【ジョジョ7部】リンゴォの「男の世界」の意味を考察してみた

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険7部のスティール・ボール・ランに登場したリンゴォ。独特の美学を持つ敵でした。

「男の世界へ」について語っていたリンゴォですが、「男の世界」とは何を指すのでしょうか。今回は「男の世界」などの意味や7部のテーマとの関係について、考察してみました。


1. リンゴォの語る「男の世界」「男の価値」の意味

最初に「男の世界」や「男の価値」の意味について考えてみます。「ようこそ『男の世界』へ」と言い残したリンゴォですが、「男の世界」についてこう説明していました。

公正なる「果し合い」は自分自身を人間的に生長させてくれる 卑劣さはどこにもなく…漆黒なる意志による殺人は 人として未熟なこのオレを聖なる領域へと高めてくれる 乗り越えなくてはならないものがある 『神聖さ』は『修行』だ
(中略)
これが「男の世界」………反社会的と言いたいか?今の時代………価値観が「甘ったれた方向」へ変わって来てはいるようだがな…
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』8巻 集英社

公正で、命を賭けた真剣勝負を乗り越えて生長していくのが「男の世界」とのこと。また「受け身の対応者は必要なし」と、漆黒の意思が見られないジャイロを拒否していたことから、積極的な戦いの意志があることも大事なようです。

そして死に際のリンゴォは「男の価値」という言葉を用いて、ジャイロの進むべき道を示していました。

『社会的な価値観』がある そして『男の価値』がある 昔は一致していたがその「2つ」は現代では必ずしも一致はしてない 「男」と「社会」はかなりズレた価値観になっている……… だが「真の勝利への道」には『男の価値』が必要だ… おまえにも それがもう見える筈だ… レースを進んでそれを確認しろ…『光輝く道』を…
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』8巻 集英社

「男の世界」が公正な真剣勝負を経て生長する世界だとすれば、同じ男という言葉を使った「男の価値」は「公正かつ懸命に戦える者こそ『男』として価値がある」といったニュアンスではないでしょうか。

そして「社会的な価値観」は仕事、名誉、地位など、社会における一個人の価値のことと思われますが、昔は「社会的価値観(仕事、名誉、地位)」=「男(公正かつ懸命に戦える者)の価値」だったとのこと。戦う男は世間的に高評価を得られる時代だったんでしょうね~…

でも現代では2つの価値はズレてきているようで…つまり「公正さ、一生懸命さは、必ずしも仕事や地位を得る手段とはなり得ない」時代に変わってきたようです。それでもリンゴォは「真の勝利を掴むためには、男の価値(=本気で戦うこと)は大事」と話していました。一生懸命頑張っても報われるとは限らないけれど、必死に挑んでこそ得るものもあるはずだよ~、といったメッセージなんでしょうね~

つまりリンゴォの「男の世界」「男の価値」の台詞は、結果を恐れずに、自らの意志を持って懸命に挑んでいく大切さを説いていたのではないでしょうか。言葉は違いますが、ジョジョで何度も登場している過程より結果が大事だよ~という話や、「覚悟」のニュアンスに近いですよね~!

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進むべきは「光り輝く道」と考えるリンゴォ

そして先程の「男の価値」の台詞の「光輝く道」の意味についても考察してみます。これね。

だが「真の勝利への道」には『男の価値』が必要だ… おまえにも それがもう見える筈だ… レースを進んでそれを確認しろ…『光輝く道』を…荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』8巻 集英社

「光輝く道」は「真の勝利への道」を指すようですが、もう少し具体的な意味を考えてみます。注目したいのは、ジャイロを評したリンゴォの台詞です。

荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』8巻 集英社

「対応者」は相手の出方を見た上で自分の出方を決めている者、積極的な戦闘の姿勢が感じられない者といったニュアンスのようで、ジャイロのハングリー精神のなさが指摘されます。リンゴォ戦前にはジョニィにも似た話をされていましたよね~…「君は『受け継いだ者』」「もっと気高く飢えなくては」とかね。もうやめて!ジャイロのライフはゼロよ…

