ヴァレンタイン大統領の愛国心や正義は悪なのか考察してみた

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険7部ことスティール・ボール・ランに登場したヴァレンタイン大統領。悪役のポジションから、ジョニィたちに立ちはだかりました。

でもヴァレンタイン大統領の愛国心や正義による言動は本当に悪だったのでしょうか。考察してみました。


1. 継承から考えるヴァレンタイン大統領の愛国心と正義

まずはジョジョのテーマである継承から考えてみます。7部では主要人物が様々なものを受け継いでいました。ジョニィは馬乗りの家系としてジョッキーを、ジャイロは代々続く法務官の職を、ヴァレンタイン大統領は父親の愛国心を継承しています。

でもね、7部は継承するだけではダメなようで…ジョニィがリンゴォ戦前に「『受け継いだ者』では勝てない」「気高く『飢えた者』でないと」と発言していたように、継承に加えて気高い上昇志向も重要とされました。その点でヴァレンタイン大統領は愛国心を引き継いで大統領にまでなり、遺体の総取りと国家の繁栄を実現しようとした超~~~上昇志向の強い「飢えた者」と言えるはずです。

ただし「気高く」飢えていたかは別問題でね…ジョニィは気高くない飢えた者としてディエゴを挙げていましたが、金のために老婆の殺害まで疑われてるのが気高くないとすれば、気高さは外道な行いをしないことを意味します。で、ヴァレンタイン大統領は遺体総取りのために犠牲者を出すも「最低限の犠牲で済んだ」と正当性を主張。さらにはスティールの殺害計画まで…!目的のために他人の命をも利用するあたり、外道っちゃ外道なんですよね~!

どうやらヴァレンタイン大統領は愛国心と上昇志向のある人物でも、その言動には悪役らしさが垣間見える人物のようです。けっこうエグいことやってるよな…

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7部のテーマと比較して見えるヴァレンタイン大統領の悪

悪役らしいヴァレンタイン大統領ですが、7部のメッセージに乗っ取った行動もしています。7部では「人は何かを捨てて前へ進む」「『全て』を敢えて差し出した者が最後には真の『全て』を得る」といった類の台詞が何度も登場しました。犠牲なくして得るものなし的な話ですが、ヴァレンタイン大統領は「犠牲者を出してでも遺体を集め、国家を繁栄させる」ことを目指したので、この言葉に沿った行動をしていることにはなります。

ただその犠牲について、ジョニィたちと比べてみると…遺体を全て渡す、自分の頭部を攻撃するなど、ジョニィたちは基本的に自分たちの中から犠牲を出していた一方で、ヴァレンタイン大統領は自分自身に加え、レースの参加者や国民の命をも犠牲にしていました。しかも圧倒的に罪悪感が欠けているんだよな~!ラブトレイン発動時なんてこれだもん。

荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』20巻 集英社

「地球の裏側か?」「どこかの戦争か?」となんだか他人事のご様子。アンタ、人の心はあるんか?

武器を構えた人物の帽子や背景の「SAIGON」の文字を見るに、場所は恐らくベトナム。国外にまで被害及んでるやんけ!と言いたくなりますが、それに対する慈悲の心の描写はなく、アメリカの幸福のためなら他国の犠牲もオッケ~おけつだよ!というスタンスなんですよね~…

だからヴァレンタイン大統領の行動は、7部のメッセージのひとつ「人は何かを捨てて前へ進む」に乗っ取ってはいるものの、その犠牲は他人を巻き込むもので、良心の欠如も見られる点で悪なのではないでしょうか。この性格はアメリカの繁栄を考えすぎているせいなのか、元々サイコパス系なのか…どっちなんだろうね…

サイコパス代表のDIO様の話もあります

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2. ヴァレンタイン大統領の愛国心と悪との関係

次にヴァレンタイン大統領の愛国心と悪との関係についてです。まず注目したいのはジョニィへの説得シーン。ヴァレンタイン大統領はこのような言葉で語りかけ始めました。

わたしの行動は「私利私欲」でやった事ではない 「力」が欲しいだとか誰かを「支配」するために「遺体」を手に入れたいのではない(中略)わたしには「愛国心」がある 全てはこの国のために「絶対」と判断したから行動した事… 荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』22巻 集英社

