ジョジョの奇妙な冒険の3部の主人公・空条承太郎。6部まで登場し、ジョジョを代表するキャラクターでもあります。
部をまたぐごとに変化する服装も印象的でしたが、今回はその服装について考察してみました。
1. 3部の空条承太郎の服装について
まずは3部承太郎の服装についてです。こんな感じでした。
津田尚克監督,『ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース Vol.1』[Blu-ray],「裁くのは誰だ?!」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2014年)
やっぱり承太郎といえば長ランなのよ…4部以降も長ランに似た上着を着用していましたが、ここでは黒い長ランに鎖、帽子、2本ベルトなどが特徴的な衣装です。
荒木先生曰く学ラン姿は「バビル2世」から着想を得ているとのこと。黒色は学生服の標準的な色であることはもちろん、いかつさ、力強さ、男らしさなども演出できるゆえのチョイスではないでしょうか。しかもそこに鎖だもんね…同じ長ランの花京院と比べても見た目が強そうだよな~!
そしてベルトには鱗文のような模様が施されていました。この連続する三角模様は、アニメ版でホリィの衣装にも見られたんですよね~!
津田尚克監督,『ジョジョの奇妙な冒険スターダストクルセイダース エジプト編 Vol.6』[Blu-ray],「遥かなる旅路 さらば友よ」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2015年)
首元には三角の模様が施されており、足元には植物のようなデザインも。3部アニメではジョセフが茨模様のパジャマを着用するなど、登場人物に関連した服装のデザインが見られたので、こちらもホリィの花のようなスタンドと承太郎のベルトのデザインを合わせているのかもしれません。息子大好き母ちゃんだからな…
みんな大好きホリィを大絶賛した花京院の話もあります。
また4部でもベルトや手首回りに似た模様が登場していたので、三角模様は承太郎を象徴するデザインのひとつとして使われていた可能性もありそうです。
このように3部の承太郎は不良、マスキュリンさなどを演出しつつ、4部以降の服装に通じる承太郎らしさの原点となった服を着用していたのではないでしょうか。クラシカルで硬派な雰囲気が出ていますよね~!やっぱりこれは似合うよな~!
2. 4部の空条承太郎の服装について
次に4部の承太郎の服装についてです。4部では承太郎の服装が何度か変化しますが、まずは最初期の衣装を見ていきます。
津田尚克監督,『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない vol.1』[Blu-ray],「東方仗助!アンジェロに会う」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2016年)
シャツにセーターと大人っぽい格好で現れた承太郎。この時はもうお父さんなんだよな…
2本ベルトと袖の折り返しには三角模様が入っており、帽子には承太郎のシンボルともいえる手のマークに、承太郎とジョジョの頭文字の「J」と承太郎らしさあふれる装いです。上着は白色と襟の形から、研究者が着る白衣がモデルではないかな~と思います。4部で博士論文を書いていたとのことなので、研究者としての一面を表している服装なのかもしれません。
あとメタ的なことを言えば学生組の仗助たちとの差別化とかね。後に承太郎も学ランに近い服装になりますが、初期は学生ではないよ~と示すために白衣スタイルだったのかもしれません。
3部の学ラン姿から白衣のような服に変わった承太郎ですが、それは自身のトレードマークに加え、海洋学の研究に励む姿のイメージが加えられているのではないでしょうか。それにしても黒より白の方が柔らかそうな印象ですよね~!やはり色は大事…!