でもこれらの言葉に奮起したジャイロは、遺体やマルコの件への「納得」を得るというレース参加の目的を再認識し、本気でリンゴォに勝負を挑んで勝利していました。つまりジャイロのように目的達成のための強い意志を持てば、自ずとそこにたどり着くために見えてくる筋道が「光輝く道」なのではないでしょうか。納得したい!優勝したい!のなら、目の前のリンゴォは本気で殺すべきというのは、自然にわかることだよね~という話ね。

あと「光輝く道」の「光」という言葉は、遺体の持つ力の比喩としても登場していましたよね~!ルーシーが遺体と接触した際に「光がしゃべった」「光の中につつまれた」と発言していたので、「光輝く道」は遺体のあるルートという意味も含まれているのかもしれません。

ということで「光輝く道」は、目的完遂の意志を持って一生懸命取り組めば、自然と見えてくる進むべき道のことを指しているのではないでしょうか。それは公正な勝負の果てに見える道だからこそ、光輝かしいものなのかもしれません。

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2. ディエゴが生きられなかった「男の世界」

次にディエゴと「男の世界」についてです。先ほどジョニィがジャイロの弱さを指摘した話が出ましたが、その台詞の中でディエゴとの比較が登場しました。

Dioは『飢えた者』君は『受け継いだ者』!どっちが「良い」とか「悪い」とか言ってるんじゃあない!その差が この大陸レースというきれい事がいっさい通用しない追いつめられた最後の一瞬に出る!その差は君の勝利を奪い君を喰いつぶすぞッ!
(中略)
「飢えなきゃ」勝てない。ただしあんなDioなんかより ずっとずっともっと気高く「飢え」なくては!荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』7巻 集英社

ディエゴはハングリー精神は強くても、「気高く」はないのだそう。公正なる果し合いが要求される「男の世界」には、足を踏み入れられないらしいんですよね~…

でもディエゴは気高さを知らずに育った人ではありません。過去の回想でのディエゴママの台詞を見てみると…

荒木飛呂彦(2005年)『STEEL BALL RUN』6巻 集英社

ディエゴ、オカンに顔そっくりだな。

雇い主の告白を断り、食器を破壊される嫌がらせを受けても媚びることなく、手にシチューを注ぐよう要求したディエゴママ。確かに気高いし、「手を犠牲にしようが、絶対にお前には屈しない」という、漆黒の意思にも似た強烈な決意を感じます。

だからディエゴは気高い精神を間近で見たはずなんですよね~!それでもその精神を継承できなかったのは、母親が早世したことで、家族に手を差し伸べてくれなかった世間への怒りや恨みが先行したからなんだろうな~…めっちゃ怒ってるもんね…

荒木飛呂彦(2005年)『STEEL BALL RUN』6巻 集英社

こんな世の中じゃなければ、金さえあれば…そんな思いから結婚相手の老婆の殺害疑惑をかけられるほど、手段を選ばずに金や地位に執着する「飢えた者」になってしまったんですよね~…

他人の技術や誇りを継承する「受け継いだ者」のジャイロに対して、ひとり孤独に奪い続ける「飢えた者」のディエゴ。綺麗な対比ですが、誰かが手を差し伸べてくれれば「受け継いだ者」かつ「気高く飢えた者」になれたのかもしれません。ちょっと切ない…

親との関係がこじれまくってるジョニィの話もあります

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3. 「男の世界」の話と7部との関係

最後にリンゴォの「男の世界」の話と、7部全体の戦闘シーンやテーマとの関係についてです。まずはリンゴォが提唱する「男の世界」の戦い方に注目してみます。リンゴォとジャイロは互いに銃と鉄球をほぼ同時に放ち、両者負傷しながら勝負がついていました。これが公正な果し合いとのことですが、なんだか銃の早撃ち勝負をする西部劇の「決闘」シーンを思い出しますよね~…

で、リンゴォはこの戦い方を美学としつつも、前時代的と自覚もしてました。それもそのはず7部の舞台は1890~91年。アメリカでは、南北戦争以降(1861~65年)に「決闘」の規制が厳格化されたため、決闘スタイルを良しとするリンゴォは確かにちょっと古臭い考え方のようです。

