ジョジョの奇妙な冒険4部に登場する吉良吉影。凡な男に見せかけ、女性の手を切り取り杜王町を恐怖に陥れた人物でした。
そんな吉良ですが、他のラスボスとは一味違った魅力がある人気キャラクターであるのもまた事実。今回はそんな吉良吉影の怖さと魅力について考察してみました。
1. 吉良吉影に共感できてしまう怖さと魅力
まずは吉良吉影に共感してしまうという点についてです。吉良といえば「植物の心のような平穏な生活を送りたい」という人生哲学を持っていましたが、この「平穏に生きたい」という願望自体に共感する人もきっといるはず。誰もがジョセフのようなハチャメチャ人生を送りたいわけではないよね。
でもやっぱり吉良は平穏で満足できる性質ではなかったんですよね~…静かに暮らしたいなんて言いながらも、部屋には3位入賞のトロフィーや盾がズラリ。本当に静かでいたいなら3位すらも目指さないはずですが、抑えきれない自己承認欲求とプライドがあるんだろうな~…
「目立ちたくない」「でも人から認められたい」といった矛盾や相反した感情は誰もが持つところ。バズりたくはないけれど、ちょっとは「いいね」されたいな~とかね。人間、他人から無視されるのはイヤなんでしょうね…危なすぎる殺人鬼にも関わらず、どこか共感できてしまう。そんな人間味を感じるところが、吉良の魅力のひとつなのかもしれません。

2. 吉良吉影の最大の魅力は「理解不能」な怖さ!?
でもね~~~吉良の最大の魅力は共感できることではないと思うんですよね~…むしろ「共感できないこと」こそが魅力ではないでしょうか。ということで今度は、吉良がいかに難解な人物かという点について考察してみます。
まず歴代ラスボスと比較してみると…DIOは「恐怖を克服したい」、ディアボロは「絶頂でいたい」など悪役なりの向上心や美学がある中で、殺人や第三者への被害を及ぼしていました。内容の良し悪しはさておき、その哲学自体を理解することは難しくないはずです。
一方で吉良の犯行動機は「女性の手は最高!」と手フェチですら理解できるかどうか…という理由。DIOらのようなポリシーがあるのではなく、自分の欲望にまっしぐらなんですよね~…しかも「手が好きすぎて殺人を…」となれば悩むものですが、吉良は「自分は生まれつき人を殺さずにはいられないサガ」と犯罪を犯す自分を受け入れてしまっているのも恐ろしいところ。美那子ちゃんに爪切りを頼んだ時も「持って生まれた趣味なので前向きに行動している」と話していたもんな~…
他にも「爪が伸びると殺人願望をコントロールできなくなる」など理解しがたい性質だらけの吉良さん。それだけでも濃すぎるキャラクターですが、そんな異端な自分と心中する覚悟が決まっているところも魅力なのかもしれないよね。ウジウジしない潔さよ…!

読者に怖さを昇華させない吉良吉影の魅力
吉良の怖さと理解不能さについてもう少し見ていきます。なぜ女性の手だけに惹かれて女性との関係を築こうとしないのか、あれだけ愛でていたのに腐敗するとサクッと「手を切る」ことができるのか…どこを切り取っても、彼にしかわからない理由が多すぎる吉良さん。あとは「モナリザの手に興奮した」と暴露するとかね。紳士なふりして下品なんですよね…フフ…
それもそのはず吉良の行動ってまったく論理的ではないんですよね~…「バレるのがイヤなのに持ち歩いてデートしちゃう」「平穏を好むも、殺人を犯さないといられない」など思考と行動がバラバラで、イマイチ筋が通っていないというか…読者としてはなんとか説明をつけて理解したいと思うところですが、それができない。彼の不可解さと恐怖を論理づけして昇華できないからこそ不気味なんですよね~…
この「つかめそうでつかめない」という理解不能で唯一無二な存在感こそ、吉良というキャラクターの魅力なのではないでしょうか。そもそも吉良にロジカルな思考で挑み、理解しようとすること自体ナンセンスなのかもしれないよね。なんせシリアルキラーだもんな~~~!

