ジョジョの奇妙な冒険4部に登場した吉良吉影。平穏を望みながらも殺人をやめられないという強烈な個性を持つキャラクターでした。
今回は吉良の性格と行動の動機について、生い立ちの影響を中心に分析してみました。
1. 吉良吉影の社交性と生い立ちの影響
まずは吉良の社交性と生い立ちの関係について考えてみます。他人との関係を積極的に築こうとしなかった吉良ですが、その行動には両親の教育が関係していそうなんですよね~…荒木先生曰く、吉良は母親から甘やかしすぎる虐待を受けており、父親は見てみぬ振りという裏設定があったとのこと。母親が教育の支配権を握り、父親は無関心という生い立ちは殺人犯に一定数見られるのだそうです。
でね、父親との絆の欠如に母親との極端な関係が重なると、子供の社交性に影響が出るようで…
子供時代の殺人者と父親の関係の薄さは、ただ父親が不在だったということだけでは説明できなくなる。むしろ、父親の側に、息子に対して自分を積極的に「投影」し、子供のために配慮してやる能力が欠如しており、それが子供時代および成人して以降の殺人者の心に大きな空白をもたらしてしまったと考えるべきだろう。少年時代の殺人者は、心理的および社会的に深い孤立感を感じている。それが、以前からの母親との両面的な関係をさらに深刻なものにしていくと、他の人間とのネガティブなかかわりの初期兆候や、ポジティブな人間関係の拒否といったことが見られるようになる。
ロバート・K・レスラー(1995年)『快楽殺人の心理: FBI心理分析官のノートより』講談社(40頁)
他者との関わりに否定的になるとのことですが、なんだか吉良っぽいですよね~!実際に父親からの無関心を受けた殺人犯は「父親からしていいこと、いけないことを教わらなかった」と振り返っている例もあり、母親だけではなく父親からの教育の重要性が感じられるところです。やっぱり見てみぬ振りはダメなのよ、吉廣さん…
また子供は両親を見て社交性を学ぶものですが、歪んだ家庭内で他人への信頼や自立を学ぶことは難しいよね…極端な愛情を与え、手本としても不十分だった吉良の両親。そんな2人のもとで育ったことが、吉良の社交性に影響を与えているのかもしれません。でも息子を守れなかった後悔からつきまとうようになるなんて…吉良パパもやりすぎなんだよな~!

承太郎が吉良吉影を「何が特技かよくわからん」と評した理由
吉良の生き方についても見ていきます。吉良家でトロフィーや賞状を見つけた承太郎は、吉良の人物像をこう評していました。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(117頁)
表彰されまくる男を「ヒーローになっていない」と評する承太郎のレベルの高さはさておき、注目したいのは「目立たないように人生を送っている」という点ね。吉良のように両親との極端な関係により、家庭内の絆に異常をきたすと、友人関係にこんな影響が出るそうで…
こうした家族間の絆の欠如は、友人との関係にも影響を及ぼす。殺人者たちは、多くの場合、自分の性格を「恥ずかしがり屋」「人見知りをする」などと形容する。彼らは、学校の人気者コンテストで選ばれることもなく、周囲の人々の記憶にあまり残っていない。ある殺人者を弁護することになった弁護士は、被告と自分がたまたま高校で同じクラスにいたことを知ったが、少年時代の被告のことを何一つ思い出すことができなかったという。
ロバート・K・レスラー(1995年)『快楽殺人の心理: FBI心理分析官のノートより』講談社(42頁)
なんか吉良っぽいよね~…「周囲の人々の記憶にあまり残っていない」なんて、同僚に「これといって特徴の無い、影の薄い男」と評されたことを思い出します。3位のトロフィーは「プライドを満たしながら、目立たないように生きたい願望をかなえていたのが3位」と解釈できるところですが、「目立たないように生きたい」という部分は、家庭内の絆の欠如によるものなのかもしれません。
ジョジョのラスボスはいつも孤独…

2. 吉良吉影はなぜ「手を切る」行動をするのか
次に吉良が「手を切る」理由を考えてみます。殺人犯の動機として重要視されているのが、彼らの空想です。吉良のように不安定な家庭環境に身を置いていた場合、現実逃避の手段として暴力的、性的、フェティシズムに関連した空想にふけり、自分中心の物語を紡ぐことがあるのだそう。その空想がどんどん膨れ上がり、殺人方法へ繋がるとされています。
たしかに吉良も川尻浩作になりたてで自由に動けない時に、爪を噛みながら窓から女性を眺めて「お前の細い首を絞め殺してみたい」と想像力を働かせるシーンがありましたよね~…本人は「爪が伸びる時期は殺人衝動が抑えられない」と語っていましたが、ストレス過多な状況からの逃避のするための空想にも見えてきます。筆跡練習、大変だったんだろうな…
また殺人時に「手を切る」のも、子供時代と繋がりとの関連が伺えるところ。モナリザの手について語るシーンを見てみると…
わたしは…子供のころ……レオナルド・ダ・ビンチの「モナリザ」ってありますよね……あの絵…画集で見た時ですね あの「モナリザ」がヒザのところで組んでいる「手」…あれ……初めて見た時……なんていうか……その…下品なんですが…フフ……勃起………しちゃいましてね…………(中略)「手」のとこだけ切り抜いてしばらく………部屋にかざってました あなたのも……切り抜きたい…荒木飛呂彦(1996年)『ジョジョの奇妙な冒険』46巻 集英社(180頁)
何度見ても下品すぎる名言。台詞のねっちょり感がすごい。
手だけを切り取ってしまった吉良さんですが、殺人犯の犯行の仕方は子供時代の遊びと関係があるとされています。人形の首を引き抜いて遊んでいた犯人は頭部切断を、斧で友人を追いかけ回していた犯人は凶器に斧を、など幼少期の行動が歪んで表われることがあるのだとか。吉良の「手を切る」も、モナリザの手を切り抜いた行動が発展して、女性の手を切る犯行に繋がったと捉えられるのではないでしょうか。
モナリザの手を部屋に飾っていたところから、手とデートをするようになるのも、吉良の空想の広がりを感じさせるところ。モナリザへの行動が変わっていれば、もっと違う殺し方だったのかもしれないですよね~…それはそれで気になる…

