吉良吉影はなぜ手を所持するのか、美術の元ネタとともに考察してみた

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険4部に登場した、吉良吉影。平穏な人生を望みつつも、殺人を犯さずにはいられず、女性の手を好む嗜好を持ち合わせていました。

そんな吉良吉影ですが、なぜ手を好み、所持までするのでしょうか。フェチだからと言ってしまえばそれまでなのですが、今回は手が吉良にもたらす作用や、その嗜好を自覚するきっかけとなったモナリザについて考察してみました。


1. 吉良吉影が好んだ「モナリザ」の手

まず吉良吉影が手への性的嗜好を自覚するきっかけとなった「モナリザ」について見ていきます。確かにモナリザの手って美しいんですよね~!ちょっとふっくらしていて健康的というか…

そして全体を見渡すと、顔や手がとても目立っていることが分かります。これは黒や茶の服と肌の色のコントラストにより、顔と手に視線が誘導されることが理由です。手に関しては、袖のシワの光にも目線が引き寄せられますね~!つまりモナリザには手に注目されやすい仕掛けがしてあるのです。

そしてダ・ヴィンチは「手は感情を雄弁に語る」と考えており、肖像画の制作のために手だけを描いた『手の習作』も残されているほど。つまり手は力を入れて描いていたパーツだったと言えそうです。だから綺麗だったのか…!

モナリザの手は吉良吉影だけではなく、万人の視線を惹きつけます。それはダ・ヴィンチが大事にしていたパーツで、丁寧に描かれているからこそ美しいのかもしれません。幼い吉良がモナリザの手に興奮した気持ちも、分からない訳でもないかも…

2. 吉良吉影はなぜ手を所持するのか

では吉良吉影はなぜ手を所持するのでしょうか。そりゃ~フェチだからよ!と言われればそうなのですが、ここでは幸福感や吉良の欲求、手との接し方について考えてみます。

大好きな手と手をつなげば幸福感倍増!?

まずは手をつなぐ行為と吉良吉影の幸福感についてです。作中では切り取った手と手をつなぐシーンの多い吉良。

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』36巻 集英社(56頁)

まあデートだからね…!そりゃ~手だってつなぐよね~
ところでこの記事によると手をつなぐという行為には、ストレス軽減や幸福を感じられるオキシトシンを増やす効果があるそうです。気分が良くなる上に手フェチ…と考えると、吉良にとって手を繋ぐことは幸福感でいっぱいになれる行為であり、だからこそ手を所持していたのかもしれません。

吉良吉影は本性を打ち明けたい

次に吉良の欲求と手の所持について見ていきます。

手をつなぐと幸せなら、普通の女性と手をつなげばいいんじゃ…と言いたくなりますが、プロフィールに「デートの最中は早く帰りたい」「女性が自分勝手なことを言うのが嫌い」と書かれている通り、吉良は交際を望んでいる訳ではありませんでした。

デートには消極的な一面が見える吉良。しかし女性との会話は嫌いとは言えなさそうです。例えば彼女に話しかけるこのシーン。

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』36巻 集英社(53頁)

杜王町の起源から身の上話まで、お喋りな吉良さん。他にも手にサンジェルマンのパンを説明をしたり、杜王町の素晴らしさを語っていたり、なかなか楽しそうです。ということは、女性側からの会話は面倒くさくても、吉良側から会話するのはアリ。自分の思うままに女性とコミュニケーションをとりたいことが伺えます。

それもそのはず。だって吉良には自分を打ち明けたい願望があるんだもんね!

荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』43巻 集英社(172頁)

事あるごとに「私の名は吉良吉影」なんて自己紹介をしていたのも、この欲求によるものだと思われます。
でも吉良の本性は、簡単に人に言えるものではありません。殺人まで犯すんだもんね…打ち明けてしまったら最後、吉良の望む平穏な生活は送れなくなる可能性すらあります。通報されかねないし。

だから吉良は物言わぬ手を手元に置き、話しかけることで欲求を満たしていたのかもしれません。自分の本性を打ち明けても引かれず、逃げられもしない。しかも平穏な生活を望めるからこそ、手を所持していたのではないでしょうか。

平穏な生活を目指す吉良さんなど、ラスボスが安心を目指す精神性の話もあります。

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手は吉良吉影のインスタント彼女

今度は吉良が切り落とした手とどんな関係にあったのか、考察してみます。外に連れ出したり時計を与えたりと、一見手を大切に扱っているように見える吉良ですが、実はそうでもないようです。だって見てこれ…

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(17頁)

誰が上手いこと言えと…サイコパスジョーク!!!

それはさておき「新しい女の子を見つけてくるか」なんて言っている辺り、手を大事な彼女として扱っていない模様。生ものなので数日限りのお付き合いなのは仕方がないのですが、丁寧にお別れする素振りがない。つまりその場限りの恋愛をする、インスタント彼女のような存在なのです。

しかも吉良自体、普通の恋愛に疎そうなんですよね~。アンタ恋人いたことあるんか?と疑いたくなるのが、このシーン。

荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』42巻 集英社(118-119頁)

自分の心境にとまどっており、しのぶを心配した感情の意味が分かっていないんですよね…客観的に見れば「情がわいたのでは?」と言えるのに…だから吉良って恋愛経験が極端に少ないどころか、ゼロの可能性すらありそうです。デートも嫌いだし、そもそも興味がないのかもしれない…

恋愛には消極的だけど、女性と話すのは嫌いなどころか自己表現欲がある吉良。その欲求を解消するために、面倒くさい交際をしなくてはならない「彼女」ではなく、数日限りの「インスタント彼女」として手を所持していたのかもしれません。

番外編:吉良吉影が憧れた平穏な家庭としのぶ

せっかく恋愛ネタに踏み込めたので、もう少しだけ…なぜ吉良はしのぶに情がわいたのでしょうか。吉良の家庭への憧れと、しのぶの人間性について考えてみます。

まずは吉良の育った家庭は、近所から家族仲は良好と言われていました。「両親が年をとってからの息子」という表現からも、とても大事にされていたことが示唆されています。また過保護すぎる父親は吉良の犯罪を許容しており、幽霊の姿になってまで守ろうとしました。その良し悪しはさておき、家族は吉良にとって大事な心の平穏を保てる場所であったはずです。そんな家庭で育ったからこそ、帰る家があってそこに家族がいることに憧れていても不思議ではありません。

ただ異常な嗜好、デート嫌い、恋愛経験不足疑惑のある吉良にとって、家庭を持つのは簡単なことではないんですよね~…誰もが父親のように自分の嗜好を認めてくれる訳ではないし、吉良が面倒くさがりそうな恋愛するところから始めないといけないし。

そんな吉良も、川尻浩作として川尻家の家庭の中に入り込むことは出来ました。そこでは父親らしい振る舞いは出来なかったものの、夫の役割を演じ切るどころかしのぶを振り向かせるまでに…

荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』40巻 集英社(153頁)

傲慢だった態度が大和撫子になったしのぶちゃん。完全に恋する乙女。

でもこの相手を慎ましくサポートする姿こそ、口うるさい女性を嫌う吉良には理想の女性像だったりして…しかもしのぶは川尻浩作とは夫婦なので、吉良が好まないデートなどの恋愛プロセスをすっ飛ばすことが出来ます。これほどありがたい女性はいないんじゃないか…!?


