ジョジョの奇妙な冒険7部ことスティール・ボール・ランの主人公であるジョニィ・ジョースター。父親に対して複雑な心情を持つ人物でした。
何度か衝突していた2人ですが、ジョニィは父親にどのような感情を抱いていたのでしょうか。今回はジョニィと父親のジョージとの関係を考察してみました。
1. なぜ父親ジョージはジョニィに厳しいのか
まずは父親ジョージのジョニィ兄弟に対する扱いの差についてです。ジョニィにはとりわけ厳しく接していたジョージですが、ニコラスが他界してからもその態度は変わりませんでした。でもなぜ兄ばかりを贔屓していたのでしょうか。
ジョージは馬乗りの家系に生まれるもジョッキーの才能に恵まれず、調教師になった人物です。だから代々の伝統を引き継げなかったことにどこか引け目を感じているのかもしれません。こちらでも考察しましたが、ジョージは家の格式や他人の目を気にするタイプだからな…
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』10巻 集英社
そんなジョージの調教師の実績は、三冠レース7連覇と折り紙付き。でもジョッキーになれなかった以上、きっと満足できないんですよね~…家の伝統を汚してしまったくらいには思っていたりして…
そんな中でニコラスの才能を発見したジョージは、自分の破れた夢と、馬乗り一家としての伝統を子供に託そうとしたのかもしれません。しかも大出世が見込めるセンスがあるとくれば、目もかけたくなるはずで…ニコラスの成功を自分の手柄として評価されることで、精神的に満たされたかった可能性すらありそうですよね~!一方で兄ほどではないジョニィの能力には、ちょっとがっかりしているんだろうな~…
結局ジョージは、精神的に自立できていないのかもしれません。一族の伝統にこだわるあまり「調教師も悪くない」ではなく「ジョースター家たるものジョッキーでなければいけない」と思い込み、子供にまでその価値観を押しつけ、息子たちの成績を自分事として過剰に一喜一憂する父親になってしまっているように見えます。
ジョースター家の名を冠したジョッキーとしては、ニコラスの方が相応しいと思っていそうなジョージ。息子が好成績を挙げれば親としても鼻高々だわ、同じジョースター家の名を冠する自分も評価される可能性もあるわ…とジョージが喜ぶことばかりだもんね~!だから優秀なニコラスを贔屓し、ジョニィには厳しいのではないでしょうか。
2. 父親ジョージの告白はジョニィに対する懺悔だったのか
次に最終ステージでの懺悔シーンにおけるジョージの心境を考察してみます。レース最終盤でジョニィは客席に現れたジョージを目撃。「まさかこの僕を『応援』に?」と涙を浮かべて通り過ぎていきました。その後ジョージは観客を前に、過去のジョニィへの仕打ちに対する反省の弁を述べています。
荒木飛呂彦(2011年)『STEEL BALL RUN』23巻 集英社
続けて「息子の名前はジョニィ・ジョースター、ひとりぼっちでニューヨークにやってきた」と発言して頭を下げ、観客の拍手に包まれるジョージ。懺悔のようなシーンでしたが、ジョージはどのような気持ちで演説を始めたのでしょうか。
ジョニィの仕打ちを本当に反省していた説
まずはジョージの言葉通り、本当に反省の気持ちがあった説です。これだけ涙を流しているからね~本気で懺悔したい気持ちがあったのかもしれないですよね~!しかも他人の目を気にするジョージが大衆の前で自分の過ちを告白するには、相当の覚悟がいるはずなので、本気の告白と考えることができます。
でね、この懺悔シーンから連想されるのがキリスト教カトリック教会の告解です。『岸辺露伴は動かない』の「懺悔室」で登場した、小部屋に入って罪を告白して神の許しを乞うアレね。7部は遺体などキリスト教との関連があるので、告解がモデルという可能性も十分にありそうです。
ただし告解は「罪を告白→司教、司祭の助言→悔い改めのを決意し、祈りを唱える→罪の赦しを得る」という手順で行われるそうで…ジョージの場合「罪の告白(ジョニィへの酷い仕打ちの告白)」と「罪の赦しを得る(観客の拍手)」に相当するシーンはあるのですが、「司教、司祭の助言」「悔い改めのを決意し、祈りを唱える」というプロセスが抜けています。これちょっと引っかかるよね…
なんせ「結果より過程が大事」というジョジョの世界だからね~!助言はともかく「悔い改めの決意」というかなり大事な過程が抜け、「罪を告白したら赦しを得られた」的な描写だったのが気になるっちゃ気になるんだよな~…まあ観客の前で「もう二度と酷い仕打ちはしません」とか言われてもなんだけどね…
とはいえ、ジョージの流した涙や告解のような行動から考えれば、懺悔は反省の気持ちによるものと想像できるのではないでしょうか。ジョニィはかわいそうだからな~本気の告白であって欲しいよね…!
