ジョジョの奇妙な冒険7部では、ジョニィがジャイロに「本当に……『ありがとう』…それしか言う言葉がみつからない…」と述べるシーンがありました。
今回はこの言葉の意味について、ジャイロとの関係から考察してみます。
1. ジョニィとジャイロの出会いへの「ありがとう」
まずは「ありがとう」の意味をジャイロの人柄、鉄球から考えてみます。台詞の全文はこんな感じね。
ありがとうジャイロ 本当に… ……本当に…… 「ありがとう」…それしか言う言葉がみつからない…
荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』22巻 集英社
ヴァレンタイン大統領戦で、敗北を悟ったジャイロが残したLesson5「遠回りこそが最短の近道」の意味を理解した時に、ジョニィが発した言葉でした。「遠回りこそが最短の近道」は、レース開始前に鉄球で足が動いたのと同じ原理を使って、馬の脚を動かせ!の意味。自分の死を受け入れながらも、ジョニィの勝利を強く願うジャイロの思いが伝わってきますよね~!そりゃ~感謝するよね…!
馬の力を利用したジョニィはタスクACT4を発動させ、見事ヴァレンタイン大統領を撃破。でもこのシーンだけではなく、旅の間は何度もジャイロに手を差し伸べてもらっていましたよね~!足が動いたことでレース参加への熱意を胸にしたり、レース中には同行の許可をもらって助け合ったり…ジャイロなしではこのレースが人生の転機になんてならなかったはずです。
そんな素敵な出会いとなったのは、ジャイロの技術、人の良さがあってこそ。「ありがとう」は新たな人生の幕開けの立役者でもあったジャイロへの感謝であり、感謝してもしきれなかったジョニィは、本当に「ありがとう」という言葉以外出てこなかったんじゃないかな~!

ジョニィのタスクACT1からACT4に見える生長
ここでジョニィのタスクについて考えてみます。ACT1の爪弾から始まったタスクですが、爪弾は訓読みすると「爪弾き=排斥される、仲間外れにされる」という言葉になります。父親からの愛情に飢え、世間からも見捨てられたジョニィはまさに爪弾きにされた存在。そんな寂しさがACT1発現の理由なのかもしれません。まあジョニィは英語圏の人なんだけど…
一方でACT4は馬の力を受けた状態から、ヴァレンタイン大統領の次元の壁さえもこじ開ける爪弾を放ちます。家族からも競馬界からも爪弾きにされた人間が、馬と共にこじ開ける能力にたどり着くなんて、ジョッキーとしての強いプライド、レースを通じて自分の人生を切り開いてきた自信、大きな生長を感じますよね~!
ということでACT4への変化は、ジャイロとの旅路での生長が具現化した姿だったのではないでしょうか。最終Lessonを受けてこの能力が発動するところが泣ける…

2. ジャイロがジョニィに与えた幸福感への「ありがとう」
次に精神的な幸福についてもう少し考えてみます。さてジョッキーとして大活躍し、瞬間的な強い喜びや達成感は何度も経験していたであろうジョニィ。優勝とか女の子にチヤホヤされるとかね。あなたならどうする…?最高だった…とかいう名言。科学的な話でいえば、この時のジョニィは目標達成時などの強い快感で生じる神経伝達物質のドーパミンが分泌されていたのだと思います。
でもジャイロと過ごす時間は、突き抜けるような快感とはちょっと違ったはず。朝の空気の中でドロドロのコーヒーを嗜んだり、ギャグにかなり大爆笑したり、本名とフェチを暴露してドン引きしあったり…そんな何気ない行動には瞬間的というより、ジワジワと湧き上がるような幸せを感じたはず。このような他人との繋がりを感じた時には、愛情や幸福感を生むオキシトシンが放出されるそうですが、厳しい父親のもとで結果を求められたジョニィは、こんな喜びはあまり味わってこなかったんじゃないかな…
だから「ありがとう」という言葉には、あふれ出るような幸福を覚える楽しい時間を共に過ごした感謝も含まれているのではないでしょうか。強い絆、おバカな思い出、本気の切磋琢磨を経験した仲だからこその「ありがとう」なんですよね、きっと。

