1. スティッキィ・フィンガーズの繋ぐ能力とブチャラティの人生
まずはジッパーの繋ぐ能力から考察してみます。スタンドは人物の精神性が反映されますが、ジッパーとブチャラティにはどのような関係があるのでしょうか。
ブチャラティの家族の繋がりとスティッキィ・フィンガーズのジッパー
一つ目は家族の繋がりとジッパーについてです。ファンの間でも「ジッパーは離婚した両親を繋げたかった気持ちの具現化ではないか」と再三推測されてきましたが、ここでは家族とスタンドとの関係についてもう少し考えてみます。注目したいのは、こちらのシーンです。
荒木飛呂彦(1997年)『ジョジョの奇妙な冒険』55巻 集英社(170頁)
両親はブチャラティに、離婚の理由を伝えていないことが伺えます。原因は「両親の間でしかわからない事」とされていますが、ブチャラティもそのように思っていたのかまでは不明です。もしかしたら「両親の離婚は自分が原因なのでは」「自分の振る舞い次第で家族を繋ぎとめることができたのでは」なんて気持ちを持っていたかもしれません。頭の良いブチャラティなので、寡黙な村の漁師と「都会はいいわよ~!」な女性は合わないんじゃ…なんて察していたのかもしれないけど…
ただもしブチャラティが離婚に責任を感じていたとすれば、自分が間に入って家族を繋ぎとめたかったはずです。それはジッパーのようなイメージで、両親がエレメント(ギザギザの部分)であれば、ブチャラティはスライダー(エレメントを繋ぐスライドする金具)として機能したかったのではないでしょうか。
またブチャラティは他人の人体のパーツでも結合できる能力がありますが、それも違う人間同士が一つになる結婚から由来しているのかもしれません。
このようにスティッキィ・フィンガーズのジッパーには、離婚した両親を繋ぎたい気持ちはもちろん、両親の離婚の原因との関係も考えられそうです。なんせブチャラティは家族のことを大事にしていたからな~!離婚から受けた影響が、スタンドとして現れるのも分かる気がします。
ブチャラティと家族の話は、こちらでも考察しています~!
スティッキィ・フィンガーズとブチャラティの人との繋がり
二つ目は人との繋がりについてです。さてブチャラティには、護衛チームの仲間を大切にしている描写が見られました。例えばこちら。
荒木飛呂彦(1999年)『ジョジョの奇妙な冒険』63巻 集英社(139頁)
理想の上司や…ちょっとパッショーネに入団してくる
他にも「任務は遂行する、部下は守る」だの、仲間思いなんですよね~!その理由は天性の人柄はもちろん、人との繋がりを大事にしたい気持ちがあるからではないでしょうか。
両親の離婚で、大好きだった優しい母親と離れてしまったブチャラティ。その後も年1度しか会えなくなるなど、寂しい思いをしていたはずです。そして過去の回想では、同年代の友人と遊んでいるような描写もありませんでした。アニメ版では母親の「都会に出れば、歳の近い子もここよりいっぱいいる」という台詞が追加されていましたが、少なくとも友人が多い賑やかな環境ではなかったように見えます。
だからこそブチャラティは人との繋がりを大事にしているのかもしれません。人間同士はいつでも簡単に繋がれる訳ではないと知っているからこそ、縁のあった人間との関係は固く結び、大切にしたい。そんな気持ちがジッパーを具現化させていたりして…
このようにブチャラティにジッパーの能力が発現したのは、人との繋がりを大事にする気持ちに由来しているのではないでしょうか。徐倫のスタンド能力の糸が承太郎との絆との関係を想像できるように、ブチャラティのジッパーも人間同士の結びつきに関係していそうです。
徐倫と承太郎については、こちらもどうぞ~!
2. スティッキィ・フィンガーズとブチャラティの父親との関係
次にスティッキィ・フィンガーズと、父親との関係についてです。ここでは父親が関わった事件や職業と、スタンド能力との関連性を考察してみました。
スティッキィ・フィンガーズの能力と父親の関係
まずはスティッキィ・フィンガーズの能力と父親との関係を見ていきます。
さてスティッキィ・フィンガーズは、空間にジッパーを取りつけて隠れることができました。その能力はブチャラティが父を狙う麻薬の密売人を殺害する際に、病院のベッドの下で身を隠していたことを連想させます。さらに体のパーツ同士をバラバラにするなど切断する能力は、父親を追う人間たちとの縁を切りたい、という思いの反映なのかもしれません。
またブチャラティは麻薬密売人の殺害後に、こんなことを口にしていました。
荒木飛呂彦(1997年)『ジョジョの奇妙な冒険』55巻 集英社(183頁)
後遺症が残ったまま他界してしまった父親ですが、ブチャラティはその命を「繋ぎとめたかった」はず。そんな願望もジッパーの繋げる能力と関係しているのではないでしょうか。
このようにスティッキィ・フィンガーズの能力は、ブチャラティの父親の事件との関連を連想できそうです。物同士を繋ぐ、切断するのが得意なスタンド能力ですが、その根源は「命を繋ぎとめる」「縁を切る」のように、物理的ではない「繋ぐ」に関する事柄にもあるのかもしれません。
5部の麻薬の話は、こちらでも触れています~!
