ジョジョの奇妙な冒険4部のエピソードのひとつ「山岸由花子はシンデレラに憧れる」。山岸由花子が恋している広瀬康一に振り向いてもらうため、エステ「シンデレラ」に通う話です。
この回は美術ネタがたくさん登場します。そこで登場する美術ネタと、その元ネタとなった作品を解説してみました。
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1. 山岸由花子と広瀬康一の「キスシーン」とクリムトの『接吻』
まず山岸由花子と広瀬康一のキスシーンから見ていきます。この一コマです。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』38巻 集英社(24頁)
片思いの広瀬康一とキス出来た嬉しさで、山岸由花子は辻彩と約束した「30分ごとに口紅を塗る」というルールを破ってしまいます。これが山岸由花子の顔面崩壊の始まりとなってしまいました。
この記事でも触れましたが、由花子ちゃんは口紅を塗らなくてはいけないことに気づいていたのに、塗るのを怠ってしまったのです。
それほど嬉しかったのね…!だって由花子ちゃんもこんな風に表現しています。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』38巻 集英社(25頁)
「幸せが輝いている」なんて幸福感の溢れた表現です。ではここで、元ネタのクリムトの『接吻』を見てみます。
モデルはクリムトと、その恋人であるエミーリエ・フレーゲだと言われています。崖の端の様な危なっかしい場所にいるにも関わらず、女性の顔からは、幸せに浸っている様子が伺える1枚です。よく「恍惚感」を表しているなどと言われることもあります。
また男性の衣服には四角模様、女性の衣服には花柄模様が施されていますが、その衣服の境目は明確ではありません。まるで2人が一体化しているように見えるのも、特徴的です。
山岸由花子のキスシーンとクリムトの『接吻』の比較
さて山岸由花子のキスシーンと、クリムトの『接吻』を比較していきます。まず目につくのはポーズが同じこと。首の曲がり方なんかそっくり!背の低い広瀬康一が体を浮かせて、山岸由花子に抱きつくようにしているのは、恋人同士が一体化しているという点と似ているようにも見えます。
そしてクリムトの『接吻』は、衣服と背景の金の部分に金箔を使っているんですよね〜!由花子ちゃんは「幸せが輝いているんですもの」と言っていましたが、この「輝いている」という辺りも、『接吻』の金箔と共通点が伺えます。荒木先生も金箔を意識して、このセリフを決めたのでしょうか…?
山岸由花子のキスシーンの元ネタは、恍惚感と金箔で表現されており、まさに「幸せが輝いてみえる」様子を具現化したような絵でした!
2. アニメ版「山岸由花子は恋をする」とミュシャ
アニメ版の「山岸由花子は恋をする」のエピソードでは、原作にはなかったミュシャのポスタ―作品を元ネタとした表現が多数使われていました。まずこちらがミュシャのポスターの一例で、『四つの花-ユリ』『夢想』『黄道十二宮』です。
ミュシャのポスターの特徴は、女性をメインにしつつ、植物や天体、幾何学模様などと、優美な曲線を組み合わせたデザイン性の高さにあります。その洒落た雰囲気から、様々なアート作品の元ネタや、レコードやCDのジャケットなどに起用されることもありました。
一方で、アニメ版「山岸由花子は恋をする」でも、ミュシャ風の表現が何か所も見られます。
ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない : 山岸由花子は恋をする その2 . TOKYO MX, 2016-05-28.(テレビ番組)
最後の1枚のエコーズが可愛い…
植物や曲線、球の多用など、明らかにミュシャを意識しています。少し茶色が買ったようなセピア調の色合いも、ミュシャを連想させますね~!
原作では見られなかったこのミュシャ表現。何か所もあるので、アニメ版を鑑賞する際には全部見つけてみるのも面白いかも!?
山岸由花子を元ネタにしたCDジャケットも!?
ちなみに山岸由花子を元ネタにしたCDジャケットもあります。Base Ball Bearの『BREEEEZE GIRL』のジャケットです。
シンデレラで全身エステを施した後の由花子ちゃんです。あらためて見るとすごいオーラだな…!
確かにジャケットにすると映える絵ですね〜!
MVでは、市川紗椰さんが実写版山岸由花子を連想させるような、ロングヘア―でセーラー服を着た女の子を演じています。
3. 「世紀末」という共通点は偶然か?
さて、このクリムトとミュシャですが、活躍した時代は19世紀末から20世紀初頭。世紀末美術と呼ばれる美術形態が出現した時期でした。世紀末美術では、人間の内面を表した美術で、神秘的、退廃的、幻想的といった雰囲気が描かれています。神話などから主題をとった作品も多いです。
一例としてはこんな感じ。オディロン・ルドン『パンドラ』と、ギュスターヴ・モローの『出現』です。
ちょっと幻想的で、怪しい雰囲気さえ感じられる作品です。
世紀末美術が生まれた理由としては、工業化や世紀末に対する不安を、美術作品として昇華させたと言われています。
そして山岸由花子が登場した4部の舞台は、世紀末の1999年。この世界では、平和な日常に吉良吉影という殺人鬼が混ざっており、不安と恐怖が入り混じった中で日常が進んでいきました。そして実際、1995年にジョジョ4部が完結された後、現実の1999年でもノストラダムスの大予言や2000年問題など、何だか漠然とした不安が世間を包み込んでいました。世紀末って独特の雰囲気なんでしょうね…
世紀末の不安がうごめく物語の中で、不安から生まれた世紀末美術がモチーフとして選ばれるなんて…偶然だとしてもちょっと興味深いところです。
まとめ:「山岸由花子はシンデレラに憧れる」の元ネタは、世紀末美術のクリムトとミュシャだった
「山岸由花子はシンデレラに憧れる」から、美術作品を元ネタにしたシーンを確認してみました。
山岸由花子の幸せそうなキスシーンは、クリムトの『接吻』が、アニメの「山岸由花子は恋をする」では、ミュシャのポスターを連想させるシーンがいくつもありました。
また偶然にも世紀末を舞台にした物語で、世紀末美術が使われており、作品を通して漠然とした不安感が描かれているのも面白いところです。
ジョジョは美術ネタが多いので、元ネタ探しをしながら楽しんでみてくださいね~!
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