【ジョジョレビュー】4部スピンオフ「The Book」を考察してみた

ジョジョコラム

ジョジョの奇妙な冒険のスピンオフ小説「The Book jojo's bizarre adventure 4th another day」。杜王町で起きた事件に4部のキャラクターが立ち向かう話です。

話の面白さ、キャラクターなど様々な魅力が詰まった一冊ですが、今回は「The Book」について考察しつつ、レビューをしてみました。

※ネタバレががっつりあります!


1. 杜王町のもうひとつのサスペンス

まずは「The Book」のストーリーに注目してみます。「The Book」は正式名称に「jojo's bizarre adventure 4th another day」という言葉が入っているように、もうひとつの4部の物語でした。

そして4部は日常の中に悪が潜んでいるという設定ですが、「The Book」もそれにかなり近い雰囲気で進行します。人通りのある道のビルの間に、1人の女性が突き落とされて生活していたこと、高校生カップルのお付き合いは復讐のためだったこと、などなど…何気ない日々の中に事件が溶け込んでいるんだよな~!怖~~~~~っ!

そんな出来事の舞台となった杜王町のために、4部のキャラクターたちが奮闘していくこの物語。首を突っ込みたがる露伴先生は事件のきっかけを、康一くんはアシストを、仗助や億泰は町の平穏のために戦いを…と、それぞれの性格に合った役割を背負ったキャラクターの活躍が描かれます。

特に仗助は母を傷つけられた怒りが戦う理由のひとつであり、まさに「おれがこの町とおふくろを守りますよ」を体現していました。良平おじいちゃん見てますか~~~~!?立派なお孫さんですよ~!

何気ない日常にゾッとする一面が隠れており、4部のキャラクターがそれぞれのやり方で対峙する。「The Book」はそんなところが、サスペンス調だった4部のスピンオフとしてもぴったりなのではないかな~と思います。

首を突っ込みたがる露伴先生については、こちらで触れています~!

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4部と5部の中間地点の「The Book」

今度は「The Book」に描かれた内容について、5部とも絡めて考えてみます。

「The Book」は2000年1月のお話とのこと。つまり1999年が舞台の4部と、2001年の5部の中間の時期を描いた作品になります。そして時期だけではなく、物語の雰囲気もそれに見合ったものになっているのではないでしょうか。

例えば蓮見琢馬は両親の愛を知らない上に、母を殺されていました。そのことが琢馬が復讐に乗り出すきっかけとなっていましたが、どうあがいても変えられない辛い過去を抱えている様子は、5部を想起させます。虐待を受けていたジョルノ、やむを得ず殺人に手を染めたブチャラティとかね…

そしてそれが4部のような日常に潜む怖さと共に表現される「The Book」は、まさに4部と5部のいいとこどりのような作品なんですよね~!だからサスペンス的な面白さはもちろん、琢馬の過去が違ったものであれば…と想像してしまうような深さを持っているのではないでしょうか。

このように4部と5部の間の出来事を描く「The Book」は、話の雰囲気も両部の要素が上手く混ざり合っている小説のようにも感じられます。この辺は乙一先生の計算なんだろうか…なんにせよ見事だよな~!

5部のテーマについては、こちらの記事もどうぞ~!

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2. 「The Book」のキャラクター

次に「The Book」に描かれたキャラクターについて、見ていきます。ここではキャラクター同士の対比や、役割に注目して考察してみました。

蓮見琢馬と双葉照彦の比較

まず琢馬と父・照彦を比較してみます。2人の最大の共通点とも言えるのが、相手の女性を妊娠させたことです。照彦は偶然だったようですが、琢馬は意図的に復讐の手段として利用しており、望んでいない妊娠という点で似ているのではないでしょうか。

そして両者とも、復讐の目的が殺害ではなかったことも共通しています。照彦は金のありかを知るために、明里を殺さずに劣悪な環境で生かし続けていました。その過酷さといったらもう…

ねむっているとき、足や首筋がくすぐったくて飛びおきたら、鼠の汚物まみれの尻尾が肌にふれていた。(中略)壁をつたってくる水で顔をふき、自分は人間だ、と言い聞かせた。人間の言葉をつぶやこうとしても、舌や喉がやけただれて、ウーウーとしか発音できない。
乙一(2011年)『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』集英社(170-171頁)

衛生状態がとにかく悪いわ、人としての尊厳は失われるわっていうね…またその描写も生々しいんだわ…

まさに生き地獄のような環境を作り出した照彦ですが、琢馬も千帆の妊娠を通して、照彦に耐えがたい苦痛を与えようとしています。しかも溺愛する娘と結ばれていたのは息子だったなんて…父としてのショックは計り知れないはずですが、それを味わわせるために、琢馬は照彦を生かしていました。ヒィッ…