仗助の外見に影響を与えた謎の少年の話もあります。
4部中盤の承太郎の服装とバッジの謎
続いて中盤での服装を見ていきます。2本ベルトと袖周りの三角模様は消え、全体的にすっきりとした印象ですが、注目したいのは首回りです。
津田尚克監督,『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない Vol.6』[Blu-ray],「「狩り(ハンティング)」に行こう!」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2016年)
鈍器ばりの胸バッジのでかさよ…
右胸と帽子のバッジは海洋冒険家らしく、イルカでハートを形作るデザインですが、イルカにはこんな象徴的な意味があるのだとか…
しばしば、霊魂を冥界に導く者とされ、救済・変身・愛と結びつく。月や太陽とも関わる。ミランダ ブルース=ミットフォード (2010年)『イメージ・シンボル事典』三省堂(68頁)
救済や愛など、仗助の胸バッジのハートやピースマークと比較的近い意味合いを持っているようです。また仗助の首元の錨は、十字架にかかるキリストの象徴としてイルカと一緒に描かれることもあるアイテムだそうなので、2人の服装は意図的に統一感を出しているのではないかな~と思います。
そして太陽との関連も言及されているイルカですが、帽子ではイルカと太陽のバッジを2つ合わせて「JO」の文字を作り出していました。この顔のついた太陽のデザインは、タロットカードにも登場しますよね~!なんか太陽戦を思い出すな。フハハハハハハクックックッ…(目ガン開きの笑顔で)
花京院との楽しい思い出の話とか。
そして左胸には凶器になりかねないでっかい三角をつけていますが、船舶に使うペナント(旗)が元ネタじゃないかな~…ペナントの役割は国籍や社籍など、船の所属やメッセージを表すためだそう。
そのデカ三角形をよく見ると、承太郎がよくつけている手のマークも入っているんですよね~!つまりペナントの役割と絡めて考えるなら、承太郎は三角バッジにより「オレは承太郎だぜ」と表現していたとも捉えることができます。自己主張強いな、承太郎。
そしてちょっと気になったのがこの手に込められた意味。紋章学的には右手が盾などに描かれていると、以下のような意味が含まれることがあるのだとか。
紋章学では、クレスト(頂飾)やエスカッチョン(盾)に表された手は信頼や誠実さ、正義のしるしとなる。右手の握手は団結と協調を表す。広げた手は太陽を表すこともある。ミランダ ブルース=ミットフォード (2010年)『イメージ・シンボル事典』三省堂(116頁)
この本、めっちゃ承太郎の手のマークを連想させる画像が載っているんですよね~…興味ある人はぜひ見て欲しい…
手の左右が逆ではありますが、あのマークにもなんだか意味がありそうなところ。もしこれが元ネタだとすれば、手のマークは自身のアイデンティティの主張だけではなく、承太郎の持つ正義感を表す記号にも見えるのではないでしょうか。女医を傷つけたことにプッツンするなど人助けはもちろん、いばるだけの教師はボコられるからな。誠意のない対応は承太郎にはアウトなんよ…
承太郎の無銭飲食も正義感ゆえなのかも…という話もあります
そして上着全体の形は学ランっぽくはありますが、学ランと白衣のハイブリットにも見えるんですよね…首元と胸元は学ランのような襟ですが、白衣の首元の襟は立て襟に、胸元は折り返している形に近いような気もします。研究者でも承太郎といえば学ランスタイルだもんな~!
このように2種類目の承太郎の服装は、承太郎らしさがありつつ、仗助の服装との統一感も感じられるのではないでしょうか。けっこう凝ってるデザインだよな…
4部終盤の承太郎の服装における性別記号とヒトデの関係
そして問題の最終形態(?)です。黒の2本ベルトに手のマークの南京錠らしきものがついており、袖の三角マークが復活していました。首回りも見てみると…
津田尚克監督,『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない Vol.13』[Blu-ray],「さよなら杜王町-黄金の心」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2017年)
これも白衣の立て襟っぽいですよね~!どうしても学ラン風に着こなしたい承太郎。
帽子には性別記号を想起させるマークがあしらわれ、紫色の中衣にもそれに合わせたような模様が見られます。特に帽子の3つのマークは性別記号の雄と雌を合体させつつ、仗助のイカリマークに合わせるようなデザインにしているのでは…と思うのですが、もう少し掘り下げて考えてみると…
これね、承太郎がチビイトマキヒトデの研究をしていたからじゃないかな~と。チビイトマキヒトデは雌雄同体で自家受精するヒトデなので、ここから性別記号を合体させたデザインが生まれたのかもしれません。しかも杜王町のモデルとなった宮城県の生物のレッドリストを見ると、チビイトマキヒトデが入っているんですよね…!ということは、希少とはいえ宮城県沿岸でも見られるヒトデであり、承太郎が杜王町に滞在中に研究対象としていた可能性も考えられることになります。
さらに服装の変化から想像を働かせるのならば、承太郎はこの最終形態の服装に変わった時に、研究対象となるヒトデを見つけていた、という可能性も…なんせあれだけいっぱいつけていたイルカさんがいなくなっちゃったんだもんな~!