なぜジョニィはヴァレンタイン大統領の取引に応じかけたのか
そんなジョニィはヴァレンタイン大統領の「別世界のジャイロを連れてくる」という取引に心が揺らいでいたようでした。取引に応じれば別人のジャイロがやってくるわけですが、それでも良かったのでしょうか。
ジョニィだって本当はあのジャイロがいいはずです。またコーヒーを一緒に飲みたいし、新曲を披露されたいし、他愛のない時間を過ごしたいよね…でもね、ジョニィはジャイロという存在を心から愛しているからこそ、自分のことなんて知らなくてもいいから、どこかで幸せに生きていてほしいと思うんじゃないかな~…
それは自分よりもまずジャイロが幸せであってくれ!という気持ちがあってこそで、ジョニィの生長の証でもあるよね。漆黒の意思を持ち、自分のための結果を求め続けてきたジョニィ。そんな彼がジャイロを連れてくるという選択肢に心が揺れたのは、自分に何の得がなくとも、純粋に他人の幸福を祈れるようになったからとも言えるのではないでしょうか。
ジャイロが自分ではない人と出会っていればもっと幸福だったかもしれないし、それならそれでもいい。彼が本当に大切で感謝してもしたりなくて、幸せでいてほしいからこそ、ジョニィはヴァレンタイン大統領の取引に心が揺れたのかもしれません。その気持ちを見抜いた上で取引を持ち掛けていたとすれば、ヴァレンタイン大統領もすごいよな…!
実はジョニィと同じ生長を遂げていた由花子ちゃんの話

3. 3部ラストシーンとジョニィの「ありがとう」の比較
最後に3部のラストシーンと比較してみます。注目したいのはポルナレフのこの台詞。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』28巻 集英社(184頁)
仲間の死という悲しみに暮れるのではなく、出会えた喜びを共有し合っていた承太郎たち。それはジョニィとジャイロが幸福な時間を過ごしたように、花京院たちと過ごした時間もかけがえのない旅路だったからこそです。インドに文句を言ったり、ピシガシグッグッで意気投合したり、ベンキを舐めたと盛り上がったり。ポルポルくん大活躍。
ジョニィにとっても、3人にとっても、仲間の死はあまりにも辛かったはず。でもじゃあ出会わない方が良かったのか、と問われるとそれは違うんだよね…みんなでいたがゆえの楽しい時間だったし、楽しかったからこそ別れは悲しくなるものです。
だから台詞は違えど承太郎たちが花京院らに思うのは、ジョニィと同じ「ありがとう、それしか言葉が見つからない」という出会いへの感謝だったのではないでしょうか。そして「あの面子だったからよかった」「最高の仲間だったからこそ彼らを忘れず、強く生きて行かなくてはいけない」、そんな喜びと生き残った者の覚悟はジョジョの一貫したテーマでもあるのかもしれません。

まとめ:ジョニィの「ありがとう」の意味はジャイロへの感謝と幸福感があったからこそ
ジョニィの「ありがとう」の意味を考察してみました。
ジャイロへの感謝は技術面、精神的な生長はもちろん、かけがえのない絆があったからこそですよね~!強い関係性でありながらもジョニィは「ありがとう」というシンプルな言葉を使っていましたが、人間、本当に感謝したい時は「ありがとう」しか出てこないんだろうな~…
ジョジョでは仲間への感謝がいつも直接的に表現されるとは限りませんが、どの部でも大切な人に思うのは、きっと「ありがとう、それしか言葉が見つからない」で、それは単独でやってくるラスボスたちには味わえない気持ちのはず。ジョニィの「ありがとう」は仲間がいるからこその幸福、素晴らしさが凝縮した台詞でもあるんじゃないかな~!



参考文献
ナショナル ジオグラフィック「ドーパミンは「快楽物質」ではない、“幸せホルモン”の真実」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/25/021800087/(2025年6月25日確認)
ナショナル ジオグラフィック「恋愛と失恋の科学、私たちはなぜあんなふうになってしまうのか」https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/25/020700070/(2025年6月25日確認)