ジョジョの奇妙な冒険4部に登場する吉良吉影。一見特徴がないように暮らし続けていた殺人鬼でした。
そんな吉良が平穏な生活を望んでいたのはなぜなのでしょうか。考察してみました。
1. 平穏な生活を送れない吉良吉影の性
まずは吉良吉影の性について見ていきます。さて物語中盤で、吉良は自分の性について仗助たちにこう話していました。
わたしは『生きのびる』……平和に『生きのび』てみせる わたしは人を殺さずにはいられないという『サガ』を背負ってはいるが………………『幸福に生きてみせるぞ!』
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(82頁)
「人を殺さずにいられない性だが、幸福に生きてみせる」と、殺人を犯すことは幸福ではないと自覚しているようです。そりゃ~そうだよな~~~法!犯さずにはいられないッ!なんて、しんどすぎる…そんな殺人という許されざる欲求を持っているからこそ、人一倍穏やかに暮らすことを望んでいたのかもしれません。
でも吉良って特殊な性癖を持って生まれた運命の中で、幸福を手に入れるために行動していた人でもあるんですよね~!証拠を残さず爆破するキラークイーンが発現したのも、性を受け入れて生きようとしたからだろうし…「生まれ持った趣味に対して前向きに行動している」と話してたように、努力家といえばそうなのかもしれません。ただ殺人にまで手を出してしまうところがやっぱりヒーラーだよね…
2. 平穏な生活とは程遠い吉良吉影の過去と性格
次は吉良の過去についてです。まずは家族関係に注目してみます。さて人殺しをしないといられない悲しい性を持ちつつも、幸福な人生を目指していた吉良ですが、父親の吉廣の言葉を見てみると…
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(198頁)
「女を殺すことが幸せというなら、お前を守ってあげよう」とのこと。でも吉良は殺人自体を幸福と思っていたのではない訳でね…親子の間で認識にズレがあるっぽいんですよね~…
で、荒木先生曰く、吉良は母親から過保護という虐待を受けており、吉廣はそれを止められず贖罪として息子を守ろうとしているという設定だったそう。だから息子の心情を正しく汲み取れず、虐待にも口出ししなかった吉廣に対して、吉良は、父親は自分を理解していない、頼れないと思っていたんじゃないかな~…しかも吉廣も超過保護だしな…
そんな吉良一家は近所の人に「とても仲のよい家族」と評されていました。両親がごく平凡な家族像を演じていたのだと思いますが、吉良が特徴のない凡人を演じるのが上手だったのは、両親の人前での振る舞い方を見ていたからこそなのかもしれません。なんか切ない。
どう考えても平穏ではなさそうな過去を持つ吉良。心穏やかに過ごせることを望んでいたのは、家族関係で受けた傷や悲しみもひとつの理由なのではないでしょうか。
ジョジョのラスボスは家庭環境が複雑すぎる話。
プライドの高さゆえに平穏な生活を望めない吉良吉影
次に吉良の性格について考えてみます。さて平穏な暮らしを望み、同僚にも「特徴のない影の薄い男」と言われていた吉良。一見、平凡で大人しそうな人柄に見えますが、重ちーを前にこんなことを言っていました。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(74頁)
これはジョジョのラスボスですわ。これといった特徴しかない……キャラの濃い男さ。
自分は負けないという絶対的な自信を口にしていました。「この吉良吉影」と、「このDIOが」ばりの言い回しも使っていた辺りにも自尊心の高さが伺えますよね~!早人の殺害なんて、この台詞がトリガーになっていたし…
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』45巻 集英社(14頁)
取り引きという平等な関係ではなく、主従関係を要求された吉良。下に見られることが嫌なのか「このわたしがそんなことを許すと思うのか」と激高して早人を殺してしまいます。殺害すれば平穏な生活は間違いなく遠ざかる訳ですが、そんな冷静な判断すらできなくなるほど心を乱されてしまったようです。プライドの塊やん…
また特技も見てみると…承太郎は「何が特技かよくわからん」と話していましたが、見てよこのトロフィーと賞状…
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(114頁)
全部特技やんけ。県大会3位ってすごくない???
表彰されるなんてその成績と名前が記録される訳でね…目立つことが嫌いなら4位以下を目指すはずですが、表彰台には上がりたいという自己顕示欲が垣間見えるんですよね~…
そんな吉良の仕事は誰にでもできる使いっ走りばかりだそう。プライドの高い人には我慢ならなさそうなところですが、それでも文句を言わないのは平凡な男に見せるためなのはもちろん、失敗しない=プライドが傷つかずに済むからなんて理由もあるのかもしれません。なんせ吉良は予想外の出来事が苦手だからな~!
