ジョジョの奇妙な冒険には、数多くの美術のオマージュが登場します。そこで元ネタとなった作品や、ジョジョに描かれたシーンから連想される美術作品について考察してみました。
今回は5部と「岸辺露伴ルーヴルへ行く」以外の元ネタについてです。この2つは元ネタが多すぎるので、別記事で…
youtube版もよろしければ…!
目次が長い…ヒィッ…!!!
- 扉絵のジョナサンとロダンの「アダム」
- シーザーの横顔とエゴン・シーレの「ほおずきの実のある自画像」
- コミック版の挿絵とエゴン・シーレ、クリムトの作品群
- シュトロハイムのポーズとロダンの「円盤投げ」
- シーザー死亡シーンと茨木春日丘教会
- 花京院のデッサンとキュビズム
- 死神13戦で強行手段をとる花京院典明と「うずくまるヴィーナス」
- 花京院典明の死亡シーンと磔刑図、キリスト降架図
- 東方仗助が壊した棚とダリの「記憶の固執」
- 杉本鈴美の髪の毛とミュシャ
- シンデレラで治療を受ける山岸由花子とロダンの「殉教者」
- 山岸由花子と広瀬康一のキスシーンとクリムトの「接吻」
- キラー・クイーンのジョジョ立ちとダ・ヴィンチの「洗礼者ヨハネ」
- 宮本輝之輔のエニグマとエッシャーの「昼と夜」
- 東方仗助のジョジョ立ちとミケランジェロの「抵抗する奴隷」
- エンポリオの部屋の絵画とリキテンスタイン
- ミラションが懺悔した部屋とフェルメールの「地理学者」
- ドラゴンズ・ドリームの波と葛飾北斎の「女浪図」
- プッチが落とした本とフィリッポ・リッピ
- ウンガロのボヘミアン・ラプソディ―とボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」
- ウンガロのボヘミアン・ラプソディ―とゴッホの自画像
- プッチの過去に登場した教会とニューヨークのセント・パトリック大聖堂
- ジャイロの回想シーンとダ・ヴィンチによる「ウィトルウィウス的人体図」
- フェルディナンド博士の説明とサンピエトロ大聖堂の大天蓋
- スティール・ボール・ラン9巻表紙とマグリットの「白紙委任状」
- ブラックモアのキャッチ・ザ・レインボーとマグリットの「ゴルコンダ」
- マイク・Oのチューブラー・ベルズとジェフ・クーンズの「バルーン・ドッグ」
- ディエゴの顔が裂けるシーンと伊藤潤二の「富江」
- 東方邸とフランク・ロイド・ライトの建築
- 「定助!東方フルーツパーラーへ行く」回の扉絵とギリシアの古壺
- 空条仗世文がホリーを思うシーンとミケランジェロの「ピエタ」
- まとめ:ジョジョは美術の元ネタがいっぱい!
扉絵のジョナサンとロダンの「アダム」
まずは1部のジョナサンのポーズについてです。ジョジョファンの間でも、有名なやつですね~!
荒木飛呂彦(1988年)『ジョジョの奇妙な冒険』5巻 集英社(140頁)
元ネタとなったのは、ロダンの「アダム」と推測されています。アダムとイヴで知られるアダムです。
By Auguste Rodin - This file was donated to Wikimedia Commons as part of a project by the Metropolitan Museum of Art. See the Image and Data Resources Open Access Policy, CC0, Link
元ネタを反転して、ジョナサンを描いています。
ロダンは人間の内面を表現した彫刻を制作したことで、名高い人物です。ただそのスタイルが、伝統的な形式に反するものだったため、批判も数多く受けたのだそう…大変だな…
ロダンはイタリア滞在中にミケランジェロの影響を受け、それを体現するために、この作品に取り組んだのだとか。ミケランジェロといえば、荒木先生がよく作品を参考にする人物です。通りでロダンもジョジョ立ちっぽい訳だ…!
そんな理由もあってか、この後もロダンが続々とジョジョの元ネタとして登場します!
ジョナサンと筋肉的キリスト教の話もあります
シーザーの横顔とエゴン・シーレの「ほおずきの実のある自画像」
お次は2部より、シーザーの横顔の描写です。
荒木飛呂彦(1988年)『ジョジョの奇妙な冒険』5巻 集英社(140頁)
元ネタとなったのはエゴン・シーレの「ほおずきの実のある自画像」。オーストリアのレオポルド美術館の所蔵作品で、シーレの代表作と言われるほど、有名な1枚です。
By Egon Schiele - lAGS1DQVHQVm6Q at Google Cultural Institute maximum zoom level, Public Domain, Link
顔の角度はもちろんですが、斜に構えたような表情も似ていますね~!ママミ~ヤ!
