ジョジョの奇妙な冒険に登場したDIO。ディオ時代に吸血鬼となり、承太郎たちを待ち構えていた人物です。
今回は吸血鬼となったDIOの元ネタはブラム・ストーカーによる『吸血鬼ドラキュラ』ではないのか、作品とのDIOを比較しながら考察してみました。
家出少女アンちゃんの話

1. ジョジョ1部、3部とDIOの元ネタは『吸血鬼ドラキュラ』!?
まずはジョジョのストーリーの元ネタについてです。荒木先生は「3部はドラキュラのような物語を構想していた」とお話しされていますが、ジョジョはブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』との共通点が多いんですよね~!例えば主人公ジョナサンと仲間が吸血鬼ドラキュラ退治をする流れはもろ1部。病気になった女性のために吸血鬼を倒すストーリー、ジョナサンたちが多国籍の6人組でうち女性が1人というのは、途中で家出少女が加入した3部に似ています。(参考:「家出少女アンのその後とは?ジョジョ3部キャラの元ネタから考察してみた」)
作中ではイギリスのロンドン、リバプールなどの地名が登場しますが、ロンドンは屍食鬼街とホワイトチャペル街、リバプールはジョースター邸の住所であろう場所。舞台にも共通点があるあたり、かなり『吸血鬼ドラキュラ』の影響を感じるジョジョですが、ここからはよりDIOとの関連を探ってみます。
ロンドンやリバプールどころか、アメリカやチベットまで登場する1部の聖地巡礼の話

2. DIOと『吸血鬼ドラキュラ』の能力、外見の共通点
『吸血鬼ドラキュラ』の吸血鬼の能力や外見とDIOを比較してみます。作中で挙げられていた吸血鬼の特徴は「昼間も活動できるが夜間の方が力が強い」「血さえあれば肉体的能力が強くなる」「人間のように時間の経過で死ねない」「体を杭で貫いたり首を切り離すと死ぬ」など。ほぼDIOじゃんね~!
『吸血鬼ドラキュラ』ではドラキュラと血を交え合った者に催眠術をかけると、ドラキュラの居場所を探り出せる描写があります。こちらはジョースター家やディアボロなど同じ血を引く者同士が気配を感じ取れていた点に近そうです。ちなみに襲われたのは主人公ジョナサンの妻となるミナで、ジョナサンはショックのあまり一夜にして白髪に…吸血鬼に結婚相手が襲われるところは、ディオがエリナにズキュゥゥゥンしたシーンを思い出します。
またディオは首を切り離し、DIOは太陽により塵となって消滅しました。こちらは『吸血鬼ドラキュラ』で、吸血鬼化してアンデッドとなったミナの友人ルーシーが首を落され殺害されたこと、ドラキュラがナイフで刺されて塵と化して死亡したことにも似ています。ルーシーは吸血鬼に襲われた際、その外見的な特徴について「赤い目」を挙げており、DIOの目の色と同じなのも興味深いところ。
他にもドラキュラはメモの文末に自身の名前を「D」と記し、頭文字DなDIOの名前の由来の可能性を伺えるなど、ジョジョファン目線では様々な発見ができる『吸血鬼ドラキュラ』。やっぱりディオやDIOのキャラクター設定の参考にされていたんじゃないかな~!

『吸血鬼ドラキュラ』が元ネタかもしれないDIOのお言葉
DIOの台詞とも比較してみます。3部の元ネタとジョースター御一行の構成についての記事でも触れましたが、まずはドラキュラに対峙するジョナサンらが自分たちの強さを述べた言葉を見てみると…
我々の側には、団結の力がある。これは、吸血鬼族にはない力なのだ。我々は科学を用いることができる。自由に考え、行動することができる。昼の時間も、夜の時間も、同様に用いることができる。事実、我々の力は、それが及ぶかぎりもおいてはなんの制約もないのだ。我々は自由にその力を用いることができる。我々は自己犠牲を厭わず、ほかの人々のために、ある目的を達成することができるのだ。こうしたことが、実に大きなことなのだ。ブラム・ストーカー(2000年)『ドラキュラ 完訳詳注版』水声社(256頁)
これ、テレンス敗北の報告に来たヴァニラ・アイスへのDIOの台詞「ジョースターたちはホリィを救うため、DIOを倒すために命を捨ててもいいと心の奥底から思っている」「DIOから逃げることは人生から逃げると思っているのはバカげたことだが、けっこう重要」にそっくりですよね~…
また『吸血鬼ドラキュラ』がベースとなった映画、フランシス・フォード・コッポラ監督による『ドラキュラ』ではさらにDIO様っぽい台詞が…!
君は運命を信じるかね?ある目的のためには人知を超えた"時"の力さえも変え得ることを信じるかね?
フランシス・フォード・コッポラ(監督)(1992年)『ドラキュラ』コロンビア・トライスター映画
「君は運命を~」はプッチに対する「君は『引力』を信じるか」を思い出しますよね~!「"時"の力」は時を操り、人知を超えた長い眠りから目覚めたDIOを想起させるのではないでしょうか。他にもミナとの対面時に「時の隔たりを越えてきた」と話し、ジョナサンらには「ドラキュラは時を恐れている」と指摘されるなど、映画版ではドラキュラが時にこだわる場面がチラホラ…ただし映画の公開は1992年と3部の連載終了の年なので、時についてののくだりとDIOの能力は偶然の一致ということになります。これぞ運命…!