父親の職業「漁師」とスティッキィ・フィンガーズとの関係
次に漁師という父親の職業とブチャラティの能力との関係についてです。ここではアニメ版オリジナルの一コマから考察してみます。
ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風: ボスからの最終指令 . TOKYO MX, 2019-02-23.(テレビ番組)
漁師の網を補修するブチャラティ。他にもアニメ版では、網の繕いや張り替えを行おうとするシーンが追加されるなど、網の修理を手伝っていた描写がありました。しかも「網の張り替えは僕がやっておくよ」なんて台詞はもちろん、こんなシーンも…
父「(網を抱えながら)ブローノ」
ブチャラティ「父さん。網の繕いだね。わかった」
父「うん」ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風: ボスからの最終指令 . TOKYO MX, 2019-02-23.(テレビ番組)
阿吽の呼吸すぎる。父ちゃん、承太郎ばりに無口や…
父親がブチャラティの仕事ぶりを信頼していたことが伺えますが、網の張り替えや繕いには、恐らく網の破れやほつれの修繕も含まれているはず。破れた部分を繋ぎ合わせるという点では、離れ離れになっているエレメント同士をスライダーでつなぐジッパーの構造と似ているようにも思えます。
…と考えると、ブチャラティは父親の使う網の修理で離れてしまったものを繋ぎ合わせる作業が得意だったからこそ、ジッパーの能力が発現したのかもしれません。ミスタのように射撃が得意だからこそ、スタンド能力に現れた…というタイプと同じ発現の仕方なのではないでしょうか。
ミスタのスタンドについては、こちらで考察しています~!
3. スティッキィ・フィンガーズと音楽の元ネタとの関係
最後に音楽的な元ネタとの関係についてです。元ネタと言われているのは、ザ・ローリング・ストーンズのアルバム「スティッキー・フィンガーズ」で、意味は「盗癖」や「手グセが悪いこと」。ジョジョランズのパコを思い出しますが、ジッパーの空間内に物を隠せるという面では、意味的にもそう遠くないのではないでしょうか。
パコの話はこちらでも触れています~!
そんな「スティッキー・フィンガーズ」のジャケットには、実物のファスナーがついていました。凝ってる~!
間違いなくスタンド能力の元ネタだと思われますが、ファスナーの形状にも注目してみると…スティッキィ・フィンガーズのジッパーはこのようなデザインです。
荒木飛呂彦(1997年)『ジョジョの奇妙な冒険』55巻 集英社(183頁)
ファスナーには主に3つの種類があるそうですが、こちらはよくジーンズなどに使われている金属のタイプ。ザ・ローリング・ストーンズのアルバムに使われているのと同じ種類でした。こんなところまで一緒なんて、芸が細かい…!
そして収録曲にも目を向けてみます。ブチャラティと関係が深~い薬物の俗語である「ブラウン・シュガー」が収録されていることは有名ですが、「シスター・モーフィン」も薬物関係のようで…こんな歌詞です。
Ah, can't you see, Sister Morphine, I'm trying to score
(中略)
Please, Sister Morphine, turn my nightmares into dreams
Oh, can't you see I'm fading fast?
And that this shot will be my lastThe Rolling Stones(1971年) 「Sister Morphine」 『Sticky Fingers』 ワーナー・パイオニア, CD.
薬物についての歌詞です。訳としては「見えないかシスター・モーフィン、俺が薬物を手に入れようとしているのを。(中略)お願いだシスター・モーフィン、悪夢を普通の夢に戻してくれ。俺が急激に死にかけているのが見えないのか?そしてこれが最後の注射になることを」のようなイメージ。こんな曲が入っているアルバムからスタンド名をとっている訳ですが、もしやブチャラティと薬物の話もこのアルバムが元ネタなんですかね、荒木先生…?
ところでザ・ローリング・ストーンズといえば、このアイコンを彷彿させます。
舌がベロ~ンと出ている有名すぎるデザイン。「スティッキー・フィンガーズ」のジャケットのバックカバーなどで初めて使われたそうですが、舌といえばブチャラティのアレ。
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』47巻 集英社(151頁)
通報されるぞアンタ。ギャングじゃなければ逮捕されかねない案件。
花京院に露伴先生にポルナレフと舌芸が盛んなジョジョでも屈指のインパクトを誇りますが、ザ・ローリング・ストーンズのアイコンから着想を得ていたりして…まさかな…
このようにスティッキィ・フィンガーズは、ザ・ローリング・ストーンズの「スティッキー・フィンガーズ」のタイトル、曲などからの影響を確かに感じ取れます。それにしても嘘をついている味がわかるってことは、舐めたのはジョルノが初めてじゃないんだよな。やっぱり覚悟ができている人間は違うぜ…
スタンドのローリング・ストーンズについては、こちらもどうぞ~!
まとめ:ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズは家庭や人間関係が反映されているのでは
ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズについて考察してみました。
ジッパーという個性的な能力が発現したブチャラティですが、置かれてきた家庭環境や人間関係ゆえのスタンドだったのかもしれません。ある意味、家族や他人への愛情が詰まったスタンドとも言えるというか…
ジッパーを開け閉めするだけのシンプルなスタンドに見えますが、機転を利かせながら能力を使いこなしていたブチャラティ。それは頭の良さはもちろん、自分の内面や過去を反映していたからこそ、その使い道が無意識のうちに分かっていたりして…
参考文献
クーリエ・ジャポン「ウォーホルが作ったと思っている人も多いが…誤解です。ロック界史上「最も有名なロゴ」はこうして生まれた」よりhttps://courrier.jp/news/archives/199561/(2023年9月6日確認)
YKK株式会社「ファスナーのきほん」よりhttps://lyncs.ykkfastening.com/shop/pages/about_products_02.aspx(2023年9月6日確認)
5部の記事はこちらもどうぞ~!