でもね、7部ではこの「決闘」スタイルが何度も登場するんですよね~!ジョニィとサウンドマン、ウェカピポの妹の夫とウェカピポ、ジョニィとヴァレンタイン大統領など、銃の早撃ちのようなタイマン勝負が何度も行われていました。

荒木飛呂彦(2007年)『STEEL BALL RUN』13巻 集英社

ウェカピポたちは1890年以前の話なのでまだしも、他の男たちは時代の流れに取り残された戦い方で決着をつけています。だから7部って結局、リンゴォに近い価値観を持つキャラクターばかりとも言えるんですよね…ただ時代にそぐわなくとも生長できるならば、気高く本気で挑む「男の世界」は大事でもあり、それが「決闘」スタイルを多用した7部全体のメッセージのひとつなのかもしれません。

でもレースの順位はポコロコ、ノリスケ・ヒガシカタ、スループ・ジョン・Bなど、タイマン勝負が描かれなかった選手の入賞で幕を閉じるんだよな~~~!あれだけみんな命を張ったのに…どんなに「決闘」のような戦いが重要だとしても、やっぱり時代からは淘汰される運命なのかもしれません。

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リンゴォの戦い方から見える「ノーリスク・ノーリターン」

もうひとつ注目したいのが、リンゴォの戦い方についてです。「決闘」でほぼ同時に攻撃していたジャイロたちですが、実はリンゴォはわざと一手遅れて銃撃していたそうで…そんな回想をした後、ディエゴとの競争の最中にはこんなライン取りをしていました。

この草原でDioの道がベストというならそのラインは敵にさし出してやるのもいいだろう……あえてな
『厳しい道を行く』か…厳しいな……ただし………オレとヴァルキリーだけのラインを行く その道にはとどこおるものは何もなく…なめらかに回転するかのような…オレとヴァルキリーだけが…『なじむ道』
Dioのラインなんぞ見えなくていい……天候も嵐も関係ない 味方のジョニィも消える オレたちだけの「気持ちのいい道」だ!
リンゴォの話だとその先には『光』がある筈だ…『光』を探せ!『光』の中へ

荒木飛呂彦(2004年)『STEEL BALL RUN』9巻 集英社

ジョニィが「Dioのミス待ちをするしかない」と主張する中、最適なラインを「あえて」ディエゴに差し出すジャイロ。天才ジョッキーが選んだ最高のラインを捨て、自分たちにとってのベストを追求すれば、自ずと「光輝く道=真の勝利への道」が見えるはずと信じての行動でした。結果、ジャイロはディエゴに追いついています。

まさにノーリスク・ノーリターンの教訓のような話ですが、7部では同様の台詞が何度も登場するんですよね~!例えばシュガー・マウンテン戦では…


荒木飛呂彦(2007年)『STEEL BALL RUN』12巻 集英社

他にもアクセル・RO戦での「人は何かを捨てて前に進む」、並行世界から来たディエゴ戦では「対価を払わなくては」「勝利に犠牲はつきもの」など、同じような意味の言葉が見られました。

何度も出てくるということは、これも重要なテーマのはずで…ノーリスク・ノーリターンは、荒木先生が7部を通して描きたかったメッセージではないでしょうか。ジャイロの最終レッスンも「遠回りこそが俺の最短の道だった」だし、ヴァレンタイン大統領なんて自分の命を投げ打って、勝利を掴もうとする戦闘スタイルだからな~!

ノーリスク・ノーリターンを説く7部ですが、きっとリンゴォも先に攻撃させるリスクを冒せば、より生長できると信じていたんでしょうね~…家に押し入ってきた男に殺されかねない過去を持つのに、ここまで危険を冒せるなんて…思い切りと勇気がすごいよな、リンゴォ。

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まとめ:リンゴォの「男の世界」は7部、そしてジョジョに通ずるテーマだった

リンゴォの「男の世界」について考察してみました。

7部でも屈指の名勝負に挙げられるリンゴォ戦。「男の世界」「男の価値」など印象的な台詞が数多く見られる一戦ですが、そのメッセージは7部、そしてジョジョ全体のテーマとも共通点があるようです。

しかし公正で本気の勝負を挑むことを「男の世界」と表すなんて、ワードセンスもなかなか渋いですよね…リンゴォ、文学作品とか書くのとか向いてそう…

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