シーレは、後ほど登場するクリムトの弟子として絵を学んだ人物でもあります。性行為や人間の死なども画題として扱ったため、官能的な絵も多かったり…
シーレもファンの間では、ジョジョ立ちっぽい!と言われる作品を残したひとり。そのシーレの影響はこんなところにも…!?お次をどうぞ!
コミック版の挿絵とエゴン・シーレ、クリムトの作品群
シーレといえば、コミック版の挿絵もシーレっぽいですよね~!
荒木飛呂彦(1989年)『ジョジョの奇妙な冒険』10巻 集英社(126頁)
シーレの作品やスケッチによく似ているのですが、例えばこちら。こちらは自画像になります。
By Egon Schiele - The Yorck Project (2002) 10.000 Meisterwerke der Malerei (DVD-ROM), distributed by DIRECTMEDIA Publishing GmbH. ISBN: 3936122202., Public Domain, Link
線のラフな感じが似ています。本編にはないキャラクターの表情なんかが描かれており、コミック版ならではのお楽しみ!
そしてこの頃の荒木先生、幾何学模様に凝っているようで、他の挿絵も面白い模様が描かれています~!
荒木飛呂彦(1989年)『ジョジョの奇妙な冒険』9巻 集英社(106頁)
この模様で思い出すのが、クリムトの作品群です。
グスタフ・クリムト - Národní galerie, パブリック・ドメイン, リンクによる
目玉っぽかったり幾何学模様だったり…この辺りが元ネタではないでしょうか。クリムトの元ネタは、4部の山岸由花子関連でも登場することで有名ですが、荒木先生はかなり初期からクリムトを意識していたのかもしれません。
クリムトについては、後ほど由花子ちゃんのところで解説します!
シュトロハイムのポーズとロダンの「円盤投げ」
シュトロハイムのポージングについても見ていきます。注目したいのはアニメ版のこのシーンです。
ジョジョの奇妙な冒険: JOJO vs. 究極生物 . TOKYO MX, 2013-01-05.(テレビ番組)
すっごいポーズしてる…こちらに似ているな~と思ったのが、ミュロンの「円盤投げ」。こちらはオリジナルのコピー作品になります。
By RickyBennison - Own work, CC0, Link
「円盤投げ」を反転したポーズが、シュトロハイムに似てません…?原作ではシュトロハイムの腕が腕組みをするような格好でのみ描かれているので、大きく腕を広げたこのポーズはアニメオリジナルになります。
荒木先生の美術好きを知っているからなのか、アニメ版でも美術っぽいネタの多いジョジョ。アニメスタッフは本気のジョジョ好きだらけらしいので、美術ネタを取り入れているのかもしれません。
そしてアニメオリジナルといえば、もう一つ印象的だったのが、2部のあのシーン。お次をどうぞ!
シーザー死亡シーンと茨木春日丘教会
2部のアニメ版オリジナルで印象的なシーンといえば、シーザー死亡のこの場面。
ジョジョの奇妙な冒険: シーザー孤独の青春. TOKYO MX, 2013-02-23.(テレビ番組)
シィィィィ~~~~ザァァァァァァ~~~~~!!!!
何度見ても哀しいこのシーン…光の形が十字架を連想させますが、もしかしたらこんなのを意識しているのかな~と思われるのが、大阪府の茨木春日丘教会。「光の教会」なんて呼ばれています。
By taken by Bergmann - ja:Image:Ibaraki_Kasugaoka_Church_Light_Cross.JPG, CC BY-SA 3.0, Link
こちらも光の差し込み方が十字となっており、ちょっと似ているところ。シーザーの死亡シーンは、もしかしたらこんなところを参考にしていたのかもしれません。それにしても、いいアニオリ演出ですよね~!シィ~~~ザァ~~~~~~!