個人的な「力」「支配」のためではなく、国のための行動だったとのこと。

で、ヴァレンタイン大統領は「自分がナプキンを取りに行く」と話すシーンでは、こんな言葉も口にしていました。

そして「ナプキンを取れる者」とは万人から「尊敬」されていなくてはいけない 誰でも良いってわけではない… 無礼者や暴君はハジかれる―それは『敗者』だ このテーブルの場合…「年長者」か… もしくは「パーティー主催者」に従ってナプキンを取る…………………「尊敬」する気持ちが全員にあるからだ………
(中略)
もうすぐそれが手に入る……世界中の万人が「敬意を払う」ものがな…それはゆるぎない確かなもの それが「真の力」だ その力の下には「味方」しかいない荒木飛呂彦(2008年)『STEEL BALL RUN』16巻 集英社

自分がナプキンを取れる者=尊敬される真の力を持つ者になりたいそうな。それは一国のリーダーとして、国の繁栄のために他国よりも力を持ちたいという意味でもあるはずです。じゃあ支配やんけ!と言いたくなりますが、ここでのヴァレンタイン大統領はあくまで敬意を払われる形で上に立ちたいと主張しています。

ところがジョニィの無限の回転の前に倒れると、野心だけは気に入っていたディエゴに「支配者になれ」「未来のアメリカを支配しろ」と、説得が失敗した際の後任を託していました。信頼できない相手に愛する国の未来を託すなんて…長い目で見て、アメリカが良くなるのかは疑問ですよね~…少なくとも他国に尊敬される国にはならないだろうな~!

国のために国際社会で尊敬されるトップになることを目指していたはずが、終盤では支配に重きを置いているようにさえ見えるヴァレンタイン大統領。なんだか「『勝利して支配する』! それだけよ… それだけが満足感よ!」的な話に変わってきていますよね~…やっぱりジョジョらしい悪役やんけ!

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ヴァレンタイン大統領の家族と愛国心との関係性

そしてヴァレンタイン大統領の愛国心と家族との関係についても見ていきます。ヴァレンタイン大統領の愛国心の原点となる過去の回想シーンでは、こんな言葉がかけられていました。

荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』22巻 集英社

愛国心を持つことが家族を守ることに繋がるとのこと。人として優先すべき順位は「国>家族」のようです。

一方で真逆の考え方をしていたのが、ジャイロの父ちゃんでした。

荒木飛呂彦(2004年)『STEEL BALL RUN』4巻 集英社

国よりも家族の方が大切だよ~!家族の幸せは未来にも繋がるよ~!とのこと。「継承」がテーマのジョジョにおいて、荒木先生が描きたかったメッセージはこちらのはずです。っていうかこれ、もろ未来に託すツェペリ魂やんけ。うけとってくれーッうけとってくれーッうけとってくれーッ

だから主人公サイドに荒木先生が描きたかった主張があるならば、ヴァレンタイン大統領はやはり悪役なんでしょうね~!しかもさ~~~ヴァレンタイン大統領って愛国心はあるのに、家族関係はイマイチなんだよな~!スカーレットとの関係も冷めていたようだし、死亡時には「本物の妻がどこへ行ったのかはどうでもいい」で片づけるしさ~…スカーレットは大統領のために戦ったのに…

さらに回想シーンでは父親の死の真相をヴァレンタイン氏が話す横で、母親が号泣していたんですよね~…時が経っても家族を失った悲しみは癒えず、父親も戻ってこない…と考えると、愛国心による行動は必ずしも家族の幸せに繋がるとは言えないのではないでしょうか。

このようにヴァレンタイン大統領の主張は主人公サイドと真逆という点で、悪役として描かれていたはずであり、「家族>国」というのが7部のメッセージのひとつなのかもしれません。しかし愛国心を持っていても家族関係が良好になるとは限らないって、大統領自身が証明しちゃってるのがね…なんたる皮肉…

元祖・ツェペリ家魂を継承したシーザーの話もあります。うけとってくれーッ!

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3. 歴代ラスボスとヴァレンタイン大統領の悪の比較

最後にヴァレンタイン大統領と歴代ラスボスを比較してみます。6部以前のラスボスは私利私欲のために、無関係な他人を巻き込んで犠牲にしていました。自身の平凡のために殺人を行う吉良吉影、利益のために若者にまで薬物を広めるディアボロ、全人類に思想を押しつけようとしたプッチとかね。そんな彼らに各部の主人公は正義の鉄拳を下しており、ラスボスたちが明確に悪として描かれていました。