さらに照彦と琢馬は、復讐相手の家族まで巻き込もうとする点も共通しています。照彦は明里の両親を、琢馬は千帆を、復讐のために利用していたり…となんだか親子の血のつながりを感じるよな~…

そして2人の死亡シーンも比較してみると、両者とも生に固執するのではなく、死を淡々と受け入れているように見えます。まず照彦は溺愛していた千帆に殺害されていますが、死ぬ間際には千帆に自身のスタンド能力について冷静に説明していました。許されざる過去を持っていた以上、心のどこかで「娘になら殺されるのも仕方がない」という気持ちがあったのかもしれません。

一方の琢馬は、仗助の救いの手を払いのけ、自ら死を選択しました。「父への復讐が生きがい」と語っていたため、それが完了した後は燃え尽きてしまったのではないでしょうか。生きる目的を失い、圧倒的な記憶だけが積もっていく人生を送るよりも死を…というような気持ちだったのかもしれません。悲しい…

このように照彦と琢馬は、比較するほどに似ているキャラクターに見えます。ジョジョのキーワードである「継承」を想起させるこの2人ですが、それにしても母を傷つけた憎い父に奇しくも似てしまうなんて…皮肉すぎるよな~…

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飛来明里と双葉千帆の比較

次に飛来明里と双葉千帆の比較をしてみます。惨劇に巻き込まれた2人ですが、まず恋人から心から愛されていなかったこと、そしてその相手との子供を妊娠したことが共通点でした。

ただこの2人のすごさは、子供の存在を前向きに捉えることなんですよね~!特に明里は妊娠初期には中絶を考えるも、月日が経つにつれ、子供をビルの隙間から広い世界に行かせようとします。

子供は今、おなかの中でこの光を見ているだろうか。目は見えなくとも、皮膚をすかしてぼんやりと赤く見える太陽を感じているだろうか。おなかの子に教えたかった。これからあなたの行くところには、いつもあの光がふりそそいでいるのだと。乙一(2011年)『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』集英社(304頁)

自分は絶望的な環境にいるけれども、子供には世界の美しさを知って生きて欲しい…そんな母親の愛が感じられるのではないでしょうか。泣ける…

そして千帆も琢馬の復讐のために妊娠させられるものの、悲観するどころか琢馬の人生に意味を見出せると感謝の意を表し、子供を平和な環境で育てることを考えていました。父と琢馬の一件に巻き込まれたことを恨むよりも、明里と同じく、子供を宿した運命を受け入れて、前を向いていることが伺えます。

このように明里と千帆は父親がどのような相手であれ、子供の存在を受け入れ、より良い環境で育つことを願っていたようです。それは2人の精神的なタフさだけではなく、母性本能から生まれた固い決意なのかもしれません。母は強し。

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飛来明里、双葉千帆とメモリー・オブ・ジェットの関係

明里と千帆の共通点についてもう少し…今度は照彦のスタンド能力「メモリー・オブ・ジェット」との関係について、考えてみます。

まずビルの間で暮らす明里は、この能力が原因で誰にも見つけてもらえませんでした。そして最終的には照彦が物資の供給を絶ったことで、死亡してしまいます。エグい、エグすぎる。

ただ照彦はそのエグい力を千帆にも使っていた可能性もあるのではないでしょうか。照彦殺害の重要参考人にも関わらず「母がかばってくれた」という理由だけで、千帆が警察に見つからなかったのはちょっと不自然だもんな…そして杜王町に帰った際に唯一出会った康一くんが通報しなかったのは、彼の優しさはもちろん、スタンド能力に守られていたから、とも考えられそうです。死んでもなお残る父の愛よ…

このように考えると、明里も千帆もメモリー・オブ・ジェットの能力を使われた人物だったのかもしれません。ただし命を奪われた明里に対し、千帆は守られるために能力が作動し、それは照彦の2人の愛し方の対比表現として描かれたのではないでしょうか。

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仗助と蓮見琢馬の比較

お次は仗助と琢馬の比較です。父親の存在を知らずに育ち、母のために戦ったこの2人。一見似ているように見えますが、両者は全く違う人生を歩んでいました。

まずクレイジー・ダイヤモンドにも表れている通り、仗助は優しい性格の持ち主です。それは幼い時に、自分の命を救った不良の影響を受けたことは間違いありません。

さらに父との関係について見てみると、ジョセフとの対面前に「会いたいと思わない」「気まずいだけ」とは言うものの、恨んではいませんでした。理由は恐らく、母がジョセフを愛し続けていたことや、自身を不幸と思っていないこと、そしてジョセフが根っからの悪人ではなさそうと考えていたこと辺りではないかな~と思います。なんせ不動産王になるほどの努力家だもんな~…

