ジョジョの映画作品「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」。4部の形兆戦までが描かれた1本です。
ジョジョ初の実写化となったこの作品ですが、今回は原作との違いや実写化について触れながらレビューしてみました。
1. 「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」の感想
最初は映画の感想についてです。ここでは原作との比較を中心に、気になったシーンを取り上げてみました。
原作と実写版の杜王町の雰囲気の違い
まずは杜王町の雰囲気の違いについてです。原作の4部は平和で温かく、コミカルな雰囲気の中で、魔の手がひそかに忍び寄っていた話でした。アニメ版でも町中がカラフルに彩色され、主題歌、挿入曲ともに明るい作品が多かった印象です。
一方でアニメ版は全体的に色彩が暗く、ギャグシーンもほぼなし。シリアスでクールな印象の作品でした。絶対この町で「モーニンモーニンモーニンモーニン杜王町レ~ディオ~♪」なんて流れてないんよ。平和に見える杜王町で残虐な事件が…というギャップを楽しめる設定ではないんですよね~…だから原作の意外性はあんまりないかな~という気がします。最初から最後までシックな杜王町という印象でした。
形兆とアンジェロの関係性と会食シーンについて
次は形兆とアンジェロの関係性を見ていきます。さて原作通り、アンジェロを矢で打ち抜いた形兆。アンジェロが息絶えなかった姿を見て、こんな言葉を発していました。
出会いとは重力、重力とは愛。仲間。おめでとう、お前は選ばれた。
三池崇史監督(2017年)「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」ワーナー・ブラザース
6部のプッチやエンポリオの「人の出会いとは『重力』」の言葉や、最終回のアオリ「引力、即ち愛!!」を参照しているであろう台詞です。人と人の間には引力があるよ~、愛があれば仲間と会えるよ~といった意味でした。
でも形兆は心通じ合う仲間が欲しいのではないんですよね~~~…原作でアンジェロに「君のような才能を持つ仲間がほしい」と口にしたように、あくまでも「父親を殺せる能力を持ち、自分たちに協力してくれる都合のいい人」という意味な訳で。徐倫たちのように、愛ある仲間ではないんじゃないんだよな~…
だから重力はまだしも、愛はちょっと言い過ぎかな~…という気がします。ジョジョの運命論的な台詞を取り入れるのはすごく面白かったんだけど、愛はどうなんだろうな~…う~~~~ん…
6部の愛の話はこちらでも触れてみました
そんな形兆とアンジェロは2人きりでお食事をするんですよね~~~~!びっくり~~~!!!そこで明かされたのがアンジェロは父親を殺した過去を持つこと。自分がこうなったのは父親のせいと、心底憎んでいるような描写でした。一方でアンジェロに「親が憎くないか?」と聞かれた兄貴は、思わず目線を逸らしています。父親に対する複雑な心境が伝わってきますよね~…
さらにアンジェロは形兆の父親を「いつでも始末してやる」と提案をするも、これには形兆ブチギレ。スタンド攻撃を繰り出すほどでしたが、会食シーンを挟むことで父親を憎むだけのアンジェロに対し、形兆は愛情があるからこその割り切れない感情を抱いていることが強調されていたように思います。でもここまで両者の父親に対する感情が違うんだから、やっぱり形兆とアンジェロは絶対に共闘できないし、愛ある仲間にはなれないんよ…
あと比較されているといえば、アンジェロとの形兆のテーブルマナーの違いね!育ちの善し悪しがもろに出るところですが、アンジェロがナイフで肉をはがしたりと独特な食べ方をする傍らで、美しい所作を見せる形兆。なんとラインスタンプにもなってるからね!!これがスタンプ。どこで使うんや!