でもヴァレンタイン大統領はアメリカのために!と、国民の幸福を考えて行動しています。な~んだいい人やんけ!と言いたくなりますが、あくまでアメリカの安全や繁栄を目指しているだけで、世界平和を願っているのではありません。ジョニィへの説得ではこんな台詞がありました。

「不幸」や「酷いもの」はどこかへ吹っ飛び…他の誰かが「ヘタ」をつかむ それが人間世界の現実であってあらゆる人間が「幸せ」になる事などありえない 「美しさ」の陰には「ひどさ」がある いつも「プラス」と「マイナス」は均衡しているのだ荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』22巻 集英社

すごくリアルな話ですよね~~~…確かに全人類が幸福になることは無理難題です。でもアメリカが「美しさ」「プラス」を得る一方で、他国が「ひどさ」「マイナス」といったヘタを掴んでいるならば…自分たちの幸福のために他人を犠牲にするという点で、歴代ラスボスたちの姿勢と大きくは変わらないという見方もできます。

そもそもアメリカを繁栄させたい!という希望も、ヴァレンタイン大統領の過去の出来事による個人的な夢だしな~!その点では私利私欲のために他人を巻き込んだ人とも言えるのではないでしょうか。人のために尽くしているようで、歴代ラスボス級の身勝手さも伺えるあたり、やっぱり悪役だよな~という気がします。

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そして国のためを思って行動していたヴァレンタイン大統領に近いのが、人類のためを思って世界を一巡させようとしたプッチです。ただプッチが行おうとした「自分の未来を知りながら覚悟をして生きる」ことは、必ずしも誰も望んでいることではありません

それがプッチが悪たる所以でもある一方、ヴァレンタイン大統領が目指した自国の繁栄や安全の保障は、大半の人間にとって悪いことではないはず。その幸福度の確実性と、個人の思想にまで立ち入っているか否かの違いは、ヴァレンタイン大統領が完全なる悪と言いづらいところではあります。

でもやっぱり善でもない訳でね…ラブトレイン戦で登場した週給20ドルの運転士さんを思い出してみると…

荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』20巻 集英社

アメリカ国民の幸福のために、アメリカ国民が犠牲になるという矛盾よ…

この人にしてみれば「アメリカの繁栄なんかどうでもいいから、今すぐ俺を解放してくれ!」って考えるはずでね…ヴァレンタイン大統領の理想のために犠牲になった国民やその家族としては、国の発展よりも個人が生きてさえいればいいと思うのではないでしょうか。その点でやっぱり思想の押しつけは行われているし、プッチにも似てるよね~…

ただアメリカ国民を含め、多くの人々が豊かになることを望んでいたのもまた確か。注目したいのはレース終了後の話です。

多数の死亡者が出て非人道的レースとの批判が各方面から上がりはしたが レースによる経済効果が7兆円と発表され またプロモーターのS・スティール氏が個人的利益全額を各方面に寄付すると発表すると 批判はピタリと止んだ

荒木飛呂彦(2011年)『STEEL BALL RUN』24巻 集英社

多数の犠牲者への批判が、レースの莫大な利益による経済効果と、寄付という美徳で鎮火されていました。ヴァレンタイン大統領が人命よりも繁栄を優先したように、人々もまた「金による経済的、心理的な豊かさ>人命」と考えていたっぽいですよね~…だから皆が欲するものを誰よりも理解していたとも言えます。なんせ国外からは勲章が贈られ、国内の支持率90%越えだもんな~!

ヴァレンタイン大統領の言う通り、全人類幸福というのは不可能で、繁栄の過程では必ず犠牲が発生してきました。それを理解しながらも理想を追う姿勢は大統領ならまだしも、いち人間としては高慢とも言えます。でもシビアな現実の中でも国民を思い、その一部を実現していた一面もあり、その点で歴代ラスボスと違って完全な悪とは割り切れない人物なのかもしれません。

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まとめ:ヴァレンタイン大統領の愛国心や正義は悪役らしさに繋がっているのでは

ヴァレンタイン大統領の愛国心や正義から、悪か否かを考察してみました。

強い愛国心を持ち、アメリカの繁栄を願って行動していたヴァレンタイン大統領。でも他人を巻き込んだ姿勢など歴代ラスボスとも似た性質を持つ点では、悪役らしい人物と言えるのではないでしょうか。

しかしジョニィが「いい人かも」と感じたように、一見するとまともにも見えてしまうのが恐ろしいんだよな…残酷さを上手く正義感で隠している絶妙なキャラクターなんですよね~!これ荒木先生の描き方が見事すぎるよな~!

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