ジョジョの奇妙な冒険3部「スターダストクルセイダース」の最後を飾る、空港での別れの場面。承太郎、ジョセフ、ポルナレフが肩を組んで、互いの明るい未来を祈りながら帰途に就くところです。
涙を誘う名シーンですが、なぜこの別れの場面は泣けるのでしょうか。3人の別れの場面までに起きたことを踏まえながら、考察してみました。
1. 承太郎たちが仲間との別れを受け入れて「楽しかった」と言えるまで
まず生き残った承太郎達たちが、仲間たちの死を経て前向きに旅を振り返るまでを考察していきます。
3部最後の別れのシーンで、ジョセフとポルナレフは旅をこんな台詞で振り返っています。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』28巻 集英社(302頁)
過酷な旅だったにもかかわらず「楽しかった」。でもこの言葉が出るまでには、仲間の死を乗り越えなければいけなかったはずです。
ポルナレフをかばい、壮絶な終幕を迎えたアヴドゥルとイギー。アヴドゥルにいたっては腕しか残らなかったため、「ベストパートナー」だったジョセフには特に辛い別れです。そして花京院は腹に穴が開いたまま、最後の力を振り絞って仲間のためにDIOのスタンド能力を暴いたことをジョセフから聞かされるはず。
仲間のために死んだ2人と1匹ですが、その最期は悲しみと共に敬意を表するほどの散り際でした。だってまさに黄金の精神だもの…!
だからこそ承太郎たちは仲間の死を受け入れつつ、過酷な旅を「楽しかった」と締めることが出来たのではないでしょうか。でもそう言えた理由は、この旅で得たものがあったからでもあるはずです。
ジョースター御一行がこの旅で得たもの
まず承太郎とジョセフは大切な家族の命を守る過程で、爺孫にしか分からない絆を深められました。「おじいちゃん」と慕っていた孫に「ジジイ」呼ばわりされ、挙句の果てにはこれ…
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』18巻 集英社(104頁)
こんなこと言う孫、この世の中にいる????おじいちゃん泣いチャウよ…
でもこれ単なる爺孫ではなく、戦友であり男友達のノリも混ざっているように見えます。そこら辺の爺孫とは一線を画した絆だからこその一言です。
また承太郎は学校での一目置いて接してくる同年代とは違い、距離を置くことなくより素を見せられた仲間も出来ました。
相撲の話に乗ってきてくれたり、タバコ芸を披露したり…あの承太郎が「オレンジ丸ごと一口食い」の勝負を挑まれるほど楽しくやれる男友達です。花京院にも真の友達が出来ました。スタンド使いと出会って、自分と同じような人間がいることを知った花京院。1人の世界に籠っていた彼が、外の世界に踏み出した旅です。
イギーにはたとえプライドゆえだったとしても、初めて自分が命をかけられる人間が現れました。それはアヴドゥルも同じで、命を投げ出してまで守りたい仲間に出会ったことは、大きな財産だったはずです。気高い生き様を貫いた旅でした。
それぞれにとってこの上ない時間となったこの旅。そしてポルナレフにも意味があった訳ですが、こちらをもう少し考察していきます。
2. 独りじゃなくなったポルナレフ
当初の旅の意義が妹の敵討ちだったポルナレフ。しかしジョースター御一行に加わったことで孤独ではなくなり、かけがえのない仲間を手に入れた旅となりました。
まず旅の序盤のポルナレフの孤独が伺えるシーンを確認してみます。J・ガイル戦前にパーティーから離脱する際、ポルナレフはこんな台詞を発しています
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』15巻 集英社(168頁)
興奮して吐いた台詞とは言え、身内が一人もいなかったことも事実。「おれは最初からひとり」というのは、かなり本音が混ざっている一言なのかもしれません。
しかし旅の終わりにはポルナレフの心情の変化が伺えます。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』28巻 集英社(302頁)
「ひとり」だったポルナレフの口から「みんな」という言葉が…仲間に恵まれた旅だったんだね、よかったよかった…
でもポルナレフにとってこの旅で得た仲間は、単なる仲間以上の意味を持っていたようです。
新たな「家族」が出来たポルナレフ
この台詞の少し前のシーンを振り返ってみます。ポルナレフは、身内がいないことからジョセフにニューヨーク行きを誘われるも、フランスに帰ると断りました。ジョセフは「寂しくなるな」と漏らしますが、その返答に原作のポルナレフは無言です。
しかしアニメ版ではポルナレフが「あっ…」と一言漏らし、そこから目が潤み始めます。この場面です。
ジョジョの奇妙な冒険 スターダストクルセイダース :遥かなる旅路 さらば友よ. TOKYO MX, 2015-06-20.(テレビ番組)
この「あっ…」は何を意味するのか。これね~~「俺はもう独りじゃないんだ」という気づきの「あっ…」じゃないかな~と。
ジョセフの住むニューヨークに行くということは、ただの移住ではなくジョセフ一家と交流を深めながら暮らしていくということでもあります。そして「寂しくなるな」の台詞から、ジョセフもそれを望んでいたはずです。
だからポルナレフは嬉しかったんですよね。家族がいなかったポルナレフに、たとえ距離が離れていてもまた家族同然の人が出来るなんて。それも苦楽を共にした男だなんて。そりゃ~嬉しいだろうよ!良かったなポルナレフ!
ポルナレフにとってこの旅は妹の敵討ちだけではなく、新しい家族を得ることが出来た旅だったのではないでしょうか。
3. 涙をこらえた男たちの愛のけなしあい!
最後に承太郎たちがけなしあって別れた理由を考えてみます。「楽しかった」と旅を振り返った後、誰が音頭をとるわけでもなく抱き合う3人。そしてこの名シーンに続きます。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』28巻 集英社(302-303頁)
見て、この素直に褒められない男たち…。けなしあいながら、前途を祝します。
互いのことを褒めちぎれたはずです。もっと思い出を語り合えたはずです。だけどそれでは涙が溢れてしまう。だって3人とも目が潤んでいるんだもの!アニメ版なんか承太郎が1番潤んでいるように見えるし。うそだろ承太郎…
でもね、最高の仲間との最高の旅だったからこそ、愛を持ってけなしあったのだと思います。涙ではなく、笑顔で別れるために。ジョジョ史上1番男くさいと言っても過言ではない3部。男の旅(野宿)、男の友情(タバコ芸披露)、男のむさ苦しさ(車内が狭い)…
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』16巻 集英社(153頁)
いやぁ~~~~車内が狭い!!!!!(特に後部座席)この後アンちゃんも乗ってくる地獄…
でも男ならではの要素が詰まりまくった部だったからこそ、湿っぽくない照れ隠しのような別れが心に刺さるのです。
これだからいいんですよ、これが…
まとめ:過酷な旅でも得るものが大きすぎた男旅。だからこそ別れのシーンが泣ける
3部ラストの別れのシーンが泣ける名場面の理由を考察してみました。
辛すぎる別れがあった過酷な旅です。でもそれぞれが大事なものを得た旅で、それはあの5人と1匹だったからこそ手にすることが出来たものでもあります。そして笑顔で別れるためにカッコつけてけなしあった…
最後まで大事な仲間同士の絆が感じられ、男くさいノリが貫かれた部。だからこそ別れのシーンも泣けるのかもしれません。
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