ということで、実写版では形兆とアンジェロの父親に対する感情、そして育った環境など、細かな対比がされていたように思います。形兆は「愛」という言葉を使っていましたが、作中で描かれたのは絶対に愛情が生まれない関係性だったのではないでしょうか。
形兆の涙の意味の違い
形兆の話が出たので、形兆の涙についても見ていきます。原作で形兆が涙を流すのは、父親を殺すスタンド使いを探していると告白したシーンでした。
荒木飛呂彦(2001年)『ジョジョの奇妙な冒険』30巻 集英社(144頁)
血に涙に鼻水に…と顔面をグシャグシャにして泣く兄貴。その後も「おやじを普通に死なせてやりたい」と、息子ならではの複雑な感情を吐露していました。見ているだけで辛い…
一方で実写版ではっきりと涙が映されたのは、億泰をかばって死亡するシーンでした。この違いにより形兆の涙の意味が変わってくるのではないでしょうか。
原作の涙からは、自業自得な父親への怒りと愛情の板挟みになり、苦しみを抱えていたことが伝わってきます。几帳面な性格ゆえか長男の責任感からなのか、父親のことばかり考えて生きてきたゆえの涙ですよね~…しかし映画版では家族を忘れていなかった父親や愛する弟との別れの悲しみ、そして仗助が協力を申し出たり、億泰が止めようとするなど、もう一度親子の幸せな時間を取り戻せる可能性が見えた矢先の死という悔しさなどが感じ取れるのではないでしょうか。形兆はもう後戻りできないって言っていたけれど、戻りたい気持ちもあるはずだからな…
だから涙のタイミングを変えることで原作とは意味が違えど、これはこれで形兆が家族を愛していたことが伝わるシーンだったように思います。ちょっと面白い改変だったな~!
アンジェロ戦における仗助のモチベーションの違い
次はアンジェロ戦における仗助のモチベーションについてです。これね~かなり違いが出ていましたよね~!
原作のアンジェロ戦の流れは、攻撃を受けた良平を治療→死に気づく→アクア・ネックレスと戦う→本体をボコす、の順番でした。治療後すぐに良平の死を悟ると、仗助は「この人の代わりに町とおふくろを守る」と宣言。家具に当たり散らすほどの怒りを抱えながら、モチベーション高くスタンドバトルを展開していきます。
ところが実写版では、攻撃を受けた良平を治療(死には気づかない)→アクア・ネックレスと戦う→良平の死亡に気づく→本体をボコす、の順番です。爺ちゃんは治ったはず!と思って戦っていることになるので、「爺ちゃんを殺すなんて許さねえ!」「爺ちゃんの代わりに皆を守るぞ!」という仗助の正義感やアンジェロへの怒りの描写がちょっと弱いんですよね~…
ただこの後で本体をボコボコにする時には良平の死亡に気づいており、承太郎が仗助に成敗を任せるほどにはキレていたので、ここで仗助の怒りの描写は補完されていたのかな~…とはいえ原作のようにスタンド戦の直前で良平の死に気づいていた方が、より早い段階からアンジェロへの怒りが強く感じられるように思います。
良平から仗助への継承の描写
最後にジョジョのキーワードでもある継承についてです。実写版では良平から仗助への継承の描写が強調されていたようでした。例えば良平からの継承の台詞である「この町を守る」宣言ですが、実写版でこの言葉が登場するのは最終盤。その仗助の腕には、長期勤続の記念として良平に贈られた腕時計が…!良平の意志を継ごうとする仗助の心情が、小道具からも伺える一幕ですよね~!