3. 吸血鬼流!超安心安全なDIOの殺害方法
DIOの人間の殺し方に見える吸血鬼らしさについても考察してみます。まず注目したいのは、承太郎との最終決戦でDIOが道路標識を持ってくるシーン。ナイフの雨を食らい、倒れ込む承太郎を見たDIOは「ジョースターの血統は強運だから死んだふりをしているだけかも」「完全なるとどめを刺す」と言いながら首をはねようとします。
ところがアメコミのヒーローのようにジャジャーンと登場したポルナレフに対応させられるわ、承太郎から物音がするわで疑心暗鬼になってしまうDIO様。地元警察に銃撃させ、承太郎の呼吸と心音の停止を確認し「死んでいる」と口にするも…
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険 』28巻 集英社(81頁)
念には念を入れまくって再び道路標識を握るDIO様。怖ぇ~~~~~~!!!
たしかに首をはねれば生きてはいられないので、安心できる方法ではあります。でもこのやり方がものすごく吸血鬼らしいとも言えるんじゃないかな~…なんせ『吸血鬼ドラキュラ』では、吸血鬼は「体を杭で貫いたり首を切り離すと死ぬ」=アンデッドなのでこの方法以外では死なないんだもんね~!DIOは花京院のことも体を貫いて殺害していましたが、吸血鬼基準での超~~~確実な殺害方法を自然と選んでいたのかもしれません。
花京院が生きていたら4部即終了、6部は大混雑だったかもしれない話

4. 3部のタイトル『スターダストクルセイダース』と『吸血鬼ドラキュラ』の関係
最後に「スターダストクルセイダース」というタイトルの理由を考えてみます。直訳すれば星屑十字軍ですが、ここで思い出すのは世界史でも登場する十字軍。11世紀に始まったキリスト教徒によるイスラム教圏への進出で、聖地エルサレムの奪還を目的としていました。
で、『吸血鬼ドラキュラ』で吸血鬼が嫌うものとして登場したのが、にんにく、十字架、聖餐用のパンなど。つまりスターダストクルセイダースは、星の一族らが十字軍のようにイスラム教圏へ歩を進めることと、吸血鬼に対抗できる十字架が由来の可能性もあるのでは…!?
でも吸血鬼の弱点が由来だとすれば、全然別のタイトルもあり得たよね。『ガーリックボーイズ』とかね。そういうバンドいるし…ジョジョは音楽ネタ多いし…
「黄金の風」のタイトルの意味についても考察しました

『ジョジョの奇妙な冒険』の『奇妙』は『吸血鬼ドラキュラ』が元ネタ!?
『ジョジョの奇妙な冒険』というタイトルについても『吸血鬼ドラキュラ』との関連を考えてみます。注目したいのは『奇妙な』という言葉のチョイスです。独特ですよね~!
『吸血鬼ドラキュラ』はイギリス人のジョナサンが、ドラキュラのロンドンの不動産購入のためにトランシルヴァニア(ルーマニア中部)にある城を訪れるところから始まります。その際、ドラキュラがイギリス人から見たトランシルヴァニアの感じ方ついて述べていた台詞を見てみると…
「ここはトランシルヴァニアじゃ。トランシルヴァニアはイギリスではない。この国のしきたりは、きみのお国のしきたりとは大きに違う。だから、きみなどから見たら、ずいぶん奇妙なことも多々あるじゃろう。早いはなしが、夜前聞いたきみの経験談な、あれなどを見ても、この国には色んな奇妙なことがあるということが、多少はおわかりじゃろう」ブラム・ストーカー(1971年)『ドラキュラ』東京創元社(39頁)
「奇妙な」という言葉を用いていますね~…こちらはジョジョ連載開始前の日本語訳版ですが、他の日本語訳版でも「奇妙な」という言葉が使われていました。
その後ジョナサンはドラキュラ城に監禁されてしまうのですが、城内で不気味な体験をするたびに、何度も「奇妙」という単語を用いて日記を書き残しています。鏡が1つもない、狼の声以外の物音が聞こえない、ドラキュラが夜に活動し朝になるといなくなるとかね。城から脱出後にはドラキュラ退治に出かけることになるのですが、それもまたかなり奇妙な人生では…?
ということでディオにより生活が一転したジョナサンの話で始まる『ジョジョの奇妙な冒険』は、ジョナサンが吸血鬼ドラキュラとの出会いで「奇妙な」運命に巻き込まれたことに由来するタイトルなのかもしれません。しかし何度見てもパンチのある作品名ですよね…!
貴族ではないディオのジョースター家の財産の乗っ取りは無理だった話

まとめ:DIOの外見、能力、言葉などは『吸血鬼ドラキュラ』が元ネタかも
DIOと『吸血鬼ドラキュラ』を比較してみました。
ジョナサンとの対決に始まり、能力や外見、台詞などDIOとの共通点が多い『吸血鬼ドラキュラ』のドラキュラ。荒木先生のキャラ作りの参考にされた可能性もありそうです。
『スターダストクルセイダース』『ジョジョの奇妙な冒険』というタイトルも、『吸血鬼ドラキュラ』との繋がりが見えてくるのも面白いところ。ジョジョは細かなところまで凝っているのが楽しいですよね〜!
3部の元ネタ系の話いろいろ



参考文献
ブラム・ストーカー(1971年)『吸血鬼ドラキュラ』東京創元社
ブラム・ストーカー(2000年)『ドラキュラ 完訳詳注版』水声社
フランシス・フォード・コッポラ(監督)(1992年)『ドラキュラ』コロンビア・トライスター映画