吉良吉影が連続殺人を犯す理由
吉良が連続殺人を犯す理由についても考えてみます。48回にも及ぶ殺人でしたが、ここまで回数を重ねたのは初めての殺人に興奮したからなんでしょうね~…殺人犯は犠牲者を殺害する難しさや恐怖を覚える者がいる一方、高揚感を味わう人間もいるそうです。このタイプは再び高揚した気分を味わうために、殺人を犯すのだとか。鈴美ちゃん一家殺害時に何を感じていたんだろうか…?
「人を殺さないといられないサガ」を持つ連続殺人犯として描かれた吉良。でもそれは先天的な素質だけではなく、家庭環境、手に関する空想、殺人時の気分など複数の要素が絡み合っていたのではないでしょうか。けっこう複雑なキャラクターなのね…!
生い立ちが複雑なジョジョラスボスの皆さん

3. 「秩序型」殺人鬼である吉良吉影
最後に吉良の殺人鬼としての型についてです。元FBI捜査官のロバート・K・レスラーは複数の著書において、大量殺人犯を計画性のない「無秩序型」、計画的で一連の流れに秩序がある「秩序型」に分類しています。
吉良に該当しそうなのは「秩序型」。彼らの特徴には「平均以上の知能」「社会性がある」「子供時代に甘やかされている」「職歴がしっかりしている」「犯行中に感情をコントロールできる」「死体を隠す」「証拠隠滅を図る」「見知らぬ犠牲者を選ぶ」「犠牲者を服従させる」などが挙がるそうです。ドンピシャじゃんね~!
吉良が「手が綺麗な知り合いでもない女性を選ぶ→手を切り取った後は爆破して証拠隠滅→犯行後には手とデートし、腐敗したら処分」という流れを繰り返しているところも「秩序型」ならでは。荒木先生は吉良のキャラクター設定を行う際、快楽殺人鬼について調べたとのことですが、このあたりはレスラーの著書を参照しているのかもしれません。
ちなみに秩序型には「整備された車を持っている」なんて特徴もあるのだとか。吉良も綺麗に使っていそうな車に乗っていたのも、「秩序型」というキャラ設定ゆえだったりして…!

吉良吉影が川尻早人を殺害した理由
でもさ、感情をコントロールできる「秩序型」なら早人くんのことを殺さなかったはずでは?と気になるところ。計画的な殺人犯らしくない大チョンボでしたが、この理由もレスラーの分析から説明できるようで…
殺人犯の犯行の引き金のひとつに「支配」があります。犯人がその場を「支配」できていると思っている中で、犠牲者の思いもよらぬ行動で「支配」が揺らいだ時、犯人は怒りを覚えて殺人を犯すことがあるのだそうです。思い描いた計画が崩れ、「支配権は自分にある」状態を守りきるために殺害を犯してしまうということね。
吉良も早人を追い詰めるつもりで風呂に入るも、その光景が録画されていた上に、早人としのぶに手を出さないよう要求されていました。吉良は早人を屈服させるイメージで風呂に乱入してきたわけですが、場の支配権が吉良から早人に移り、計画が崩れたことで感情が爆発したんでしょうね~…
とはいえそこから新たな能力が生まれてしまうのが吉良のすごいところ。複雑な生い立ちながらも、タフな人なんだよな~!

まとめ:吉良吉影の性格と行動の動機は生い立ちから説明可能なものも多いのでは
吉良の性格や行動について考察してみました。独特すぎる行動や性格の吉良吉影ですが、犯罪心理学などの観点から説明がつくところも多そうです。
両親の教育の影響も大きいようでしたが、作中ではそれがほぼ描かれなかったのが面白いところ。吉良がミステリアスな人物に見えるのは、その原因や複雑なバックグラウンドが見えないからなんでしょうね~!そりゃ~魅力的なラスボスになるよな~!



参考文献
ロバート・K・レスラー(1995年)『快楽殺人の心理: FBI心理分析官のノートより』講談社