ジョジョの奇妙な冒険3部に登場した、花京院典明。3部随一のクールで頭脳派なキャラクターでしたが、承太郎と相撲の話で意気投合したりと、スポーツに興味がありそうな一面を覗かせていました。
そんな花京院のプロフィールには、好きなプロ野球チームは巨人と書かれています。なぜ花京院は巨人ファンというキャラ設定なのか、考察してみました。
1. 花京院の出身地と巨人ファンの関係
まず花京院の出身地について考えていきます。この記事でちょっと触れましたが、花京院は制服が広瀬康一とそっくりだったことから、杜王町出身の疑惑がありました。
そして杜王町のモデルは宮城県仙台市。現在は楽天イーグルスの本拠地がある場所です。今でこそ楽天ファンも多いはずですが、楽天イーグルス創立前はどうだったのかしら…?ということで仙台出身者何名かに聞いてみたところ、昔は巨人ファンが多く、楽天イーグルス創設以降は巨人ファンか、巨人ファンから楽天ファンに変わった人が多いとのこと。
で、花京院が杜王町出身だったとして、花京院が生きていた時代にはまだ楽天イーグルスはありません。つまり野球事情も仙台市をモデルにしていたとすれば、この時代の杜王町には巨人ファンが多い可能性が高い訳です。
このように考えると、花京院の出身地が杜王町であれば、巨人ファンだったこともさほど珍しくはないのかもしれません。
2. 花京院の世代の野球と巨人
次に花京院の世代の巨人についてです。1971年に生まれ、1989年にエジプトで散った花京院ですが、その人生の間に野球関係ではどんな出来事が起きていたのでしょうか。
まず1973年に「プロ野球チップス」が発売されます。コンビニなどで今でも見かけるこれ!
プロ野球選手のカードがオマケでついてくるポテトチップスです。今でこそ12球団色々な選手のカードが展開されていますが、発売当時はそうでもなかったようで、発売元のカルビーによるとこんな事実が…
「当時は巨人人気が最高潮でしたから、カードも巨人中心でした。実際、巨人が強いと、売り上げもいいんです。」
ほ~~~~!!!!巨人人気すごいな!
それもそのはず、1965~1973年には巨人が9年連続日本一となった「V9」を達成していた時期。打線の主軸には王・長嶋が座るなど、選手にも華がありました。まさに黄金時代…!
その人気の高さから、野球中継の全国放送も巨人が中心だったこの時代。花京院が見ていた野球の試合も巨人が多かったはずです。つまり全国的な人気の高さに加えて、メディアで接触する機会が多い球団だったことも、花京院が巨人を好きになるきっかけだったのかもしれません。
ダービー弟戦の野球の話もあります~!
虹村億泰も巨人ファンだった!?
さて当時の巨人人気を伺えるもう一つのシーンがこちら。虹村億泰の子供時代の写真の場面です。
荒木飛呂彦(1992年)『ジョジョの奇妙な冒険』29巻 集英社(50頁)
巨人のメガホンバットを持っているんですよね~。億泰のお母さんが3歳の頃に亡くなっていることから推測すると、この写真は1986年辺りのものかと思われます。つまり花京院が巨人を応援していた時期と、ほぼ同じ頃の写真です。
億泰は杜王町出身ではありません。幼い頃は東京に住んでいたので、巨人ファンなのは地元の球団を応援していただけ…という可能性もあります。でも東京にはヤクルトスワローズの本拠地もあるんじゃ…と思ったのですが、この頃のヤクルトは経営元やチーム名が何度か変わったこともあり、成績が芳しくありませんでした。
このように考えると、億泰が巨人のメガホンバットを持っているのは、同じ東京の球団でも、子供心に強くて人気のある方に惹かれたのからなのかもしれません。何のことない1コマですが、巨人の人気の高さを表しているシーンとも言えそうです。
食レポ職人こと億泰大先生の話もあります。
花京院の親世代の巨人
そして親が好きだった球団を、子供も応援しちゃうことってよくあるよね~!ということで、花京院の親世代の巨人についても見ていきます。
まず花京院が1971年生まれと考えると、両親は大体1950年代生まれと推測されます。物心つく年齢は1960年代になる訳ですが、この頃は「V9」の始まった年。つまり巨人の黄金時代をリアルタイムで見ることが出来た世代です。
そしてその絶大な人気を象徴した言葉として使われたのが「巨人・大鵬・卵焼き」。当時のみんなが好きなものを表すフレーズとして、流行っていたそうです。また1966年には漫画『巨人の星』が連載開始。
ザ・スポ根!!!みたいな絵だな…!
主人公・星飛雄馬が巨人のエースを夢見て奮闘する…というストーリーからも、巨人人気が伺えますね~!
