ジョジョの奇妙な冒険6部の最終話「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。衝撃的なエンディングはもちろん、タイトルも印象的な一話でした。
「この素晴らしき世界」なんて訳される言葉ですが、どの辺りが「ワンダフル・ワールド=素晴らしき世界」なのでしょうか。今回はこのタイトルの意味を考察してみました。
※6部のネタバレがあります!
1. プッチの理想の運命とエンポリオの行動のワンダフルさ
まずはプッチの理想の運命とエンポリオの行動のワンダフルさについてです。この最終話では運命にあがいて、戦い抜いたエンポリオの精神の美しさを描いているのではないかな〜と思います。
プッチが天国を目指す理由は、運命に逆らわず、覚悟を決めて受け入れる世界を目指しているからでした。それは5部で登場した「眠れる奴隷」になることと同じです。
「眠れる奴隷」についてはこちらで…
一方でジョルノや徐倫など、ジョジョの主人公たちは変えられない運命に対してあがいています。そしてそれは人間の素晴らしさであると、ジョジョでは繰り返し描かれてきました。
で、プッチはエンポリオに対し、運命についてこう発言しています。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』17巻 集英社(214頁)
運命は決まっているので抵抗しても無駄だよ~とのこと。だからこそ、後々にプッチを倒しにくる運命のエンポリオを始末しようとします。しかしエンポリオはプッチに立ち向かい、とどめを刺す直前にはこう言い返していました。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』17巻 集英社(247頁)
アニメ版では「未来なんか知らなくても覚悟があった!覚悟が出来ていなかったのはお前だ、プッチ!」という台詞も付け加えられています。ジョルノの「覚悟とは暗闇の荒野に進むべき道を切り開くこと」を連想させる台詞ですね~!覚悟は足りず運命にも負けたとか言われるなんて、プッチもうボロクソ…
このようなエンポリオの言動は、荒木先生がジョジョを通じて繰り返し描いてきた人間の素晴らしさを表現しているように見えます。運命にあらがい、最終的にプッチを倒してしまったエンポリオは、間違いなくジョジョ的にワンダフルなのではないでしょうか。
プッチをはじめとするラスボスの精神性の話もあります。
2. エンポリオに継承された黄金の精神とスタンド
次にエンポリオに継承された黄金の精神とスタンドについて考察してみます。ここに至るまでにエンポリオが受け継いだものは、黄金の精神と、ウェザー・リポートのスタンドのDISCです。この2つが最終話で描かれていますが、そこに潜む素晴らしさを見ていきます。
血筋よりも大事な黄金の精神
まず黄金の精神についてです。プッチはジョースターの血を消滅させることにこだわり、徐倫たちを殺害します。しかしジョースターの血を絶やすことにこだわったプッチを倒したのは、ジョースター一族ではないエンポリオでした。見てこのプッチを倒す直前の顔…
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』17巻 集英社(229頁)
まさに「覚悟はいいか?オレはできてる」のお顔。何がすごいって、この人その数ページ前までは「うおおおおお」と「うわああああ」ばっかり言ってるんだよな。さてはプッチのことを油断させていたな…!?
他人の犠牲にしてまで、天国行きを実現させようとするプッチに、正義の心と勇気を持って立ち向かうエンポリオ。その姿勢は、まさに黄金の精神を体現しているのではないでしょうか。
5部まではジョースターの血筋が勝利する話でしたが、ついに敗北してしまう6部。その最終話でエンポリオを活躍させたのは、困難に立ち向かうために大事なのは、血筋ではなく黄金の精神なんだよ~ということを描くためなのかもしれません。
ウェザー・リポートのスタンドの継承と適性
そしてエンポリオがもう一つ受け継いだのが、プッチを倒すカギだったウェザー・リポートのスタンドでした。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』17巻 集英社(232頁)
徐倫とウェザー・リポートの顔に、ストーン・フリーの紹介ページでの徐倫とそっくりなポージング…この1コマだけでもジョジョのテーマである「継承」を表していることが強く伝わります。
さらにエンポリオの凄さは、ウェザー・リポートで酸素中毒の状況を作り上げたことです。ウェザー・リポートは知識次第でより強力な力を発揮できるスタンドでした。それが物知り博士のエンポリオに受け継がれるなんて…んま〜〜〜よくできた偶然というか、これもきっと運命なんだよな〜!
スタンドを継承し、黄金の精神を貫いたエンポリオ。その言動は、ジョジョのテーマを強く反映しているという点で、ワンダフルなのではないでしょうか。ブラボー…おおブラボー…!