花京院のデッサンとキュビズム
お次は3部より、花京院が描いた承太郎のデッサンです。
荒木飛呂彦(1989年)『ジョジョの奇妙な冒険』13巻 集英社(76頁)
顔と胴体の手のかけ方の差がすごい。独特過ぎる画風…
まぁ承太郎待っている間に描いただけだし…と言われればそうなんですが、なんだか気になるこの作品。…というか、ちょっとキュビズムっぽいんですよね~…!キュビズムとは、対象を複数の視点から見て描こうとした芸術運動のこと。画家によっては対象を単純に描いたり、なんて表現も取り入れています。
で、花京院の絵を見てみると、鎖を丸に単純化しているし、直線的な胴体なんかピカソの「アヴィニョンの娘たち」感ある…ニューヨーク近代美術館の所蔵作品です。
By Pablo Picasso - Museum of Modern Art, New York, PD-US, Link
オマージュかどうかは分かりませんが、花京院はキュビズムを目指していた…?と思うと、ちょっと面白いシーンなのでした。花京院先生の次回作も、見てみたかったな~!
死神13戦で強行手段をとる花京院典明と「うずくまるヴィーナス」
お次は死神13戦の花京院です。赤ちゃんを攻撃しようとする際に、特徴的なポーズをとっていました。
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』18巻 集英社(184頁)
教皇だけに強行手段ね!(やかましいわ)
ちなみに教皇と花京院の話もあります。
で、このポーズから連想されるのが、ルーヴル美術館が所蔵している「うずくまるヴィーナス」です。
足のポーズや腕の向きなどが、割と似てないですかね…?これに首と手をつけ足したら、花京院っぽくなる気が…
「岸辺露伴ルーヴルに行く」でも、ルーヴル美術館の作品のオマージュをしている荒木先生。花京院のポーズも、もしかしたらルーヴル作品が元ネタなのかもしれません。
「岸辺露伴ルーヴルに行く」の元ネタについては、こちらをどうぞ~!
花京院典明の死亡シーンと磔刑図、キリスト降架図
次は花京院の死亡シーンについてです。また花京院かい!
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』27巻 集英社(158頁)
花京院ンンンンー…ジョジョファンの心をえぐる場面ですが、だらっとした腕や交差する足が特徴的なポージング。ここから連想されるのが、「キリスト磔刑」や「キリスト降架」の美術作品です。こちらはキリスト降架の1枚。
ロヒール・ファン・デル・ウェイデン - Originally from en.wikipedia; description page is/was here.Source: http://www.kfki.hu/~arthp/html/w/weyden/rogier/01deposi/index.html, パブリック・ドメイン, リンクによる
他の磔刑図やキリスト降架図でも手の伸ばし方や、足の交差の仕方が似ているものがあるので、いくつかの作品を組み合わせたり、一部だけ参考にしたんじゃないかな…という気がします。
花京院とキリスト教については、こちらもどうぞ~!
東方仗助が壊した棚とダリの「記憶の固執」
続いて4部です。まずはアンジェロにプッツンした仗助が、壊した棚について見てみます。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』29巻 集英社(118頁)
だいぶ派手にやらかしたな~~~~!
で、注目したいのは棚の中央にある曲げられた時計。これがダリの「記憶の固執」の時計に似ています。
Por Fonte, Conteúdo restrito, Hiperligação
シュルレアリスムの画家として名高いダリですが、「記憶の固執」の時計は、カマンベールチーズが溶ける様子からインスピレーションを受けて描いたのだとか。
ちなみにこの時計は、5部でスパイス・ガールが破壊した時計でもオマージュされています。
そして溶けると言えば、6部のジョンガリ・A戦の幻覚も、どろどろに溶けた表現でした。こちらもダリが元ネタだったりして…
杉本鈴美の髪の毛とミュシャ
次に杉本鈴美の髪を見ていきます。ちょっと後ろ髪が特徴的な描き方なんですよね~!
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険 』36巻 集英社(28頁)
穴が開いたような表現ですが、これがミュシャの髪の描き方にそっくり!こちらはミュシャの四季の1枚「春」で、チェコのミュシャ美術館が所蔵しています。
By Alphonse Mucha - http://neat-stuff-blog.blogspot.fr/2011/10/seasons-by-alphonse-mucha-1897.html, Public Domain, Link
他の作品でも見られる、この髪の穴開き表現。ミュシャの独特の画風です。
ミュシャは、数多くのポスターを手掛けいることでも有名な画家。植物などを用いたアール・ヌーヴォーの表現を確立した人物のひとりでもあります。日本でも人気がありますよね~!
そして4部アニメの「山岸由花子は恋をする」の回も、ミュシャのオマージュだらけ。由花子ちゃん関連で何かと元ネタになっている、ミュシャなのでした。
アニメ版「山岸由花子は恋をする」とミュシャについては、こちらで詳しく解説しています~!
