのか、唇が動いている。(中略)ミリガンの目が左右に動いた。深い眠りから目覚めたかのようにあたりを見まわし、現実のものかどうかたしかめるように手を右頬にあてた。ダニエル・キイス(1992年)『24人のビリー・ミリガン 上: ある多重人格者の記録』早川書房(79-80頁)
顔や口元、目などに動きがありますが、解離性同一性障害では人格交代時に独特な行動が見られる人もいるそう。ディアボロとドッピオには、目に変化がありましたよね~!
荒木飛呂彦(1998年)『ジョジョの奇妙な冒険』58巻 集英社(122頁)
こんなところも解離性同一性障害はもちろん、ビリーの話から着想を得ていたのかもしれません。
そんなビリーが複数の人格を持ったきっかけは、多忙な両親の不在、再婚相手の暴力や性的虐待などの経験でした。解離性同一性障害は特に幼少期に苦痛から逃れるために、他の人格を使って苦しみを引き受ける防御反応として現れます。ビリーも苦痛が降りかかるたびに人格が増えていったそうですが、ディアボロもトラウマ級の辛い出来事から心を守るために人格が複数生まれたのかもしれないよね。
荒木先生が自ら言及していた『24人のビリー・ミリガン』。ビリーとディアボロには似ているところも多く、キャラクター作成のアイデアとなっていたことがよくわかるのではないでしょうか。それにしてもディアボロはどんな傷心を負っていたんでしょうね~…きっとヘヴィすぎるやつなんだろうな~…

『24人のビリー・ミリガン』はジョルノも元ネタ!?
ビリーの過去についてもう少し詳しく見ていきます。ビリーは母親、父親が多忙で不在がちな家庭で育ち、幼少期はイマジナリーフレンドと遊んでいました。父親が亡くなると母親は別の男性と再婚するも、その義父からは暴力や性的虐待を受けることに…辛い幼少期を過ごしたビリーは、17歳の頃に飛び降り自殺を図ったそうです。
これらを見て思い出すのがジョルノの過去。実父が傍におらず、母親は不在がち、義父による暴力といった経歴はそっくりではないでしょうか。自分がこの世のカスだと信じていたという自己肯定感の低さも、ビリーの自殺未遂と重なるところです。
このビリーの自殺未遂は、レイゲンという屈強な肉体を持つリーダー格の人格に止められます。彼によると、今後も自分を傷つける恐れがあるため、ビリーの人格は眠らせることにしたそう。これ、下を向いて過ごしていた黒髪のジョルノが消え、上昇志向で自信を持った金髪ジョルノが現れたことを思い出すんですよね~…まさに人格の始末や入れ替わりというか…
ディアボロだけではなく、どうやらジョルノの元ネタでもありそうなビリー・ミリガン。ただギャングなりにも正義の道を歩こうとしたジョルノ、禁じ手である麻薬を扱ったディアボロと同じ元ネタでも真逆な設定なのが面白いところではないでしょうか。これ、荒木先生が意図的に行ったキャラ作りでは…!?