ところで実写版の良平は、モデルガンだよ~~~ん!なんてお茶目なキャラクターではありません。年を重ねても筋トレに励み、町の不良にも声をかける優しく真面目な警察官のイメージです。これ、もしかしたら仗助の優しさは爺ちゃん譲りという描写のなのかもしれないですよね~…朋子に「ジョセフに似てきたかも」と言われても、「似てきたんならじいちゃんさ」と返していたし…
だから実写版の良平から仗助への継承の描写は、原作よりも細かく表現されていたように思います。仗助の性格も明るくお茶目だけどやる時はやるジョセフタイプだった原作に対し、実写版では良平のように真面目で優しいイメージでしたが、こちらも爺ちゃん似という設定ゆえなのかもしれません。
仗助とジョセフと良平爺ちゃんの関係については、こちらで…
2. 実写版「岸辺露伴は動かない」との比較から、実写化に大切なことを考えてみる
次に岸辺露伴シリーズと4部の実写化を比較しつつ、実写化に大切なことを考えてみます。
色々思いつきそうですが、そのひとつは「本質を捉えているか」だと思うんですよね~…例えば承太郎が小柄で弱気でおしゃべりだったら、全然違うやんけ!と思ってしまうように、外見、性格、言動、雰囲気など、押さえておくべきストーリーやキャラクターの特徴の表現が求められるのではないでしょうか。
で、露伴先生はジョースター一族と比べても、比較的さっぱりとした顔立ちで日本人らしさを感じるタイプ。それを演じた高橋一生さんも、日本人らしい顔立ちが魅力的な俳優さんですよね~!
とはいえ、高橋一生さんは露伴と瓜二つという外見ではありません。それでも原作ファンが納得して楽しめたのは、嫌みったらしさ、プライドの高さ、プロ意識、正義感など、内面や言動における露伴先生らしさが随所で表現されていたからではないでしょうか。外見はもちろん大事ですが、演技で露伴とは何者かを表したことも大きかったはず。
で、「ダイヤモンドは砕けない」は、肝心なところがちょっとズレていたんですよね~…仗助の性格ひとつとっても、原作では家族思いで優しく正義感があるのに、髪型のことになるとプッツンしていたはずが、実写版では全体的にクールで、髪型のことでプッツンしても「あの優しい仗助クンが!?」とはならず…性格的なギャップによる面白さが弱かった気がします。あとは杜王町の明るさと凶悪事件のギャップもね~…
もちろんオリジナリティーある設定が面白い作品もありますが、やっぱり原作が好きなファンは、原作の「らしさ」を期待しちゃうんですよね~…そこを外すとどうしても間違い探しみたいな見方になりがちだし…やっぱり話やキャラクターの本質の表現は、実写化において大事なのではないでしょうか。
3. その他「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」の印象的な描写
最後に映画の中でその他気になったことをまとめてみました。
・スタンドCGの美しさよ。ザ・ハンドもバッド・カンパニーもエコーズも良かった。
・承太郎、英語を話す。ジョセフのことは「granpa」と呼んでいた模様。※アニメ版の英語吹替ではじじいは「old man」
・仗助「あいつ、甥っ子のくせにちょっと生意気だぜ」嘘だろ、仗助…
・神木隆之介さん演じる康一くん、ドンピシャすぎる。これは露伴に好かれますわ。
・超ターミネーターっぽいアクア・ネックレス
・ちゃんとサイヤ人化する康一くんの髪
・海外ロケだったせいか、無駄にお洒落な東方家。蛇口とか食器のデザインとか、日本のじゃないやつだ…
・超かわいい子供時代の億泰。形兆兄貴もいい服着てそうでしたね~!
・えっ、形兆の死亡理由がまさかのアレ!?!?!?!?!?
・形兆死亡後に、写真に写る息子たちをなでる虹村父ちゃん。ここちょっと泣けるんよね~
・120分で2巻分しか進んでないやんけ!!!大して何も始まっていない杜王町。
などなど。
あとはただ康一くんに教育熱心なだけの由花子ちゃんね。あのままいくと山岸由花子は恋をしないで終わるんじゃ…寂しい…
まとめ:「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」は実写化の面白さ、難しさともに感じられるのでは
「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」のレビューをしてみました。
実写化ならではの面白さがありつつ、原作とは違う表現もあるこの作品。実写化の難しさを感じさせるところもありますが、良平からの継承や形兆の感情などは、かなり考えられているのではないかな~と思います。
でも第一章が公開されたのが2017年なので、第二章以降はやらなさそうですよね~…吉良吉影、誰がやる予定だったのかな~…モナリザの手のあの台詞、聞きたかったのにな~ その…下品なんですが…フフ…
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