シンデレラで治療を受ける山岸由花子とロダンの「殉教者」
お次はシンデレラで治療を受ける由花子ちゃんが、寝そべっているシーンです。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』37巻 集英社(174頁)
高校生とは思えない色っぽさ…!辻彩先生も思わず腕を振るってしまった訳ですが、なんか元ネタがありそうなポーズですよね~…例えばロダンの「殉教者」とか。フランスのロダン美術館などで見ることが出来る作品です。
By Museo Soumaya - Museo Soumaya, Public Domain, Link
足の角度が違いますが、上半身は似たポージングです。ロダンはよく元ネタに使われているので、もしかしたら由花子ちゃんのポーズもこの辺りのオマージュという可能性もあるかも!?
山岸由花子と広瀬康一のキスシーンとクリムトの「接吻」
そして由花子ちゃんといえばこのシーン!大好きな康一とのキスシーンです。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』38巻 集英社(24頁)
康一くんの首が90度近く曲がっているのが特徴的なポーズでしたが、元ネタとなったはクリムトの「接吻」。
クリムトは、伝統的な芸術からの分離を目指した「ウィーン分離派」の創始者のひとり。女性や裸体などの画題を扱い、後期作品ではパトロンからの支援を受けながら、金箔を多用した作品制作に打ち込んでいます。
「接吻」も後期作品の1枚で、モデルはクリムトと恋人のエミーリエ・フレーゲと言われています。恋人同士という画題といい、幸せそうな女性の表情といい、由花子ちゃんと康一くんにぴったりです。2人ともどうかお幸せに…!
山岸由花子と接吻については、こちらで詳しく解説しています~!
キラー・クイーンのジョジョ立ちとダ・ヴィンチの「洗礼者ヨハネ」
そしてこちらも有名どころですが、キラー・クイーンのジョジョ立ちを見てみます。
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(54頁)
元ネタと言われているのが、ルーヴル美術館所蔵のダ・ヴィンチの「洗礼者ヨハネ」。こちらは上半身だけですが、指を上に向けるポーズが同じです。
右手を突き上げるポーズがそっくり!ダ・ヴィンチをオマージュしてくるなんて、洒落たスタンドだな~!
吉良吉影は「モナリザ」がきっかけで、異常なまでに手に執着するようになってしまいます。そして「モナリザ」と「洗礼者聖ヨハネ」の作者は同じダ・ヴィンチ…と共通点が。「モナリザ」に心惹かれた吉良から、ダ・ヴィンチ作品をオマージュしたスタンドが現れるのも自然なことなのかもしれません。
吉良吉影とダ・ヴィンチの関係については、こちらで詳しく解説しています~!
宮本輝之輔のエニグマとエッシャーの「昼と夜」
お次は宮本輝之輔のエニグマについて、見てみます。こんな描写でした。ドゴン!!!
荒木飛呂彦(1994年)『ジョジョの奇妙な冒険』39巻 集英社(54頁)
2つのモチーフが交互に組み合わされて繰り返し続いてます。なんか怖いよな~…!こちらは手の模様でしたが、東方明子が交互に組み合わされているパターンもありました。
そしてこの元ネタと考えられるのが、エッシャーの「昼と夜」です。
【who is escher】
エッシャーは子供の頃、パンの上にハムをちぎって、隙間なく並べてから食べるという遊びを行っていたそうです。エッシャーの作品に見られる反復やテセレーション(敷き詰め)は非常に元型的なものの影響がみられると言われています。《昼と夜》1938年 pic.twitter.com/Z4L8TSAVLn— KING&QUEEN展 (@king_queen_ten) April 16, 2018
こちらも2つのモチーフが組み合わせで構成されています。「昼と夜」は白黒の作品になりますが、アニメ版やカラー版コミックスのエニグマは、黒、白、紫を基調とした色彩で表現されていました。これはこれで不気味でかっこいい…!
東方仗助のジョジョ立ちとミケランジェロの「抵抗する奴隷」
そして仗助のジョジョ立ちについても見ていきます。注目したいのは、グッズ等に使われているアニメ版のこの1枚。
【アニメーションシリーズキービジュアルによるデジタルコンテンツ配布キャンペーン!!】
各キャラクターのTwitterアイコン・ヘッダー・スマホ壁紙・PC壁紙を毎週金曜日に一点ずつ公開中!!