吉良吉影はしのぶに魅力を抱いていたのか?
そんな女性に興味を示さず手に一途だった吉良ですが、しのぶちゃんを前に自分の感情に戸惑いを見せていました。猫草戦でサボテンのトゲがしのぶの目に刺さらなかった後のシーンですが、この感情の正体について考えてみます。該当シーンの台詞はこちら。
何だ……?この吉良吉影…ひょっとして 今この女の事を心配したのか?彼女の「目」にサボテンのトゲが刺さらなかった事に…今 心からホッとしたのか…?何だ…この気持ちは…このわたしが他人の女の事を心配するなどと…!いや違う!この女が もし死んだらあの空条承太郎にこの家の事が知られる心配があるだけ…この女が無事でホッとしたのはその事のせいだ…ただそれだけ…荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』42巻 集英社(118-119頁)
プライドの塊である「この吉良吉影」と同格の呼び方をされる「あの空条承太郎」。3部主人公、さすがです。
女性は手だけで十分でデートも早く帰りたがる吉良が、初めて女性を思ったことが伺えますね~!でも吉良にはその感情の正体がわかっていないご様子。つまり吉良は今まで恋心を抱いてこなかったということになります。
後述しますが吉良が恋に疎遠だった原因は、恐らく母親による過保護な教育。吉良を外部から遮断していたのでは?と思われますが、それでもこんな気持ちを覚えたのは、孤独に生きてきた吉良が初めて「女性に頼られる」という男の本能が刺激される事態に直面していたからなんでしょうね~…グイグイ来られてたもんな~!
荒木飛呂彦(1995年)『ジョジョの奇妙な冒険』42巻 集英社(52頁)
なんだかんだでチャーミングでかわいらしいしのぶちゃん。えいっ!えいっ!え~~~~~~いっ!
この後も地下室を見てくるように頼まれたり、猫の死に動揺した彼女を慰めたり、代わりに猫を埋めたり…としのぶのためにせっせと働く吉良さん。平穏な暮らしのための行動ではありますが、そもそも女性に頼られると嬉しくなり、お姫様扱いしたくなるのが男のサガ。男心を刺激してくる女性との生活を経験を通じて「人と暮らすのも思っていたほど悪くない」「彼女を失うと寂しい」と感じてしまったんじゃないかな~…
ということで吉良がしのぶに抱いた感情は初めての恋心で間違いなさそうです。しかしあの吉良に他人と過ごす心地よさに気づかせるなんて…ジョジョの女性キャラはやり手なんだよな~!

3. エド・ゲイン事件と吉良吉影の比較
最後に実際の事件との比較をしてみます。荒木先生は吉良のキャラクター設定を行う際に、サイコキラーについて調べたとのこと。確かにサイコキラーと呼ばれる人間のバックグラウンドを見てみると、犯人である息子と母親との間に過保護、依存、支配といった極端な関係性を築いていることが多いようです。吉良の裏設定にそっくりじゃんね…!
数あるサイコキラー事件の中で今回取り上げたいのが、エド・ゲイン事件。1954年から数年にわたって殺人や墓場荒らしを行い、集めた死体を使って椅子や仮面などの工芸品を製作していたという犯行です。エドの父親はアルコール依存症で職を転々とし、大黒柱として機能していませんでした。代わりに家を守った母親は教えをかたくなに守るクリスチャンで、息子たちには「飲酒は悪」「女性は悪魔の手先」などと語っていたそうです。
こんなバックグラウンドなので、犯行は絶対家庭環境のせいでしょ!と言いたくなります。が、エド・ゲインは犯行動機について「母親に似ていたから殺した」「母親と一体化するために工芸品を作った」と述べる一方、事件の詳細を聞かれると「覚えていない」「わからない」と繰り返したのだとか。嘘発見器でもその供述に嘘がないと判定されています。
今でこそこの「わからない」の正体は、「強いショックによる一時的な記憶の欠落」で、「潜在的には覚えており、だからこそシリアルキラーは満足感を求めて同じ犯罪を繰り返す」と考えられています。でも嘘発見器で取り調べをしていた時代だもんね~…当時としては本人も犯行経緯がよくわからないのだから、他人に理解できるはずがない不気味すぎる事件に見えたはずです。
そんなエド・ゲイン事件は大ヒット映画『サイコ』『羊たちの沈黙』などの設定に影響を与えています。理解できないおぞましさは、人を惹きつけるということなんでしょうね~…ちなみに吉良の元ネタでは?とよく言われる『アメリカン・サイコ』でも、エド・ゲイン事件に言及する台詞が登場しています。
つかめそうでつかめないというエドと吉良に見られる共通点。両者とも不気味なのにどこか目が離せなくなってしまうのは、100%理解させてくれないからこそなのかもしれません。
4部きっての元ネタだらけの男、音石明の話もあります