反省よりもジョニィの良き父親として認められたかった説
もうひとつはジョージが反省よりも他人に認められたいがゆえに駆けつけた説です。息子へ懺悔していたジョージですが、その気持ちはまずジョニィに言うべきでね…大盛況の会場で告白したことで、観客の拍手により過ちへの赦しを得ようとしているかのように見えちゃうんだよな~…
しかもいくら反省の気持ちがあっても、散々傷ついてきたジョニィに伝わらなければ意味がない訳で。これでは下半身不随の名ジョッキーが大復活を果たしたという奇跡的な出来事を利用して、良き父親であることをアピールしているかのようなんですよね…第三者の目が大事だからこそやりそうではあるし…
あとは家系の存続のためにジョニィを呼び戻したかったとかね。家柄を重要視しているジョージなので、ジョースター家が馬乗りの家系として続いていくことは願っていたはずです。でも期待を寄せていたニコラスが死亡し、ジョニィは下半身不随。もはや存続不可能じゃ~~~ん!と思われた矢先、ジョニィの活躍を耳にしたとすれば…意地でも家庭に戻ってきて欲しいと考えるのではないでしょうか。
だからそのためのパフォーマンスとして会場で懺悔し、ジョースター家の名ジョッキー・ジョニィの復活を応援したいという機運を高め、ジョニィの帰還を後押ししようとした、なんて可能性も…なんだか性格の悪い人にしか思えなくなってきましたが、実際良くもないからな。ブーツの件とか、ダニーのアレとか…
ジョージに反省の気持ちはあったのかもしれません。でもそれを他人から評価や家柄を大事にしたい気持ちがを上回っていた可能性も、やっぱり否めないよね~…個人的にはこっちの気がします。
3. 最終ステージに現れた父親を見た時のジョニィの涙の意味
最後にジョニィが見せた涙と心情についてです。最終ステージの会場に駆けつけた父親を見つけたジョニィは、その姿に驚きつつ涙を浮かべて走り去っていきました。
荒木飛呂彦(2011年)『STEEL BALL RUN』24巻 集英社
この涙の意味を考えてみます。まずジョニィの感激や喜びによる涙です。「あの父さんが応援に来てくれた?嬉しい!」とポジティブな感情ね。
だって兄ばかり目にかけていた父親が来てくれるんだもんね~!ジョニィがジョージに望んでいたのは実力を認めてもらうこと、そしてジョッキーとして心から応援してくれることだったはず。そりゃ~~~レースの最中だって涙出ちゃうよね…
でもジョニィは複雑だからな~…他人の評価が大事なジョージなので、ジョニィが優勝争いしていなければ来なかったかもしれないし。しかも持ってきたのは、喧嘩の火種となった、父ご贔屓のニコラスのブーツだもんな~!ジョニィにしてみれば「オレとの楽しい思い出の品の一つも持って来いよ!」という話でね…まさか何もなかったのか…?
しかもヴァレンタイン大統領から彼の父親の話を聞いたジョニィは、父親に対する考え方をこのように述べていました。
父親の事って…あんたのようにそんな風に思うものなのか…僕は一度だって……………自分の父親の事をあんたのような思い出の中に考えた経験なんてない…ただの一瞬も……たとえ異次元に行けたとしても…僕は自分の父を探しになんて決して行ったりしないだろう あんたの方が…「正しい道」なのかもしれない
少なくともここにいる僕よりは……人として「正しい道」を歩いている荒木飛呂彦(2010年)『STEEL BALL RUN』22巻 集英社
異次元を渡り歩いてまで父親に会いたがっていたヴァレンタイン大統領とは違い、そんな気持ちになったことがないと告白するジョニィ。さらにヴァレンタイン大統領を「自分よりは人として正しい」と評価しており、父親に対する感情の歪みや愛情のなさを自覚していることが伺えます。
そんな「ただの一瞬も」誇らしさや愛情を感じたことがなく、縁を切るように離れた父親が突然現れても…ねぇ…父さんがついに応援してくれるなんてハッピ~!うれピ~!という気持ちよりも、困惑や憤りを感じるんじゃないかな~…
やっぱりジョニィの涙は父親と再会した感動や喜びなど、ポジティブな気持ちとは限らない気がするんですよね~…むしろ「何を今更」「やっぱり兄贔屓か」「もう全て遅いのに」という怒りや悔しさ、ジャイロとの出会いで自分なりの居場所を手に入れたことで「もう実家には戻らない」「さようなら父さん」といった別れの気持ちを含んだ涙なのかもしれません。
それにしてもジョニィの人生ってジョースター家史上屈指の悲惨さじゃないか…?胸が痛むわ…
純粋に素敵だった3部最終話の涙の話もあります
まとめ:ジョニィと父親の歩む人生は対極的で、懺悔の気持ちを汲み取るのは難しいのでは
ジョニィと父親ジョージについて、懺悔のシーンを見ながら考察してみました。
ジョニィの家出などにより心が変わった可能性もありそうですが、ジョージの性格を考えると、あの懺悔も本心なのかは怪しいところ。たとえ本心だとしても、タイミングもっとあるやろ感は否めないし…ジョニィに真剣に向き合っての懺悔には見えづらい気がします。
でも兄さんばっかり!と不満タラタラだったジョニィですが、実は親の期待を一身に背負ったニコラスもまた、プレッシャーに苦しんでいたりして…あの父ちゃんだからね…7部の家族模様って、なんかリアルなんだよな~~~~!
参考文献
カトリック大阪高松教区(東部)典礼委員会「ゆるしの秘跡 よい告解のための手引き」http://www.npa.go.jp/hakusyo/h16/hakusho/h16/data/excel/FS040406.xls
(2024年5月15日確認)
過去が複雑すぎるジョジョのキャラクターたちの話もあります~!