今週は仗助のスマホ壁紙を更新!!▶︎https://t.co/nsMwmUXpRI#jojo_anime pic.twitter.com/YFyg8JhEHq
— TVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険』公式 (@anime_jojo) February 26, 2021
腰をぐぐっと後ろに引いたS字のようなポーズでした。この元ネタと考えられそうなのが、ルーヴル美術館が所蔵しているミケランジェロの「抵抗する奴隷」です。
By Jörg Bittner Unna - Own work, CC BY-SA 3.0, Link
腰を引きながら体をねじるポーズが、ちょっと仗助っぽいような。
5部で何度も取り入れられている、ミケランジェロ。ジョジョっぽい肉体美や体のひねりが見られる作品が多いので、仗助のポージングもこの辺りを取り入れているのかもしれません。
5部の美術の元ネタについては、こちらをどうぞ~!
エンポリオの部屋の絵画とリキテンスタイン
お次は6部から、エンポリオの部屋にかけてあったこちらの絵画です。
荒木飛呂彦(2000年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』3巻 集英社(139頁)
エンポリオ少年曰く、リキテンシュタイン作だそう。リキテンスタイン(リキテン”シュ”タイン表記もありますが、恐らくこっちのがメジャー)は、ポップアートの代表的な画家。特にマンガのコマを拡大したような作品が有名です。
By http://www.lichtensteinfoundation.org/0277.htm, Fair use, Link
エンポリオ少年が言っているとおり、画風は完全にリキテンスタインなんですよね~!ただぴったり合致する作品が、なぜか見つからない…もしかして荒木先生オリジナルとか…?ってことはさ…
エンポリオくん、それ偽物や。
画集もリキテンスタイン財団のホームページに掲載されている作品も、全部見たんだけどな~…いや、でもリサーチが足りないのかもしれない。なんかごめんよ、エンポリオ少年…
ミラションが懺悔した部屋とフェルメールの「地理学者」
続きまして、ミラションがプッチに懺悔していた部屋についてです。こちらのお部屋になります。
荒木飛呂彦(2000年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』4巻 集英社(137頁)
左に窓、後ろに絵、椅子、棚、地球儀が配置してありました。この部屋の元ネタはフェルメールの作品で、恐らく「地理学者」だと思われます。ドイツのシュテーデル美術館の所蔵作品です。
By Johannes Vermeer - xQFs38J6ShT4nA — Google Arts & Culture, Public Domain, Link
雰囲気が似ていますね~!ミラションが懺悔した部屋の窓は左側に描かれていますが、「地理学者」も窓は左側…というか、フェルメールが描いた室内の作品では、窓の位置はほとんど画面の左なのです。
さらに地球儀、棚、椅子、絵と、画面の後ろに配置されているアイテムに共通点があります。懺悔した部屋にかけてある絵には、マリアらしき人物が描かれていますが、フェルメールも絵の中の絵にキリスト教関連の絵画を描いていたりするので、その辺りもオマージュ的にはぴったり!
それにしても荒木先生、フェルメールなんかも見てるんだな…なんだか意外…!
ドラゴンズ・ドリームの波と葛飾北斎の「女浪図」
ドラゴンズ・ドリーム戦での波の表現です。
荒木飛呂彦(2001年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』8巻 集英社(92-93頁)
ぐるっと渦を描く波がかっこいいこのシーン。ここから連想したのが、葛飾北斎の「女浪図」です。長野県にある北斎館の所蔵作品になります。波の部分はこんな感じ。
葛飾北斎 - http://visipix.com/index.html, パブリック・ドメイン, リンクによる
北斎に比べてシンプルな波ではありますが、ぐるぐるっと渦を巻く感じに共通点が見られますが、どうかな…似てるかな…(心配性)
微妙っちゃ微妙なのですが、これを取り上げたのは、荒木先生が他にも北斎ネタを使ってるからなんですよね~!
「神奈川沖浪裏」などの波や、富士山を描いた「冨嶽三十六景」が世界的にも有名な北斎ですが、荒木先生は、東京パラリンピックのポスターで「神奈川沖浪裏」をオマージュしていました。またジョジョ展のポスターでも、「冨嶽三十六景」のような富士山が描かれていたり。
そんな経緯もあるので、もしかしたら北斎が元ネタの可能性があるかも…?あったらいいな…!
北斎とジョジョ関連のポスターについては、こちらで解説しています~!
