ジョジョの奇妙な冒険4部に登場した「ふり向いてはいけない小道」。杜王町の地図上にはない小道で、杉本鈴美が現れました。
今回は「ふり向いてはいけない小道」とは何だったのか、元ネタを交えて考察してみます。
※8部ネタバレが少しだけあります。
1. 「ふり向いてははいけない小道」とは何なのか
まずは小道の概要についてです。物語で描かれた小道の特徴はこんな感じでした。
・鈴美たち以外の気配がない。自動販売機の電源は切れ、家は空き家ばかり
・地図に載っていない、あの世とこの世の境目
・死者の魂の通り道で、上空に吉良に殺された人間の魂が飛んでいくことがある
・この世に戻る際にはポストの先から振り向いてはいけない。振り向くと手にどこかに引きずり込まれる
・上下左右など方向感覚がめちゃくちゃ
・鈴美のスタンドではないらしい(鈴美はスタンド使いではない)
などなど。不思議な世界でしたね~…
そんな世界に迷い込んだのが露伴と康一くんでしたが、小道に入れたことについて鈴美ちゃんは「自分と波長が合ったから」と話していました。幽霊となってまで杜王町を守ろうとする鈴美ちゃんと波長が合うというのは、故郷愛があり黄金の精神を持っている人のことなんでしょうね~!
また鈴美ちゃんは吉良を倒せる人を待っているので、スタンド使いというのも条件のひとつなのかもしれないよね。吉良が「父親から女の幽霊がいる小道があると聞いたことがある」と話していましたが、息子大好きな吉廣は鈴美ちゃんと考え方は合わないはず。ただスタンド使いだったために、うっかり迷い込んでいたのかもしれません。

2. 「ふり向いてははいけない小道」はスタンドなのか
そんな「ふり向いてははいけない小道」ですが、誰が作り出したものなのかも気になるところ。鈴美ちゃんはスタンド使いではないので、彼女の力ではありません。でも小道には鈴美ちゃんの家があるんですよね~…
ここで思い出したいのが、8部で登場したカツアゲロードのオータム・リーブスです。本体は不在の自然現象のスタンドとされており、不思議なことが起きる小道という点で「ふり向いてははいけない小道」と似ています。とすればオータム・リーブスと同様に、小道もまた人間の本体がいないスタンド能力という可能性もあるのでは…?
例えば小道は杜王町が生み出した自動操縦型の能力だったとかね。最初に殺された鈴美ちゃんの恨みや悲しみが具現化して、杉本家周辺の小道が生まれ、手を切り取られた犠牲者の苦しみが振り向いた際に現れる大量の手となった、なんて想像もできるのではないでしょうか。その場所に絶対に吉良を捕まえたい!という強い思いを持った鈴美ちゃんが、偶然にも呪縛霊となったのかもしれません。
しかもこのスタンドは基本的に対吉良特化型なのかもしれないよね。重ちーが死亡した際には小道に迷うことなく昇天していきましたが、吉良は小道に入り込んで最期を迎えました。鈴美ちゃんも「吉良の犠牲者の魂が上空に飛んでいく」と話していたように、死亡した際に吉良以外は入り込む必要のない小道=吉良だけを成敗するための小道だった可能性もありそうです。
そして鈴美ちゃんは「吉良が捕まったら振り向いてパパとママのところへ行く」と述べていました。振り向く描写はなかったものの、安らかに天に昇って行ったところを見るに、手に引きずられるような悲惨な最期を迎えたわけではなさそうだよね。
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』47巻 集英社(56頁)
とすればやっぱり無数の手は吉良への怨念がこもっているのかもしれないよね~…仮に鈴美ちゃんが振り返っていたとしても、吉良のために尽力した彼女のことは、優しく送り出したんじゃないかな~という気がします。康一くんやチープ・トリックなどこの世の存在まで引きずり込まれそうになったのは、犠牲者の恨みのパワーの強さだったりして…!
考えるほど不思議で、吉良への執着が感じられるこの小道。吉良は「町が生んだ怪物」とされていましたが、小道は「町が生んだ悲しみと平穏を願う力を持った場所」なのかもしれません。

3. 「ふり向いてはいけない小道」の元ネタとは
最後に元ネタについて考えてみます。まずあの世とこの世の境目というのは「三途の川」を思い出しますよね~!川を渡り切ってしまうと戻れない場所であり、小道から昇天してしまうと現世には戻ってこられない点も似ています。
小道を出るには「ふり向いてはいけない」というルールがありましたが、「アダムとイブ」の禁断の果実を口にした話、「鶴の恩返し」などのように「~してはいけない」系の物語は多数存在します。中でもそっくりなのが「ふり向いてはいけない」約束を破ることで死亡する、聖書の創世記の「ロトの塩柱」です。
物語の舞台は、悪事のはびこるソドムとゴモラの街。この街の退廃さが神の怒りに触れ、滅ぼされる決定が下されるも、正しい人とされたソドムのロトの家族だけは近くの町に逃げ切れるよう配慮されることに。その際、ロト一家には「逃げる途中で決して後ろを振り返ってはいけない」という条件がつけられました。ところが…
彼らがロトたちを町外れへ連れ出したとき、主は言われた。
「命がけで逃れよ。後ろを振り返ってはいけない。低地のどこにもとどまるな。山へ逃げなさい。さもないと、滅びることになる。」
(中略)
太陽が地上に昇ったとき、ロトはツォアルに着いた。主はソドムとゴモラの上に天から、主のもとから硫黄の火を降らせ、これらの町と低地一帯を、町の全住民、地の草木もろとも滅ぼした。ロトの妻は後ろを振り向いたので、塩の柱になった。
新共同訳(1997年)『聖書』「旧約聖書 創世記」日本聖書協会
ロトの妻は後ろを振り返ってしまい、塩の柱になってしまったとのこと。「振り向いてはいけない」「振り返ると死亡」という設定が、かなり似ているのではないでしょうか。
そして小道の風景も見てみると…
荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』47巻 集英社(37頁)
背の高い木が見えていますが、これは糸杉かな~…西洋では糸杉は墓地の近くによく植えられることから、死の象徴とも言われているので、生と死の境目にある小道らしいアイテムではないでしょうか。クルクルと渦巻いた雲も特徴的ですが、渦巻きの雲、糸杉という組み合わせはゴッホの絵画を思い出すところです。
By Vincent van Gogh - Google Arts & Culture — agF0eS5NNsa0fg, Public Domain, Link
なんとな~~~く似ている気がするよね~!ちなみにゴッホは糸杉を死の象徴として捉えていたわけではないようで…弟のテオに宛てた手紙には「糸杉に夢中!」「エジプトのオベリスクみたいにプロポーションが最高!」なんて書かれています。たしかにインパクトがあって綺麗だよね。

まとめ:「ふり向いてはいけない小道」は元ネタは聖書のスタンド能力かも
「ふり向いてはいけない小道」について考察してみました。誰もが入れるわけではなく、出るのも一苦労だった不思議な小道。あの変わった現象は吉良を裁くために、杜王町が生みだしたスタンドの可能性もあるのではないでしょうか。
小道の元ネタとしては聖書をはじめ、昔話や伝説などが挙げられそうですよね~!キリスト教ネタが多いジョジョですが、この小道もまたキリスト教と関わりの強い設定なのかもしれないよね。本当にね~ジョジョを読むとキリスト教の勉強になります。荒木先生、ありがとうございます。




参考文献
高階秀爾(2019年)『ゴッホの眼』青土社