3. エンポリオが到達した新しい世界の素晴らしさ
今度は新しい世界の素晴らしさについて考察してみます。新しい世界でエンポリオが出会ったのは、アナキスやアイリンなど、前の世界の仲間とどこか似ている人たち。性格面でも、気の強そうなエルメェス似の女性、母のように優しく接してくれるアイリンなど、前の世界との共通点が見られます。
徐倫がエンポリオに優しい話は、こちらで取り上げています~!
しかも前の世界ではプッチとの戦いに身を投じてきた皆が、この世界では和やかに暮らしているようではありませんか…!刑務所の外にいるし、エルメェス似の女性の姉は生きているし…
だから新しい世界は、プッチと戦った世界よりも幸せそうという点で、素晴らしき世界になったのかもしれません。そして一巡しきった世界には、プッチによりエンポリオも徐倫たちも行けないはずだったので、徐倫たちに似ている人物がまた集結しているだけで読者にはワンダフルなのかも…!?
新しい世界については、こちらでも触れています~!
エンポリオにとってワンダフルな可能性のある世界
次にエンポリオにとって、新しい世界が素晴らしくなる可能性について考えてみます。新しい世界は一巡しきらなかった世界ですが、元の世界とは全員が別人なのかは不明です。ただ徐倫たちのように死んだ人間は、別人になっているようでした。
そして別人として会える可能性がある人物がもうひとり。エンポリオの母親です。徐倫たちとアイリンたちがどこか似ている人だったように、恐らくエンポリオの母親も、容姿や性格は元の世界の母親と似ている人なのだと思われます。
そんな母親にエンポリオが出会ったら…別人という寂しさはあれど、安心感や懐かしさは感じるのではないでしょうか。
アイリンたちがまた出会ったように、母親との再会も考えられそうな新しい世界。それはエンポリオにとっては、もしかしたら幸せな出会いになるのかもしれません。…というか、なって欲しいな~!
元ネタの「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」との関係
最後にホワット・ア・ワンダフル・ワールドの内容と、元ネタとなった曲の関係を考察してみます。元ネタとされているのはルイ・アームストロングの曲「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」。アメリカがベトナム戦争や人種問題に直面した時代の歌で、歌詞は空や花など自然の美しさを見た主人公が「なんて素晴らしき世界なんだ」と思う、という感じ。つまり何気ない日常がとても美しく素晴らしいよね~という内容です。
で、エンポリオが到達したのは、戦いが終わった世界でした。そこではアイリンとアナキスが結ばれ、エルメェスはバスに乗り遅れ、ウェザー・リポートはヒッチハイク…と、皆が何気ない日常を送っています。その平和な日常の素晴らしさを、戦いの世界に身を置いてきたエンポリオならば実感できるのではないでしょうか。
さらに「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」のイントロで、ルイ・アームストロングはこのようなことを話しています。
And all I'm saying is, see, what a wonderful world it would be if only we'd give it a chance. Love baby, love. That's the secret, yeah. If lots more of us loved each other, we'd solve lots more problems.Louis Armstrong(1970年)『What A Wonderful World (Original Spoken Intro Version)』
ざっくり訳すると「私が言いたいのは、もう少しチャンスさえあれば、なんて素晴らしい世界になるんだろうということ。愛だよ愛。それが秘訣だ。もっと多くの人が愛し合えば、より多くの問題を解決できるだろう」という感じです。出たよ愛!
愛といえば親子愛や恋愛など、6部を通して描かれてきたテーマです。そして6部を振り返ると、愛が足りなかった場面がたくさんありました。承太郎の愛がもっと伝わっていれば、ウェザー・リポートを襲った何でも屋に人種を超えて愛する気持ちがあれば、プッチが「無償の愛」をより正しく理解していれば…全ての人間同士にもっと愛があれば、6部はこんな話にならなかったはずなのです。
そんなメッセージの入った「ホワット・ア・ワンダフル・ワールド」を最終話に使うなんて…これは偶然なのか、それとも荒木先生の意図なのか…どちらにしてもよく出来たタイトルだよな~!
6部の愛についてはこちらもどうぞ~!
まとめ:ホワット・ア・ワンダフル・ワールドはジョジョのテーマや新世界の幸福さが集約された話
ホワット・ア・ワンダフル・ワールドの意味について考察してみました。
ジョジョのテーマである運命、継承、黄金の精神などが凝縮されていたこの最終話。しかもそれを表していたのが、ジョースター一族ではなく、エンポリオだったなんて…!5部までの展開とは、一線を画すストーリーだったのではないでしょうか。
そして元ネタとも比較すると、6部での話をより深く理解できそうなところでした。やっぱり愛なのよ…
ジョースター家の血筋は途絶えてしまいますが、エンポリオは新しい世界でも黄金の精神を持って活躍してくれるはず。最終話でアイリンたちと出会って泣いていたエンポリオですが、今度こそ幸せになって欲しい…!
6部の記事はこちらもどうぞ~!