真偽の程は謎ですが、承太郎の性別記号のようなマークはヒトデに関連していた記号だったのかもしれません。ヒトデ研究に熱中しすぎて服装に取り入れていたとしたら、けっこうお茶目だよな…
3. 5部の空条承太郎の服装について
続きまして5部の承太郎についてです。4部に引き続き白を基調とした服装でした。
木村泰大監督,『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風 Vol.1』[Blu-ray],「黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2018年)
康一くんに「この少年、承太郎さんに似てますね?」とツッコまれ、「ん…」と歯切れの悪い承太郎。んも~~~~本当カンがいいんだから~!尊敬するよ康一くん(小声)
赤と緑のベルト、緑や紫のラインが入った服など、4部に比べて華やかなイメージですね~!帽子のツバは黒く、上着には金ボタンがつけられていました。胸元に襟がないので3部の学ランスタイルに近い印象ですが、この上着と帽子は海軍の制服がモデルじゃないかな~!
金色の丸ボタンや、男性が着用している白い帽子に紺色のツバという色合いなんかもそっくりではないでしょうか。
そして中に着用している黒い服に十字のように描かれた紫色のラインと、上着の両サイドの斜めの緑色のラインも見ていきます。これね~~~~魚の骨格を下から見た形に見えるんですよね~…緑色はろっ骨、紫色の横のラインは上椎体骨あたり、紫色の縦のラインは背骨のようなイメージ。
あとはXのタイムラインに「サメのエラ孔じゃないか」説が何度か流れてきて、確かに~!と思ったり。ちょっと位置は違いますが、紫の横のラインはサメの肩帯(背骨と胸鰭を繋ぐ太い軟骨)にも見えるし…スクアーロのクラッシュがサメ型なのは、荒木先生がここでサメの生態を見ていたからなのかもしれません。
いずれにせよ海軍の制服に近く、海洋生物を想起させる模様が入っていることから、5部の服装は承太郎が海に出て活動していたことがイメージされていたのではないでしょうか。アニメ版では部屋にヒトデ以外の生物もたくさんいたし…
木村泰大監督,『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風 Vol.1』[Blu-ray],「黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2018年)
カジキマグロやヒトデ、熱帯魚など海洋生物だけでなく、酸素ボンベらしきものまで。この人、海潜ってるな…!
このように5部承太郎は海軍の制服を想起させ、承太郎が海で活動していたことも想像できる服を着用しているのではないでしょうか。とはいえ足元はボンタンっぽいし、やっぱり元不良っぽさも漂う承太郎。飲食店ではお金払ってね…
イタリア行きを頼むほど、康一くん大好きな承太郎の話はこちらで…
4. 6部の空条承太郎の服装について
今度は6部の服装についてです。
加藤敏幸監督,『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン Blu-rayBOX1』[Blu-ray],「面会人 その①」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2022年)
透明感がある色が好きって言ってたのにこれ。1ミリも透明感ない件。
でもだからこそ意味があるはずなんですよね~…キリスト教の関連が非常に強い6部ですが、ヨハネの福音書にこんな記述があります。
5 イエスはいばらの冠をかぶり、紫の上着を着たままで外へ出られると、ピラトは彼らに言った、「見よ、この人だ」。
キリストが十字架にかけられる直前の場面ですが、紫の上着を着用していたとのこと。もしかして承太郎さんってキリストがモデル…?