プッチが落とした本とフィリッポ・リッピ
そしてプッチが初めてDIOと出会った時に、床に落とした本の題名の「フィリッポ・リッピ」についても見ていきます。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(13頁)
本の元ネタはイタリアの画家、フィリッポ・リッピのことでしょうね~!リッピは修道士だったにも関わらず、30歳ほど年下の女性と駆け落ち同然のスキャンダルを起こすなど、なかなか女性関係が派手な人物でした。ただし芸術の才能は評価されていたため、芸術家を支援していたメディチ家に、この女性との夫婦関係を認められたのだとか。
プッチも興味深い本を選んでいますが、リッピの生涯を知っている辺り、DIOの美術史の知識も伺えるこのシーン…そういえば貴族の家で育っていたもんね~!多少教養があるのはそのせいかもしれません。
プッチとイタリア美術の関係については、こちらもどうぞ~!
ウンガロのボヘミアン・ラプソディ―とボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」
ウンガロのボヘミアン・ラプソディ―にも注目してみます。色々な美術ネタが散りばめられていましたが、まずはこのシーンから。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』12巻 集英社(174頁)
裸体の女性が貝殻を携えて現れていましたが、元ネタとなったのはイタリアのウフィツィ美術館所蔵のボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」です。ボッティチェリは、先ほど登場したフィリッポ・リッピの弟子にあたります。
超~~~~~有名な絵画ですね~!
「引力、即ち愛!!」のアオリでも知られる6部ですが、この中央に描かれたヴィーナスは愛の女神。妙な共通点がある訳のが気になるところですね~!意図的だったら面白いな~!
6部のテーマについては、こちらで解説しています~!
ウンガロのボヘミアン・ラプソディ―とゴッホの自画像
次にウンガロのボヘミアン・ラプソディ―で具現化した、もうひとつの美術ネタを見てみます。
荒木飛呂彦(2002年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』13巻 集英社(8頁)
原作でも言及されていたように、元ネタはオランダの印象派画家である、ヴィンセント・ファン・ゴッホの自画像です。自画像を何枚も描いているゴッホですが、自分で耳を切り落とした後の1枚が現実化されました。
By Vincent van Gogh- repro from artbook, Public Domain, Link
片耳の怪我だけではなく、帽子やコートのデザインも同じです。さらにパイプの円形状の煙まで再現されています。荒木先生、細かいな~!
精神的な問題により、耳を負傷したとも言われているゴッホ。しかもゴッホはその耳を、知り合いの女性に渡しに行ったのだとか。もうこの人、ハチャメチャすぎる。
警察沙汰になり、入院することになるのですが、その時に描いたと言われているのがこの自画像なのです。ということは、精神的に不安定な時期のゴッホを現実化しちゃったんだな…
ボヘミアン・ラプソディーの元ネタについては、こちらで…
プッチの過去に登場した教会とニューヨークのセント・パトリック大聖堂
続きまして、プッチの過去の回想シーンで登場した教会を見てみます。
荒木飛呂彦(2003年)『ジョジョの奇妙な冒険 第6部ストーンオーシャン』15巻 集英社(20頁)
三角お屋根が特徴的で、ビルの横に建っているらしいこの教会。元ネタとなったのは、ニューヨークのセント・パトリック大聖堂です。
荘厳さとスタイリッシュさを兼ね備えていて、かっぴょいい~~~~~!!!!
登場入口上部のバラ窓のステンドグラスや、ティファニーがデザインした祭壇など、見どころたくさんなこの教会。「スパイダーマン」など、様々な映画のロケ地としても有名です。
またプッチも神父と呼ばれていることからカトリックの職に就いていることが伺えますが、このセント・パトリック教会もカトリックの教会。教派も統一してありますね~!この辺は荒木先生のこだわりなのでは…!?
ジャイロの回想シーンとダ・ヴィンチによる「ウィトルウィウス的人体図」
続いて7部です。まずはジャイロの回想シーンのこちらに注目!