2. 元ネタから考えるディアボロ、ドッピオ人格の役割と同一人物となった経緯
『24人のビリー・ミリガン』を基に、今度はディアボロ、ドッピオ人格の役割について考えてみます。解離性同一性障害では各人格がそれぞれ違う役割を負っています。ビリーの人格にも全人格のリーダー役、外部との交渉役、暴力から身を守る役、苦痛を引き受ける役、家事を行う役などの役割があり、その場に適した人格を表に出すそうです。
ディアボロとドッピオも状況によって人格が変わりましたよね~!例えば表立って行動するのはドッピオでしたが、これは隠れて行動したがるディアボロよりも社会性がある人物ゆえかもしれないよね。優しく穏やかな性格のよくいる青年なので、身を隠すのにもうってつけ!まさか誰もパッショーネのボスだとは思うまい。
またディアボロは血の繋がりに懸念を抱いていましたが、トリッシュはドッピオの接近を感じ取れないようで…注目したいのはアバッキオが殺害後に、サルディニア島で覚えた感覚について述べた台詞です。
あたしの心にもこの男を許してはいけないと感じるわ……………ヴェネツィアの時と同じ感覚がさっき「少しの間」あった………………………アバッキオに近づいたのは……………「父」だわッ!
荒木飛呂彦(1998年)『ジョジョの奇妙な冒険』59巻 集英社(135頁)
リゾット戦ではドッピオ、アバッキオ殺害時はディアボロが出ていましたが、もしドッピオも感じ取れるのであれば「少しの間」とは言わないよね。つまりドッピオは、ディアボロが恐れる血の繋がりを通じて気配を感じ取られたくない時にも超便利なんだよな~!
一方のディアボロ人格はドッピオへの指示と、ギャングのボスとして振舞う役割ですよね~!あれだけ構成員を惹きつけるカリスマ性はディアボロならではのはず。また自分の身を守る役割もあるようで…占い師に過去を追究されかけた時、リゾット戦でドッピオがピンチになった時などは、ディアボロ人格で相手を始末しようとしていました。ドッピオよりガタイがよく、スタンドもあるので、力で押し切りたい時に便利だよね。
まったく違う役割を負っていた両人格ですが、それを使い分けていたのは、できるだけ身を隠しながら社会で生きていきたいという願望を叶えるため。あれだけ使い分けられるのは、ディアボロが両人格の長所短所を熟知していたからこそなんだろうな~!なんだかんだでけっこうすごいよな、この人。

ディアボロ、ドッピオ以外の人格がある可能性
最後にディアボロ、ドッピオ以外の人格がある可能性について考えてみます。ビリー・ミリガンのように、解離性同一性障害では人格数が2桁以上という場合も少なくないそう。ディアボロもドッピオ以外の人格持ちの可能性があるよね。
ただビリーの場合は、13の人格は表に出すのは好ましくないため、そしてビリーという主人格も自殺の恐れがあるため、眠らされているとのこと。とすればディアボロの場合も、表に出てきて欲しくない人格がいたり、ディアボロでもドッピオでもない主人格が隠れているパターンもあり得る話。実はキング・クリムゾンとかね。あいつ喋れるしな~!
またビリーは治療を受ける中で、すべての人格の記憶がほぼ統合された「教師」と呼ばれる人格が24番目に登場するのですが、ディアボロも複数の人格がまとまった結果がドッピオとディアボロの2人なんて想像も一応はできるところ。原作に登場する人格は2つ、ドッピオもダブルの意味なので2つだけとするのが妥当ではありますが、元ネタを参照するとまた違った見方ができるのではないでしょうか。ディアボロ先生、奥が深すぎる。

まとめ:ディアボロとドッピオの元ネタからは両人格を持つ意味が見えてくるのでは
ディアボロとドッピオについて元ネタから考察してみました。ビリー・ミリガンと似ているところのあるディアボロですが、考えるほどに彼と同じくらい悲しい過去があるのでは?と思えてきますよね~…ディアボロの行いの良し悪しはさておき、彼なりにこの世で生きていく術が人格の使い分けだったのではないでしょうか。
またビリーとジョルノに共通点があるのも面白いところ。ジョルノもまたビリーのような辛い過去を背負っている人物ですが、同じ元ネタのディアボロとは真逆の価値観、結末として描かれたのが味わい深く感じられるのではないでしょうか。ビリー・ミリガン、5部のアイデアには不可欠の人物だったんだろうな~!
考察しがいがありすぎるディアボロ先生の話いろいろ




参考文献
岡野憲一郎、加藤直子、久野美智子、松井浩子(2022年)『もっと知りたい解離性障害 -解離性同一性障害の心理療法- 』星和書店
柴山雅俊(2007年)『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理』ちくま新書
ダニエル・キイス(1992年)『24人のビリー・ミリガン 上: ある多重人格者の記録』早川書房
ダニエル・キイス(1992年)『24人のビリー・ミリガン 下: ある多重人格者の記録』早川書房