でも確かに承太郎とキリストには共通する点もあるんですよね…母親の名前がホリィであだ名は聖子と聖母マリアを連想させるところとか、キリストは磔刑に処された後に復活を果たしますが、承太郎もDISCを抜かれて瀕死になるも復活したとかね。
そして徐倫との服装の比較でも触れましたが、パンツはプッチを連想させる蛇模様のパイソン柄。ベルトの締め方も蛇が巻きついて首を垂らしている姿に似ており、プッチに侵食されていく暗示に見えます。
さらに上着を見てみると、んま~~~~星だらけだわJOJOJOJOってやかましいわ…でも6部はジョースター家vsアンチジョースター家の最終戦。だからジョースター家の人間としてずっと戦い続けてきた承太郎の所属や血筋の表現なんだろうな…帽子やトップスにも星入ってるし。
このように6部の承太郎は、キリスト教との関連と物語に合わせた服装だったのではないでしょうか。一気にド派手になった印象ですが、なんせ6部では超重要人物だからな~!4部、5部とは衣装の迫力も違うよな…
ジョジョってキリスト教関係のネタ、めちゃくちゃ多いよね…!
メイド・イン・ヘブン発動後に登場した偽承太郎との比較
最後に6部の終盤で登場した偽承太郎の服装と比較してみます。
加藤敏幸監督,『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン Blu-rayBOX3』[Blu-ray],「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」,ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント(2023年)
オーラがないな~~~~!!!娘にボロクソ言われているせいか、自信なさげなのよ…
服装の色は似ているものの、鎖やJOJOの文字がありません。星は変形し、承太郎のトレードマークの手のバッジもなくなっています。ちょっと格好が派手な一般人といったご様子。
だからこそ本物の承太郎だけが身につけていたものは、承太郎のアイデンティティを表していたと考えることもできる訳で…JOJOの文字と星はジョースター家、手のマークは正義の心、釣り針のついた鎖は承太郎の研究対象とも言えるのではないでしょうか。
ということで、6部の承太郎も4部と同じく、自身の所属や職業、物語などを表現しており、そこにキリスト教のエッセンスを加えた服装だったと言えそうです。しかし偽承太郎を見ると、凡人にはあの衣装を着こなせないことがよくわかるというか…承太郎ってやっぱりかっこいいんだな…
ストーンオーシャンって難解だけど考察しがいがあるよね…という話。
まとめ:承太郎の服装は物語のテーマやアイデンティティが含まれているのかも
承太郎の服装について考察してみました。
よくよく見るとかなり個性的な服装をしていた承太郎ですが、そこに意味を持たせてみると、承太郎のアイデンティティや物語のテーマ性が浮かび上がってきます。荒木先生がどこまで意識されていたのかは不明ですが、それでも考察してみるとなかなか面白い服装です。
派手な衣装も多いジョジョなので、他のキャラクターの服装も気になるところですが、個人的に印象的なのはウェザーのファールカップなんだよな。シンプルに見せかけて、急に変化球かましてくるようなあの衣装。荒木先生、野球やってたからかな…
参考文献
ミランダ ブルース=ミットフォード (2010)『イメージ・シンボル事典』三省堂
小松美英子(1977)「チビイトマキヒトデ(Asterina minor)の自家受精(発生学)」『動物学雑誌 86 (4)』p.277
末日聖徒イエス・キリスト教会「ヨハネによる福音書」よりhttps://www.churchofjesuschrist.org/study/scriptures/nt/john/19?lang=jpn(2023年11月14日確認)
日本船主協会「海と船のQ&A Q38:船の旗:どんな意味がある?」よりhttps://www.jsanet.or.jp/qanda/text/q3_38.html(2023年11月14日確認)
宮城県「海岸地域の無脊椎動物類」『宮城県レッドリストの公表について』よりhttps://www.pref.miyagi.jp/documents/24174/rikuikimusekitui.pdf(2023年11月14日確認)
承太郎の記事はこちらもどうぞ~!