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』4巻 集英社(99頁)
こちらの元ネタはダ・ヴィンチによる「ウィトルウィウス的人体図」です。イタリアのアカデミア美術館に所蔵されています。
Par Paris Orlando — Travail personnel, CC BY-SA 4.0, Lien
こちらはウィトルウィウスの「建築家論」を基に、人体比率を研究したダ・ヴィンチが描いた1枚です。今まで円の半径と正方形の長さの比率が黄金比だ!と言われてきましたが、最近は違うんじゃ…という説もチラホラ。
で、黄金比といえば7部の超重要なお話。荒木先生は「ウィトルウィウス的人体図」を見ながら、7部の大事な要素を考え出していたのかもしれません。
フェルディナンド博士の説明とサンピエトロ大聖堂の大天蓋
続いてフェルデナンド博士の説明シーンのこの場面を見てみます。
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』7巻 集英社(23頁)
大きな天蓋が描かれていますが、元ネタになったのは、バチカンのサンピエトロ大聖堂にある大天蓋です。
作者は17世紀イタリアで活躍したベルニーニ。この人の作品もジョジョ立ちっぽいポージングが多いんですよね~!また5部の元ネタとしては、ディアボロの攻撃を食らったナランチャを助けようと、ジョルノたちが重なり合いながら手を伸ばすシーンも、なんだかベルニーニの作品っぽかったり…
このサンピエトロ大聖堂では、ジョジョのポージングで何度も使われたミケランジェロの「ピエタ」も見ることが出来ます。ご旅行の際には、この大天蓋も併せてぜひ…!
スティール・ボール・ラン9巻表紙とマグリットの「白紙委任状」
お次は9巻の表紙から見てみます。
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』9巻 集英社
んま~~~~~~だまし絵っぽいですね~!木の間にジョニィ、スローダンサーが擬態しているように描かれています。
この元ネタと考えられる作品は、宮崎県立美術館所蔵のマグリットの「白紙委任状」です。1番左の絵になります。
Welcome to René Magritte’s dreamworld ✨ pic.twitter.com/4FmegkOQk1
— National Gallery of Art (@ngadc) April 28, 2022
こちらも女性と馬が、木が交互に描かれているような画風です。よく見ると馬の首元なんて、木のように見えて背景だし、女性の後ろの木は馬の胴体の前で足の後ろと謎の距離感。
それもそのはずマグリットはベルギー出身のシュルレアリスムの画家なんですよね~!どおりで理解が難しい訳ですが、まずどこが「白紙委任状」やねん!っていう…マグリットは題名と画題が一致しないのは、マグリットあるあるなので…
馬と騎手という7部の重要な要素から、元ネタに使ったのかな~と思われるこの作品。でもマグリットのオマージュはまだまだあります。お次をどうぞ!
ブラックモアのキャッチ・ザ・レインボーとマグリットの「ゴルコンダ」
ブラックモアがキャッチ・ザ・レインボーで、雨を固定して歩いていた場面に注目してみます。ブラックモアは、お面もメタルバンドのスリップノットっぽいんだよな…
荒木飛呂彦(2006年)『STEEL BALL RUN』9巻 集英社(12頁)
この元ネタと考えられそうなのが、マグリットの「ゴルコンダ」です。アメリカの美術館、メニル・コレクションが所蔵しています。
この投稿をInstagramで見る
「ゴルゴンタ」とはかつてインド付近に実在した都市の名前のこと。ほら~~また題名と絵が全然違うじゃんか~~~~!!!!
山高帽をかぶった男性が、正面や横を向きながら直線的に並んでいるこの絵画。怪しいような美しいような…不思議な絵画です。マグリットは同じモチーフを何度も作品に取り入れることがあります。そのひとつが山高帽の男性なのですが、もうひとつ有名なのが鳩。
鳩といえば、ブラックモアがルーシーを追っかけるきっかけとなったのが、鳩のメッセージを抜き取ったことでした。鳩、ブラックモア、マグリット…と、繋がりが伺えるこの3者。荒木先生は鳩から、あのキャッチ・ザ・レインボーのシーン連想したのかも…!?
ちなみにジョジョリオン23巻の表紙も、「ゴルコンダ」にそっくり!荒木先生もこの作品を何度も取り入れている辺り、ちょっとマグリットっぽさを感じます!
マイク・Oのチューブラー・ベルズとジェフ・クーンズの「バルーン・ドッグ」
お次はマイク・Oのスタンドであるチューブラー・ベルズについてです。金属を風船にし、バルーンアートのように動物の形にして使用するスタンドでした。こちらはバブル犬になります。
荒木飛呂彦(2007年)『STEEL BALL RUN』13巻 集英社(47頁)
元ネタと考えられるのは、ジェフ・クーンズの「バルーン・ドッグ」です。
By Original work: Jeff KoonsDepiction: Another Believer - Self, CC BY-SA 4.0, Link
「バルーン・ドッグ」はステンレス製で、数十センチから3メートル越えの作品まで複数体あります。金属を風船に変えるチューブラ・ベルズでしたが、クーンズは風船を金属作品に変えているんですね~!この辺りもオマージュっぽいところ。
またチューブラ・ベルズでは白鳥の形をしたバブル鳥も登場していましたが、クーンズはバルーン・アートの白鳥を題材にした「バルーン・スワン」という作品も残しています。他にもバルーン・ラビット、バルーン・モンキーなど、様々な動物を題材にしているクーンズ。もしチューブラ・ベルズがもっと活躍していたら、バブル兎やバブル猿も見られたかも…!?