そして透明の赤ちゃんを命がけで救出したことで、仗助はジョセフとの距離を縮めただけではなく、父を誇りに思うことができたのではないでしょうか。だから放ってはおかれたものの、父の人間としての素晴らしさを理解し、親として認めていたのではないかな~と思います。

一方の琢馬は、父への復讐だけを胸に人生を歩んできました。仗助を助けた不良のような人物との出会いが描かれておらず、プラスの面で心を打つような出来事がなかったようです。また父の愛を知らないどころか、明里は照彦が原因で無残な死を迎えたことから、父に恨み以外の感情が生まれなくても不思議ではありません

だから仗助と琢馬は似ている部分はあるものの、両者の性格を構成した環境と、父親の人間性が決定的に違うのではないでしょうか。あと仗助に関しては朋子さんの努力や、じいちゃんがいたことも大きいよな~!いい家庭だよな、本当…!

仗助を助けた不良については、こちらで考察しています~!

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救いのある未来を見せた康一くん

そして康一くんについても見ていきます。「The Book」の最重要人物と言っても過言ではない康一くん。4部屈指の優しいナイスガイですが、その真骨頂が表れるのはラストシーンです。康一くんがエコーズを通して千帆にかけた言葉が、物語に救いをもたらします。

「遠くへ! 遠くへ行くんだ! 運命も追ってこない遠くへ!」
乙一(2011年)『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』集英社(372頁)

ジョジョは運命が絶対的な力を持つ世界と読者が知っているからこそ、響くこのお言葉…明里に似ている千帆なので、悲惨な運命から逃れられないかもしれない。それでもなんとか振り切って欲しい。思わずそんな気持ちにすらさせられるのではないでしょうか。

そして「The Book」は、康一くんが千帆と子供に明るい未来が待っていることを願って、幕を閉じます。

神様、あの母と子に慈悲を。二人の行くところに、やすらかな家と食事が用意されていますように。
乙一(2011年)『The Book jojo's bizarre adventure 4th another day』集英社(372頁)

運命に翻弄される千帆に、平和で幸せに暮らせるために必要なものが揃っていて欲しい…それは康一くんの祈りであると同時に、読者も思わず願ってしまうものなのではないでしょうか。なんせやすらかな家に食事、親子への慈悲は、明里が手に入れられなかったものだと読み手は知っているからな…

このように康一くんは、「The Book」を救いのある物語に仕上げる役割があると言えそうです。というか康一くんがいなければ、火サスばりのバッドエンドだからな~!本当、いい台詞だよな~!尊敬するぜ康一くん(承太郎ボイスで)

康一くんをベタ褒めする承太郎の話は、こちらで触れています~!

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3. その他「The Book」の魅力

最後に「The Book」で印象的だったシーンを集めてみました。本筋以外にも楽しい日常が描かれた4部ですが、「The Book」もちょっとしたシーンが楽しめる一冊です。ということで、ざっくり振り返ってみました。

 

・露伴にいいように使われる康一くん(通常運転)

・やっぱり猫に冷たい。ジョジョだからな…

・康一くんと由花子ちゃんがまだ付き合っている。やったね!!!!

・今までに食べたパンの数を覚えている人間、現る。これにはディオもびっくり。

・うますぎるトニオさんの料理

・【悲報】億泰、目が合うだけで女子生徒に逃げられる

・祝福しろ、婚約にはそれが必要だ。なおアナスイのようなピュアな恋心ではない模様。

・黄金の精神を発揮する億泰。アンタそれ花京院…

・康一くん is GOD。尊敬するぜ康(以下略)

 

などなど…4部らしい小ネタが多いのが魅力的な「The Book」。読み応え満点なので、4部ファンの人はもちろん、ジョジョ好きの方はぜひ…!

まとめ:「The Book」はストーリー、キャラクターの描き方が魅力的

「The Book」について、考察とレビューをしてみました。

4部の雰囲気やキャラクターを生かしながら、悲しいサスペンスとして展開していくこの物語。でも読めば読むほど、キャラクター同士の対比やスタンド能力について考察が楽しめるストーリーなのではないでしょうか。

でもやっぱり康一くんなんだよな~!露伴先生に気に入られ、承太郎にも感心された男は伊達じゃないんですよね~!本当に頼もしいヤツだよ…

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