巨人が最強だった時代を知っている花京院の両親は、野球に興味があったのなら、巨人ファンであった可能性は十分にあり得ます。そして両親が応援する様子を見て、息子が巨人ファンになることも、よくある流れなのではないでしょうか。
3. 花京院が巨人ファンであることは何を生み出したのか
最後に花京院のプロフィールに、巨人ファンという記載がある理由を考えてみます。3部では花京院が巨人ファンなだけではなく、ダービー弟との野球ゲーム対決があるなど、野球の話題が時々登場します。これは荒木先生の野球経験や出身地、『巨人の星』を読んでいたことが理由なのかもしれません。
ところで花京院が巨人ファンであることは、キャラクター設定としてどんな意味を持つのでしょうか。
花京院と巨人の親和性と意外性
まず花京院と巨人の親和性について考えてみます。巨人は「常に紳士たれ」を掲げており、服装や髪型の規定も厳しいチームです。これは礼儀正しく律儀で、チームの和を保とうとする気持ちが強い花京院には、性格的にマッチしています。
だから花京院が巨人ファンと聞いて「なんか分かるな~」「キチンとしてるタイプだもんね…」なんて思うのは、この性格とチームカラーの親和性が高いからではないでしょうか。
そして巨人ファンという設定により、より真面目そうなイメージが生まれる効果もありそうです。例えば花京院が巨人ファンではなく、阪神ファンであったならと想像してみると…
…
……
……結構意外じゃない?
花京院に対するイメージが、かなり変わるんじゃないかな~と思います。
熱狂的とか面白いなんてイメージが強い阪神ファンなので、「クールな花京院も意外とそういうとこあるのね~」という印象になるはずです。ポルナレフだとしっくり来るんだけどな…
と考えると、巨人ファンであることで、花京院の真面目で真摯な「花京院らしさ」がより際立つようにも感じます。外野席でバンバン応援している熱心な阪神ファンでも、それはそれで面白いんだけどね…!
巨人ファンであることで生まれた、花京院の人間味
最後になぜ好きな球団が、プロフィールに書かれているのかを考察してみます。好きな映画や色など、個性的な項目が並ぶジョジョのキャラクタープロフィール。花京院には好きな球団が書かれている訳ですが、これによって花京院の人間味が増していると思うんですよね~!
まず野球の前に、花京院とスポーツについて振り返ってみます。運命の車輪戦で、承太郎に「野球は好きか」と聞かれたシーンです。
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』16巻 集英社(197頁)
これを初見で見た時、「花京院相撲大好きなんか~意外だな~~~!」って思いませんでした…?それまでの花京院って、こういうイメージなんですよね…
荒木飛呂彦(1990年)『ジョジョの奇妙な冒険』16巻 集英社(29頁)
アンタ人生何周目?と聞きたくなるようなリアリストっぷり。本当に17歳か?
他にもお茶のお代わりだの「喜びで狂いもだえるのだ」みたいな言葉遊びとか、ちょっとクールでインテリっぽい。そんなイメージだったからこそ、スポーツに熱中する意外な一面が見えたことで、人としての温かみが増したのではないでしょうか。
ましてや承太郎が牢屋で聞いていた相撲中継の通り、この頃は千代の富士が大人気で多くの人がその活躍に注目した時代。花京院もその一人だった…と思うと、クールに見えて意外とミーハーなところがあるのね~とキャラクターの奥深さや親しみやすさも生まれます。
そして野球を楽しみ、人気のある球団を応援していたことも、同じ理由で花京院の印象を変えたはずです。内に引きこもってはいたけれど、外の世界に興味がなかった訳ではなく、野球だって見ていた…と聞くと、より人間味のある印象を受けます。
さらにあの時代で巨人ファンになるのはよくあることで、きっと花京院の周りにもたくさんの巨人ファンがいたはずです。つまり花京院はスタンド能力を除けば、ちょっとクールだけどゲームも相撲も巨人も好きな、どこにでもいる普通の男の子だったのです。そんな高校生が外の世界に目を向けて、勇気を持って悪に立ち向かったからこそ、最期の瞬間まで映えるキャラクターになったのかもしれません。
まとめ:花京院が巨人ファンなのは時代の流れで、人間味を生む効果もあった
花京院がなぜ巨人ファンなのか、考察してみました。
花京院の出身地や当時の人気が反映されているのはもちろん、巨人ファンというだけでキャラクターの厚みを増す上でも一役買っているのかもしれません。友達は作らなかった花京院ですが、ひとりでも野球観戦を楽しんでいたんでしょうね~本当に普通の男の子だ…
野球のデータ化や分析が進んでいる現代ですが、頭脳派の花京院だったら今の野球もめちゃくちゃ楽しめるたりして…球辞苑見てそうだし、プロスピもやってそうだ…しかも強そうだし。このゲーマーめ~~~~~!!!
参考文献
長谷川晶一(2021年)『プロ野球ヒストリー大事典』朝日新聞出版
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