ディエゴの顔が裂けるシーンと伊藤潤二の「富江」
次はディエゴの顔が引き寄せられるシーンについてです。
荒木飛呂彦(2011年)『STEEL BALL RUN』24巻 集英社(151頁)
こちらに似ているのが、伊藤潤二先生による「富江」です。ちょいグロなので、こちらの検索結果を見てもらえれば…
顔が2つに裂ける表現が似ています。そういえばヘビー・ウェザーのカタツムリ化も、元ネタが伊藤潤二先生の「うずまき」っぽかったり…なんだか他にも伊藤潤二オマージュがありそうですよね~!
ヘビー・ウェザーの元ネタについては、こちらをどうぞ~!
東方邸とフランク・ロイド・ライトの建築
お次は8部より、東方邸の元ネタを考察してみます。こちらが東方邸の外観です。
荒木飛呂彦(2012年)『ジョジョリオン』2巻 集英社(66-67頁)
でかいな~~~~~!!!家も広けりゃ庭も広い…
こちらの元ネタはフランク・ロイド・ライトの建築になります。こちらはそのひとつである、アメリカ・アラバマ州のローゼンバウム邸。
By Mmdoogie- Own work by the original uploader, CC BY-SA 3.0, Link
平たい屋根、連続した縦長の窓、高低差のある庭など、外観だけでもかなり似ています。さらに内装には、縦線が入ったレンガ壁や高い天井など、こちらもライト建築らしさが伺えました。
そして東方邸を手掛けた八木山夜露は、東方フルーツパーラーの建築も任せられていましたが、外観にはやはり縦線の入ったレンガが…!八木山夜露は、ライト風建築を目指していたんですね~!そりゃ~憲助に有能って言われる訳だ…
東方邸とフランク・ロイド・ライトについては、こちらで詳しく解説しています~!
「定助!東方フルーツパーラーへ行く」回の扉絵とギリシアの古壺
東方フルーツパーラーといえば、初登場した時の扉絵の背景にちょっと気になる造形が…
荒木飛呂彦(2014年)『ジョジョリオン』8巻 集英社
黒い男性が走ったり円盤投げをしたり…となかなかアクロバティック。元ネタは古代ギリシアの壺に描かれた絵です。こちらはヴァチカン美術館所蔵のエクセキアスによる「アキレウスとアイアスの将棋図」で、左上の将棋指してる絵の元ネタになります。
他の3つの絵柄は、古代オリンピックの様子を描いた壺でしょうね~!特に走っている壺絵は、かなりいっぱいある印象…
黒色で描かれていることから「黒絵式」と呼ばれている技法は、紀元前7世紀頃から使われていました。エクセキアスはその代表的な絵付師のひとり。ヴァチカン美術館所蔵なので、イタリア大好きな荒木先生が訪れた際に、目に留まったのかもしれません。
空条仗世文がホリーを思うシーンとミケランジェロの「ピエタ」
お次は空条仗世文がホリーを思うシーンについてです。
荒木飛呂彦(2014年)『ジョジョリオン』13巻 集英社
元ネタはバチカン市国のサン・ピエトロ大聖堂で見られる、ミケランジェロの「ピエタ」です。ジョジョでも何度も登場している元ネタですね~!
ギアッチョ戦でジョルノがミスタを抱えているところなど、何度か使われていたこのポーズ。ただこのシーンでは、マリアとホリーの服装も似せているんですよね~!ジョジョの中でも、最もミケランジェロの「ピエタ」に似ているシーンではないでしょうか。
まとめ:ジョジョは美術の元ネタがいっぱい!
ジョジョの美術の元ネタについて、考察してみました。
ドンピシャなものから、もしかしたら元ネタかも…?というものまで、色々ありました。まだ誰も気づいていない元ネタもたくさんあるはずなので、美術ネタ探しを楽しむのもジョジョならではの醍醐味ではないでしょうか。
イタリア美術に限らず、幅広い時代やジャンルの美術作品を取り入れている荒木先生。ジョジョの元ネタを知った上で出かけると、海外旅行がますます楽しくなるかも…!?
ジョジョの美術ネタはこちらもどうぞ~!