エド・ゲイン事件から吉良吉影と母親の関係、手を好む理由を考えてみる
エド・ゲイン事件を参考にしながら、吉良の犯行理由をあらためて考えてみます。「殺人を犯さないといられない」「モナリザの手に興奮した」など先天的な要素も多そうな吉良。ただ母親から可愛がりすぎる虐待を受けていたという裏設定がある以上、犯行動機は家庭環境に関わるものと荒木先生は考えていたはずです。
でね、エドもまた母親の過干渉があったようで…母親が厳格すぎるクリスチャンだったゆえに「女性は淫乱」「性行為は罪深い」と教え込まれたり、都会の悪影響から守ろうと田舎に引っ越したりしていたそうです。これらの人との関わりから遠ざけるような行動はエドを孤立させただろうし、母親こそ唯一無二の尊い女性と信じて疑わなかったはず。「母親と一体化したかった」という犯行動機もこんなところが影響しているんじゃないかな…
で、もし母親の過干渉を受けた吉良も同じ道を辿っていたとしたら…何にでも口を出し、守ってくれる母親こそ自分の全て!と考えていたのかもしれないよね。女性との付き合いに興味がなく、関係も持たなかったらしいのも、母親との極端な関係性ゆえではないでしょうか。
手を好むというのも単なるフェチではないように見えてきますよね~…母親と一体化したがったエドのように、吉良にとって手は母親を象徴するものなのかもしれません。ふっくらとしたモナリザの手に惹かれたのも、包容力や優しさを感じられるゆえだったりとかね。
手を眺めるだけでは飽き足らず繋いでいるのも、相手の手に包み込まれるのが心地よかったのかもしれないですよね~…まあ死後硬直していると思うけど。プロフィールの「大便後にお尻を拭いてもらうと幸せな気持ちになる」という記述なんて、幼少期に母親に世話を焼かれた幸せな記憶を思い出すからでは…?とすら思えてきます。
色々な想像ができそうなところですが、エドの事件を基にすると、吉良も母親の偏った愛情の呪縛から逃げられなかったことが伺えます。でも殺人も手を好むのもただのサガとフェチといえばそうかもしれないし…やっぱり肝心なところはわからないんだよね~~~~!理屈がつけられない謎な部分があるからこそ、吉良は魅力的なんだろうな~!

まとめ:怖い吉良吉影に魅力を感じてしまうのは「理解不能」だからこそ
吉良吉影の魅力について考察してみました。いくら考えても理解ができないし、論理的な説明もつかない。そんな不可解さ、不気味さこそが吉良の怖さであり、魅力にもつながっているのではないでしょうか。
そして実際のシリアルキラーとの関連も興味深いところですよね~!荒木先生はサスペンス、ホラー映画にもお詳しいので、シリアルキラーを題材にした作品の要素も取り入れているはず。吉良はどこから影響を受けたキャラクターなのか、ぜひお聞きしたいところだよね…!
DIOやアンちゃん、ジャイロにも元ネタがある話



参考文献
ハロルド・シェクター(1995年)『オリジナル・サイコ: 異常殺人者エド・ゲインの素顔』早川書房
ロバート・K・レスラー(2000年)『FBI心理分析官―異常殺人者たちの素顔に迫る衝撃の手記』早川書房
ロバート・K・レスラー(2001年)『FBI心理分析官 2―世界の異常殺人に迫る戦慄のプロファイル』早川書房