そんなしのぶを短期間でも「妻」として扱っていたからこそ、思わず心配してしまうくらいの情はわいたのかもしれません。だって介抱までしているし…

荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』42巻 集英社(132頁)

家族の良さを知っている吉良ですが、現実的に家庭を持つことが難しい男です。だからこそ、たとえ疑似的でも夫としての振舞いを受け入れてくれたしのぶに情が移ったのかもしれません。

3. 吉良吉影のキラークイーンとダ・ヴィンチ

最後に吉良吉影のスタンド・キラークイーンとダ・ヴィンチについて考察してみます。

まずキラークイーンといえば有名なのがこのポーズです。

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(54頁)

こちらの元ネタであろう作品が、ダ・ヴィンチ作である『洗礼者聖ヨハネ』。

注目したいのは顔と手の目立ち具合。まず顔に目線がいき、腕を伝って自然と手まで視線が誘導されます。しかも背景が暗いため、余計に体のパーツが際立っていますが、この手の目立ち方ってモナリザそっくりじゃないですか…?

しかもこの『洗礼者聖ヨハネ』は、ダ・ヴィンチが『モナリザ』と共に晩年まで手放さず、手元にずっと残していたうちの1枚なのです。よっぽど気に入っていたのか、手を加え足りなかったのか…そしてどちらもモデルはダ・ヴィンチの愛弟子であるサライだったという説まであります。

作者や描き方、モデル、辿った歴史など、共通点の多い2枚。このような背景を知ると、『モナリザ』に魅せられた吉良から、『洗礼者聖ヨハネ』を元ネタにしたキラークイーンが発現したのは偶然ではないのかも…なんて考えられそうです。

ダ・ヴィンチと吉良吉影も似ている?

作者であるダ・ヴィンチと吉良吉影についても、気になる共通点があったのでご紹介します。ダ・ヴィンチはなかなかお洒落さんだったようで、このように言われていたようです。

若いころのダ・ヴィンチは伊達男で、服装や外見に細かく気を配っていたという。両手には指輪をはめ、高級革靴をはき、バラ水やラヴェンダーの香りをただよわせていた。やはりダ・ヴィンチの伝記を書いたパオロ・ジョヴィオによると、身のこなしも上品で、「礼儀正しく、洗練されていて、鷹揚な物腰は生まれついてのもの」だった。

ビューレント・アータレイ、キース・ワムズリー(2013年)『ビジュアル ダ・ヴィンチ全記録』日経ナショナルジオグラフィック社(66頁)

…なんか吉良っぽくない?

ヴァレンチノのスーツに身を包み、洒落た時計(承太郎にディスられてたけど)をつけ、ジャンフランコ・フェレを好んだ吉良吉影。外見にこだわっていますね~!そして態度も同僚によると…

荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(10頁)

もろダ・ヴィンチやないかい。

上品さと物腰の柔らかさなんて、ドンピシャじゃんよ~~~~!しかもモテるし。ダ・ヴィンチは平穏を求めてはいませんでしたが、この辺りはそっくりだと思うんだよな…

だからキラークイーンだけではなく、吉良吉影もダ・ヴィンチが元ネタだったりして…吉良吉影は映画「アメリカンサイコ」のオマージュと言われていますが、美術ネタも参考にしていたら面白いよな~!

まとめ:吉良吉影は幸福と欲求のために手を所持し、ダ・ヴィンチとの関連性も強い

吉良吉影の手やスタンドについて考察してみました。

自分の幸福感や自己表現の欲求、そして理想の女性像のために手を所持した吉良吉影。恋愛には興味が薄そうに見える吉良ですが、手は自分の嗜好であるとともに会話相手にもなる大事なパートナーだったのかもしれません、

そして吉良やキラークイーンはダ・ヴィンチとの関連性がありました。ポージングだけではなく、吉良のキャラ設定もダ・ヴィンチそっくり。偶然なのかは不明ですが、こういうところがジョジョは面白いんだよね~!

参考文献
ビューレント・アータレイ、キース・ワムズリー(2013年)『ビジュアル ダ・ヴィンチ全記録』日経ナショナルジオグラフィック社
COSMOPOLITAN "Holding hands explained, from the science and reasons why we do it to the benefits" 2020/01/28

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