終盤の仗助・億泰戦では「追い詰められた時こそチャンスをものにするのだ」「いつだってそうやってきた」と述べていたので、これまでの窮地には何とか対処はしてきたようです。でも早人殺害という大ピンチの後なんて、血を出るほど爪を噛んでいましたよね~…一般的に爪を噛むのはストレスを和らげるための行動とされており、吉廣も爪を噛む理由をこう説明していました。
人間は誰でもこの世に思いどおりにならない事がある事を幼い時に学習する…………(中略)吉影…………おまえは そんなどうしようもない時決してわめいたりする子供ではなかったが 爪をよく噛む子じゃった………(中略)絶望した時……おまえは血が出るほど爪を噛む……お前は今とても『絶望』しているのだね……………荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』45巻 集英社(17頁)
絶望したり、思い通りにならない時にやるとのこと。でも吉良は爪の伸び具合で占いをしていたので、平穏な生活を維持するために長さを記録できなくなるのは致命的なはずです。それでもやめられないところを見るに、予想外の出来事に強いストレスを感じていること、そしてストレス耐性が高くはないことが伺えるのではないでしょうか。まあ相当なことしてるしな…
だから吉良が平穏な生活を望むのは高すぎるプライドが傷つかずに済むこと、ストレスに対処する力が強くないことも理由として挙げられそうです。絶対的な自信を持っていたDIOも頭痛と吐き気にうろたえていましたが、強すぎる自尊心は崩れた時のダメージがでかいもんね~!そういう意味で、吉良は自分をよく分かっている人と言えるかも…!?
3. 吉良吉影は平穏な生活を望みながらもなぜ手とデートをするのか
最後は吉良が手とデートをする理由についてです。モナリザの手に魅せられ、手だけを切り抜いて部屋に飾るほどだった吉良。でも本や写真では満足できなかったのか、実物の手を切ってデートをするまでに…生まれ持った性とはいえ、平穏を望む吉良がここまでリスキーな行為をする理由を考えてみます。
まず手を所有することでリアリティーを味わえるからではないでしょうか。例えば生身の肌感、指紋やシワまで感じたかったとかね。さらに腕時計のバンド調整をしようとしたり、手を繋いだりと、実際の女性と同じようにデートを楽しんでいた吉良。それは本や絵ではできない行為のはずです。
あとは手と共にある実感や、手を操作している(=自分は恋人よりも上の立場)感覚が欲しいのかもしれないですよね~!なんせわざわざ手にパンを触らせていたからな~…食事の時もこれだし…
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(17頁)
めちゃくちゃ食べにくそう。しかもちょっと臭う。
手を横に置いて食事をするのではなく、あえてパンを握らせているあたり、より一緒に食べている感覚が欲しいんだろうな~…プロフィールにも「大便後にお尻を拭いてもらうと幸せな気持ちになる」と書いてありましたが、これだってあたかも女性に拭かせている、あるいは撫でてもらっているような感覚が大事なんでしょうね~…拭いてるのは自分なんだけどな(言ってはいけない)
きっと吉良には手とデートをしている現実感や、扱いへの強いこだわりがあるのではないでしょうか。だからわざわざ切り取って持ち歩くリスクを冒すんでしょうね~!露伴先生もびっくりのリアリティーの追求だよな~!
手を持ち歩くことすら平穏な生活の一部だった吉良吉影
手だけを切り取り持ち歩く理由について、吉良が目指した平穏な生活と絡めてもう少し考えてみます。手が綺麗な女性とお付き合いするのではなく、殺人を犯して手だけを愛でていた吉良。そっちの方がリスキーなのになぜ…?
さて吉良のプロフィールには「女性が自分勝手なことを言うのが大嫌い」「デートの最中は早く帰りたいと思っている」と書かれており、自分の言動にケチをつけられるのを嫌っていることが伺えます。プライド高いからな~!でも手だけなら文句も言われず、思いのままのデートをすることが可能なので、吉良には手だけの状態こそ理想的なのではないでしょうか。
で、この吉良の行動って、究極の一人おままごとでもあるんですよね~!子供が好きにおもちゃで遊ぶように、自分の好みやシナリオ通りに手を扱っている訳でね。ただその手に愛着があるかといえば、そうではなさそうで…
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(17頁)
この人、言葉遊び大好きだよな。「命」を「運」んで来ると書いて「運命」!
本当の恋人のような深い愛のある関係を築くつもりはなく、手が美しいままの間だけ、一方的に愛でたいようです。物を所持して、使えなくなったらポイする感覚というか。
平穏とはあまりにかけ離れた嗜好ですが、でもこれこそがきっと吉良にとっての日常なんでしょうね~…美しく口出さない手を思いのままに愛でて操り、2人きりの時間を楽しむ。そして使い物にならなくなったら殺人を犯して証拠を消し、また手だけを愛で、重ちーのような目撃者が現れれば確実に確実に対処する。そんな犯罪行為を含んだサイクルが、もはや平穏な生活の一部だったために、手を持ち歩いていたのかもしれません。
…と考えると、「吉良吉影は静かに暮らしたい」というサブタイトルは、心の穏やかさだけではなく、誰にも邪魔されず、手にすら口出しさせず、思い通りの生活を楽しみたいという話だったんでしょうね~…吉良の目指した「平穏」は、一般的な意味では収まらない悪役ならではの生活だったようです。怖ぇ~~~~~!!!!しかし無数の手に引っ張られて死んだのがなんとも皮肉な…
まとめ:吉良吉影が平穏な生活を望むのは過去、性格、性などが理由では
吉良吉影と平穏な生活について考察してみました。
過去や性格から平穏を望んでいそうな吉良でしたが、その平穏の中には殺人や手を持ち歩くことも含まれていそうでした。普通の会社員がラスボスだった4部ですが、平凡に見えるからこそ、その異常性がますます恐ろしいキャラクターですよね~…
他の部のラスボスにはない独特の狂気を持ち、仗助たちを怒らせて総力戦を繰り広げた吉良吉影。ブランド好きのオシャレさんなところだけは、仗助と気が合いそうなんだけどな~…
4部の話はこちらもどうぞ~!